第8話 帰路
トアの話を深刻な表情で聞き終えると、ドリアムが口を開いた。
「……そうか、その男の話に出てきた『ゴウミ』という者は、儂も聞いたことがないな」
「帝国の貴族にも、そのような名前の方はいなかったと思う。ハシルは聞いたことあるかい?」
フロイスがそうきくと、ハシルは「いいえ」と首を振った。
「しかし、これでいよいよ敵が大規模に動いていることが確認できたな。ススリードと魔法学校にも仕掛ける気か……儂もすぐに帰って敵に備えた方がいいかもしれん」
「では、帰る途中で魔道具を買っていくことをお勧めします」
そう言うと、フロイスはカミドの薬草専門店の場所をドリアムに教えた。ドリアムは「それは恐らくまたトアが絡んでいるのだろう?」とニヤッと笑い、必ず寄ると言って帰って行った。
その後、トアはいつも通りトーマスたちへ食事を届けに行ったのだが——。
トーマスは牢の中で、トアが捕まってしまったことをひたすら案じていた。
なので、いつもと同じように食事を届けにトアが現われた時、驚きと安心で思わずトアの肩を掴んでいた。鎖がなければ抱きしめていただろう。
「トア、トア、ああ、本当にトアなんだな……良かった……無事だったか。私が見た少女たちは見間違いだったのか……」
「どうしたの、トーマスさん?」
「あ、ああ、すまないね。日光浴の時に、トアに似た少女を見かけて、捕まってしまったんじゃないかと心配していたんだ」
「あっ、うん、多分それ私だよ!」
「え……?」
「そう、ちょっと理由があって、今捕まってるの」
一瞬、目の前にいるトアは実は実体がないのではないかと、心配になったトーマスだが、肩を掴んだ時に確かに感触はあったと思う。
「……一体、どういうことなんだい?」
心配そうなトーマスの様子を見て、トアはかいつまんで経緯を話した。
「…………そうか、そんな酷いことを……仮にも帝国の皇帝がそんなことをするとは……すまない……」
トーマスは自身も帝国の貴族という身であることから責任を感じて謝罪する。
「トーマスさんが謝ることは何もないよ。だって被害者だし、良い貴族様だもん。私は、悪い貴族様が嫌いなの。今の帝国の皇帝は皆を虐めてるから許せないんだ。だから、皆が悲しい目に遭うことがないようにしたい。そのために、皇帝が何をしようとしてるのか、今探ってるの」
そう言ったトアの目に宿る強い光を見て、「ああ、やっぱりフローリアに似ている」と思うトーマスだった。
「ところで、さっき話していた『枷をフンッとやる』というのは、どういうことなんだい?」
「あ、うん、何ていうか……身体の中に変な液体が入ってこようとするのを押し返す感じ……かな?」
「なるほど……尋常じゃない量の魔力があれば可能かもしれない……」
トーマスはそう呟く。
「トア、くれぐれも気を付けるんだよ。無理はしないように。危なくなったら、お姉さんだけ連れて逃げるんだ」
「うん、分かった」
そう言うとトアは消えて行った。
その何もない空間を見つめながら、トーマスはトアの無事を祈り続けるのだった。
**
その頃、ドリアムはススリード王国へ戻る前に、カミドの薬草専門店を尋ねていた。店に入ると、店内は客でひしめいていた。
「おお、盛況だな!」
店内の商品説明を一通り見たドリアムは、客の声に耳を傾ける。
「この治癒の箱を持ってから、風邪を引かなくなったのよ」
「あら、私もお守りとして子供に持たせてるんだけど、今年はまだ引いてないわ。それに、先日夫が怪我をしてきたんだけど、これを握って寝たら翌朝には瘡蓋が出来始めてね……」
(ほほぅ、この治癒の箱という物は随分効果が高いのだな。これならば、騎士団員に持たせておくと重宝するな……)
そう思ったところで、店主のカミドの声が店内に響く。
「皆様、こちらは新商品の邪気を跳ね返す守りの箱になります。危ない状況になった時に、このボタンを押すことで、ちょっとしたお守り効果が発動されます」
それを聞いたドリアムは、カミドの元に近づき話しかけた。
「店主よ、私はススリードから来たドリアムと言う。トアに色々助けてもらっていてな。今、協力体制を敷いている。儂はこれからススリードに帰るのだが、昨今、色々きな臭いので騎士団でも備えておこうと思うのだ。ここからは、ほんの独り言だと思ってほしいのだが……それは、物理攻撃以外にも有用か? 例えば魔法や……呪術の類にも……」
「私も独り言ですが……場合にもよるとは思いますが、ある程度有用と思われます」
「そうか。では、迷惑でない範囲の数量を買わせて欲しい。ああ、治癒の箱も同様に頼む」
「承知いたしました」
「トアが来たら、また連絡すると伝えておいてくれ」
「はい」
ドリアムと視線を合わせお辞儀をすると、カミドは早速商品の準備を始めるのだった。
ドリアムが帰った後で、カミドはリーニャから「赤髪でドリアム様と言えば、ススリード王国の王弟だわ!」と教えられ、大変驚くことになるのだった。
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ドリアムは道中何事もなく進んでいたのだが、途中で伝令から報告を受けると眉間に皺を寄せた。
「くそっ、少し遅かったか……」
それを聞いたドリアム直属の部下で双子のガカランとランゾウが同時に声を上げる。
「「ドリー、どうしたの?」」
「敵が思ったより早かった。王族や高位貴族が原因不明の病に倒れたらしい——」
「「!!」」
焦る気持ちが大きくなる中、唇をぎゅっと閉じ三人は無言で帰路を急ぐのだった。




