第9話 忍び寄る呪い
伝令から国家の一大事を聞き、ドリアムはスピードを上げてススリードへ戻った。
高位貴族や大臣たちは皆、原因不明の病に倒れているということで、他の者たちから報告を聞く。それによると、ほんの数日で皆が体調を崩し、病状はどんどん悪くなっているという。
(高位貴族の茶会なども開かれてはいたようだが、茶会に出席していない家の貴族も倒れている……やはり流行り病ではなく、敵によるものか……)
そう考えたドリアムは、はっと思い出す。
「ガカラン、ランゾウ、ルルド王国の店で購入した例の魔道具を出してくれ」
「「うん」」
二人が運んでくると、ドリアムはまず王太子マルスミアの部屋へ向かった。
部屋に入ると、心配そうに見守る侍従の姿が目に入る。ベッドに近づくと、眉間に皺を寄せ、汗を流すマルスミアの姿があった。呼吸も早い。額に手を当ててみるが、熱は無いようだった。侍従は手にしたタオルで、マルスミアの汗を拭っている。
「マルスミア……今度は私が助けなければな」
ドリアムは手にした治癒の箱なる魔道具をマルスミアの手に握らせる。少し、呼吸音が穏やかになるが、まだ苦しみは続いているようだった。
(どうか、これで効いてくれ……)
祈るような気持ちでドリアムは邪気を跳ね返すという魔道具をマルスミアの枕元に置き、ボタンを押した。特に何も変化はないように感じられたが、次第にマルスミアの眉間の皺が取れて行くのに気づき、ドリアムは目を凝らす。
何事が行われているのか理解できていない侍従も、マルスミアの明らかな変化に驚いている。
「ドリアム様、これは一体……」
「ああ、効いているようだな……。これは……旅の途中で購入した……お守りのようなものだ」
そう言いながら、ドリアムも驚愕していた。
(ああ、トアは……儂の命だけでなく、沢山の者の命を救うのだな……)
しばらくすると、マルスミアが目を開いた。目の前に赤髪の叔父の姿があり、状況が分からずに困惑する。
「あれ、私はなぜ……いつから寝ていたのだろう……確か書類整理をしていて……叔父上、なぜここに? 帝国へ向かわれたのでは……?」
「儂が分かるのだな……ああ、よかった。うむ、魔法学校まで行ってきた。そこでトアに会ったぞ」
「トアに??!」
「ああ、まったくとんでもなく面白い娘だった! トアに色々状況を教えてもらってな。帝国へは行かずに戻ってきたのだ。それにしても、マルスミア、お前がトアを魔法学校に推薦したのだろう? ふはははははは。まったく、よく考えたものだ! ははは、そのような顔をするでない。大丈夫だ、兄上には内緒だ」
「……それで、トアやリアの様子はどうでしたか?」
「ああ、それなんだがな……」
そうして、ドリアムはここまでの経緯を話した。途中から病み上がりの顔色を一層青くして聞いていたマルスミアがうなだれる。
(ああ、ピオットが言っていたのはこういうことだったか……トアに枷は通用しない、というよりもう玩具みたいなものだな……)
遠い目をするマルスミアを心配しつつ、ドリアムは急ぎ部屋を出て行った。
魔道具の効果が確認できたため、ドリアムは兄である国王ダンデリアムや王妃マリアンヌの元も訪れ、同様に回復させた。病み上がりではあったが、急を要する件のため、その場でドリアムはダンデリアムに、今回の裏に帝国が関係している可能性があることやルルド王国で仕入れた魔道具が効いたことなどを伝えた。
「なんということだ……政変からしばらく経ち、帝国も安定してきたと思っておったが……」
「そもそも、帝国の情報は政変以降、周辺のどの国にもあまり入ってきていない。兄上が知らなくとも仕方あるまい」
「そういえば、臥せる直前に魔法連合から連絡が来ておった。ダストンが叔父のガルマ・バルザンの所にいる可能性が高いと……」
「ああ、兄上にも情報は入っていたか。ガルマなんぞを頼り、国を勝手に離れるとは……」
「あれはもっと早くにカーラから離すべきだったのだ。私の判断が誤りだった」
いつもはあまり過去を振り返らない兄のそのような発言に、ドリアムは驚いた。
(兄上は頭の切り替えも早いし、感情も抑制して国益を優先できる。しかし、さすがに今回の度重なる身内の過ちは堪えているのだろう……)
「して、リアはどうだったのだ?」
「やはり帝国に捕らわれていたが、無事であることは確認できた」
「直接確認したのか?」
「いや、この件には魔法連合が関与していて、その関係者から話が聞けたんだ」
「そうか。帝国が何を考えてこのような攻撃を仕掛けてきているのかは分からんが、とにかく国内の高位貴族の病状を回復して、政務に支障のないようにせねばならん。お前がルルドからこの魔道具を持ち帰ってくれて本当に良かった。騎士団長として、皆の回復の任に当たってくれるな?」
「もちろんだ。兄上、共に帝国の脅威に立ち向かおうぞ!」
そうして、ドリアムが国王の寝室を出ようとした時だった。衛兵が急報を告げに来た。
「国王、第三王子殿下が戻られました! しかし、帝国兵や見慣れない者たちとご一緒です」
「「なに?!」」
ダンデリアムとドリアムの声が思わず重なった——。




