第6話 トア……?!
(あれは、確かにトアだ! なぜ、なぜ彼女があんな所にいるんだ…………捕まったのか? あれは、枷……)
枷をつけられたトアの姿を見て、トーマスは激しく動揺した。
(もう一人、そっくりな子がいる……トアは双子なのか……?)
声を掛けられないもどかしさに唇を噛むトーマスは、トアが酷い扱いを受けていないか気になって仕方がなかった。
(トアはとても不思議な能力を持っている。最初こそ驚いたものの、最近はなんとなく大丈夫なのだと安心してしまっていた。トア……そしてもう一人の少女も、どうか無事でいてくれ……)
トーマスは自分に希望の光を与えてくれたトアが深刻な状況に陥っていることが耐えがたく、牢に戻ってからも、そのことばかりを考えていた。
そしてまたもう一人、トアが牢にいることに大変驚くことになる者がいた。
以前、同僚のザットにより倉庫に閉じ込められた所を、トアに助けてもらったミラスである。
今日は女性用の牢へ食事を配っていたミラスだったが、数日前に牢に入ったリアのことを心配していた。
(あの子は丈夫だろうか……連れて来られた時、気丈に振舞っていたが、目は怯えていた。そりゃそうだ、こんな所に連れて来られて……一体、あんな子供が何をしたって言うんだ! それに、もう一人、その子の妹まで連れて来られたと聞いた……この国はどうなっているんだ!)
内心で怒りを覚えながら、最後の食事配布場所であるリアたちの牢の近くまでやって来たミラスは、話し声が聞こえて来て歩みを止めた。
「トア、大丈夫? 枷の具合は?」
「うん、大丈夫、大丈夫! また付け直したし、フンッってやったから。リアこそ痛くない? うん、もう全然平気。トアが治してくれたり、内側を変形してくれたお陰だよ。本当に有難うね!」
「うん、賢者のメモや本に書いてあった物を変形する魔法、便利なんだよね。役に立って良かった!」
ミラスは少女らしき二人が話している内容が、チンプンカンプンだったが、聞き覚えのある名前に「ん?」と首を捻った。
(ん~? どこかで聞いた馴染みのある名前だなぁ……トア……トア…………)
「んぁあっ!!」
思い出した途端、思わず声が牢屋に響いてしまった。しかし、そんなことは構わず、ミラスはダッと牢の前まで走る。
「ト、ト、トアっって、あのトア?? 僕を倉庫から出してくれたトア??!」
いきなりやって来たミラスに、トアもリアもびっくりしたが、今度はトアが「あっ!」と叫ぶ。
「あの良い牢屋番さん! ミラス!」
「やっぱり、トアなんだね! でも、捕まったの? 大丈夫? あ……もしかして僕を助けてくれたから……?」
「あ、違うよ、大丈夫。あーなんていうか、その……わざと捕まったんだよね……」
「ワザトツカマッタ?」
「トア、ミラスさんが混乱してるでしょ!」
まるで別の言語を聞いたかのように、固まってしまったミラスを心配したリアがそう言う。
「ごめんね、ちゃんと説明するね。あ、その前にこちらは私の双子のお姉ちゃんのリア」
「こんにちは、ミラスさん。確かここへ連れて来られた初日にいた方ですよね?」
リアは自分のことを心配そうに見ていてくれた牢屋番だったと思い出していた。
「あ、うん、こんにちは。僕のことはミラスでいいよ! そう、君たちのこと心配してたんだよ。それで、何があったの?」
「リア、ミラスはこっちの味方だから大丈夫だよ……」
「うん、話していいと思う」
そうしてトアは、自分たちがここに来るに至った経緯や、救出作戦が進行していることなどをミラスに話して聞かせた。ミラスは最初から最後まで憤慨して聞いていた。
「やっぱり、そんなことをしているのか! 本当にこの国の偉い人たちの頭はどうなっているんだ?!」
「しっ、ミラス、聞かれたら大変よ!」
「あ、そうだね、ごめんリア」
そうして意気投合した三人は、今後について話す。
「それでね、ミラスも知ってる通り、私は透明になって色々移動できるから、情報を探ろうと思うんだけど、ミラスも牢屋番の中で何か分かったら教えてくれる? あと、救出作戦に役立ちそうなこととか」
「うん、分かった。そうだ、救出作戦について思ってたんだけど、ここの囚人さんたちはかなり弱っている人たちもいるから、全員を救出するのは難しいかも……」
「どんなふうに弱ってるの?」
何気なく聞いたリアに、ミラスが「あー……」と言いにくそうにする。それを察したトアがやんわりとリアに説明する。
「なんかね、拷問された人とかが、色々怪我したりしてるんだよね……」
「え……拷問……ひどい……」
リアは唇をぎゅっと閉じる。そしてトアの方を見た。
「トア……」
「うん、大丈夫、皆治すよ」
「え、どういうこと? どうやって?」
二人のやりとりを聞いたミラスが不思議そうに聞く。
「私ね、わりと人の怪我とか治せるの。でも、秘密ね。悪い人に見つかると、私だけじゃなくて周りの人が危ないからさ」
「……すごいね! トア、本当にすごいよ! 昔にいた賢者様みたいだよ!! うん、もちろん秘密にする」
「そっか、ミラスがそう言ってくれたら安心だねっ」
そう言うとニシシとトアは笑った。
とりあえず、抜け出せそうなタイミングでトアが色々な牢を回って傷を治すことや、見回りが急に入りそうな時はミラスが知らせてくれることなどを話し合った。
二人の牢から戻りながらミラスは、「そういえば……」と今更ながら思う。
(……リアが来た時、他にいないくらい綺麗な子だって思ったけど、まさかトアも同じ顔の美少女だったなんて……薄暗い中だけど、それでも十分綺麗だったなぁ~綺麗すぎて現実感ないや……)
ミラスはまるで牢屋が美しい花園にでもなったかのように感じて、今更ながらぼーっとするのだった。




