第10話 非常事態
城の玄関ホールでは、ダンデリアムとドリアムが第三王子ダストンと対面していた。ダストンの背後には、四十名ほどの武装した集団がおり、そのうち十名ほどは首に文様のある者たちだった。
ダストンは父ダンデリアムを見た時、少し驚いた顔をしたが、すぐに鋭い視線を向ける。
「父上、お加減は良くなられたのですか? しかし、顔色がまだ優れないようですね」
「私は大丈夫だ。それよりダストン、これは何事だ? 行方が分からないと皆が心配しておったのだぞ。私もだ」
「心配? 父上が家族の心配などするはずはありません! 母上をあんな目に遭わせているのですから!!」
「カーラは、許されぬ過ちを犯したのだ。民の上に立つ者としてはおろか、人として外れたので等しく罰せられたのだ」
「父上は、単に弱くなってしまったのです。あのような者たちの意見を聞いて、母上のことは理解せず……お身体もさることながら、心も弱っています」
「ダストン、お前はまだ世の中を知らぬ。何を吹き込まれたか知らぬが、偏った考えを改め民の上に立つ者の自覚を持つのだ」
「私は……私は、城を出たことで新しい考えを知りました。これまでは、そのようなことを教えてくれる者はいなかったのです。国は強く在らねばなりません。今の父上には、国王としての強さがありません!」
「だまれ、ダストン!」
思わず叫んだドリアムを、ダストンは睨み返す。
「叔父上も、父上が正しいと思っているのですね。残念です。叔父上は強い方だと思ったのに……。しかし、お二人ともご安心ください。これからは、このダストン・ススリードが王位につき、強い国を作っていきます」
「何を言っているのだ……」
「さあ、今です。あの二人を捕えてください!」
ダストンがそう言うと、帝国兵たちが国王ダンデリアムとドリアムに向かって走り出す。勿論、城の兵士たちも既に駆け付け、包囲していた為、すぐに乱闘となる。しかし、ダストンは仮にもまだ第三王子であり、傷つけることはできない。そうしているうちに、ダストンはダンデリアムに近づき、袖の中から円筒形の機械を取り出すと、それをダンデリアムへ向けた。咄嗟に、何かまずいものだと判断したドリアムがダンデリアムを庇い前に立つがほぼ同時に、ダストンが手に持った円筒形の機械がカチッと鳴った——。
「ぅぐう……」
途端にドリアムが苦しそうに呻き、床に膝を突く。四つん這いになり下を向いた顔はブルブルと震え、目は血走り始める。しかし、非情にも、ダストンは更に機械を父ダンデリアムに向ける。ドリアムは渾身の力を振り絞り、立ち上がろうとするが、全身に力が入らず床に崩れ落ちてしまい……再び機械がカチッと鳴った——。
「「ドリーッ!!」」
その瞬間、双子のガカランとランゾウが兵士たちの足元を搔い潜り、滑り込んできた。手には、カミドの店で購入した魔道具を持っている。ガカランが滑り込みながら邪気返しの魔道具を発動させていた。機械から出たと思われる攻撃は、誰にも当たらず跳ね返されたようだった。
すぐさま今度は、ランゾウが治癒の箱をドリアムに持たせる。
「ドリー、これを握っていて。絶対に離さないで」
「国王もここから離れないでください」
ガカランとランゾウがそう言うと、ダンデリアムは鋭い眼光のまま頷く。
「ラ、ランゾウ……他にも邪気返しの魔道具は……持っている……か?」
「うん」
「いいか、よく聞け……どうにか、トアへ連絡するんだ……魔法学校のフ、ロイスに会って……」
「うん、分かった、分かったからもう話さないで! 回復に集中して! ドリーなら大丈夫、絶対大丈夫だから!! ガカラン、お願い!」
「うん、大丈夫……ランゾウ気を付けて!」
双子は泣きそうな目にぐっと力を込めると頷き合う。そして、ランゾウは魔道具を起動しその場を離れた。
魔道具のおかげで、ランゾウに届く攻撃はなく、無事に城の扉から外に出た。それを見たドリアムは薄く開いていた目を閉じたのだった。
一方、二発目以降、手にした呪機が発動しないと思い、ダストンは怒りをぶちまける。
「なんだ?! これしか出ないのか!!」
ダストンがその場でカチカチと呪機のボタンを押すと、近くにいた一人の兵士が倒れた。それを見て喜んだダストンは次々と手あたり次第周りを打ち始めた。
国王ダンデリアムは、その様子をただ見ていることしかできず唇を噛む。ガカランもせめてもと、手が届く距離に倒れてきた王国の兵士を近くに引き寄せるが、どんどん周りの兵士たちが倒れていき、成すすべがない。
その後、広間から外へと伝えられた情報により、城へ集まって来ていた兵士たちも中へ入ることは出来ずに足止めをくらうこととなった。
玄関ホールにいたススリード王国の兵士たちは、全て倒れ苦しそうに呻いている。そんな中、ガカランが手に持つ魔道具により、その一帯は敵が近寄れない空間となっていた。
「なぜ、ここだけ攻撃できないんだ! おい、誰か、剣で切ってみろ!」
近くにいた帝国の兵士が剣で切りかかるが、その攻撃は跳ね返される。
その後、様々な五大魔法も試されたが、全て返されてしまい、ダストンは床をダンダン踏みつける。
「くそっ! 何なんだ?! 魔道具か何かなのか? しかし、それであれば、いずれ使えなくなるだろう。魔力も尽きる。永遠に使える魔道具などないのだからな」
そこから長い睨み合いが続くことになる——。
そして、城を出たランゾウは色々頭を巡らせた上で、騎士団のピオットの元を訪れていた。ピオットならトアのことも知っており、ドリアムが毒に冒された二年間も看病をしてくれた信頼できる人物だからだ。
騎士団に着くと、既に城の情報は伝わっており、出入りをする騎士たちで騒がしかった。ランゾウがピオットの部屋へ行き、ドアをノックするとサッとドアが開かれた。
「ランゾウではありませんか。どうしました? ドリアムの側を離れるなんて……」
「城でドリーが国王を庇って何かにやられた。見えない攻撃。ドリーにトアの魔道具を渡してきた。ガカランが国王とドリーを魔道具で守ってるけど、いつまで持つか分からない」
そこまで一気に話したランゾウは、すっと息を吸う。
「ドリーがトアに会えって言った」
「…………そうですか。分かりました。恐らく、トアに会う最短は……孤児院の警備に当たっている魔法連合の方々に会うことでしょうか……彼らの連絡網なら早くトアに伝えられるかもしれません」
「分かった」
そう言うが早いか、ランゾウは孤児院に向けて走り出す。
(あの子の必死な形相……ドリアム様の状態はかなり深刻なのか……)
王族を守る「影」の一員であるピオットだが、今の命令は「騎士団に待機」であり動くことはできない。ランゾウの様子からも城の緊迫した状況がひしひしと伝わってきて、その危機的な状況に焦りを募らせるのだった。




