第10話 ギンとの出会い
「私、本当に転移の魔法使えるようになったのかな!?」
もう一回試してみようか、などと考えていたトアだったが、森の奥が光りだしたことに気付き目を凝らす。
「確かに光ってるよね。お日様の光じゃない、もっと白い光。なんだろう? そういえば、あの図書館にいた男の人が森って言ってたし、あの人なのかな……行ってみようかな」
つい先ほど図書館で大いに慌てたことを忘れ、好奇心に駆られるままに森の奥へ進むトアは、突然「ワッ!」という叫び声が光りの方向から聞こえてきてビクッとする。
「く、来るな! 来るなぁ!!」
トアが進んだ森の奥は開けた場所となっており、強い光に照らされて地面に描かれた魔法陣と、先ほどのフードの男の姿が見えた。しかし、そこに居たのはフードの男だけでなく、禍々しい黒い靄を纏った獣もいた。大きな犬のようにも見える姿のその生き物は、口から涎を垂らし、牙を剥いてその男の匂いを嗅いでいる。すると、トアが来たことに気付いたのか、その獣がトアの方にゆっくり近づいて来た。フードの男はトアの存在には気づいていないようだが、自分から獣が離れたことで森の更に奥へと逃げて行った。
「うえっ、どうしよう……」
走って逃げても追いつかれるだろう。転移を試してみるかな……と迷っているうちに、その獣が目の前までやってきた。以前、町でリアといた時に遭遇した野犬とは違い、不思議と怖くはない。口は開いているが、先ほどのように牙は剥いておらず、スンスンと鼻を近づけてトアの匂いを嗅いでいる。黒い靄が不吉な感じがするが、敵意は感じない気がして思わず「あの……」と声が出る。
(通じるはずもないよね……)
しかし、その獣はトアが声を掛けると頭をトアの足に擦り付けてきた。
「うわっ、びっくりしたぁ! え、何? 私のこと気に入ってくれたの? うん、私は敵じゃないよ~」
通じているかどうかも分からなかったけれど、適当にしゃべってみる。しばらくすると、その獣はトアの服を加えて、まるで「こっち」とでも言うように、前方に広がる魔法陣の前へとトアを連れてきた。魔法陣に向けて牙を剥いて唸り声をあげてはトアを見上げるという行動を繰り返す。
「何かしてほしいの? この魔法陣が嫌なの?」
トアが言うと「ゥワンッ!」と威勢よく吠えた。
「そっかぁ、この魔法陣ね……とりあえず魔力でも流してみるかなぁ……フゥーッ」
深呼吸をして魔力の流れを意識すると、魔法陣に触れて掌から魔力を流していく。途中何度も重たい抵抗のようなものを感じたが、その度に強く魔力を流し抵抗を跳ね飛ばすイメージで魔力を流し続けた。魔法陣全体に魔力が行き渡ったのか、その魔法陣を自分が掌握した感覚がする。
(う~ん、どうしようかな。このワンちゃんはこの魔法陣が嫌いみたいだし、潰してみるかな……)
「よいしょっ! (グシャッ)」
トアが掌握した魔法陣を握りつぶすイメージで手を握りしめると、目の前の魔法陣がバリンと盛大に割れて粉々になった。
「うわぁ、なんかきれいだね! キラキラしてる!」
割れた魔法陣が白い光となってキラキラと細かく舞い散り、地面に落ちると消えていった。
「はい、これでいいかな? ね、ワンちゃん……あれっ?」
隣にいる獣の方を見ると、さっきまで黒い靄に覆われていたワンちゃんは、真っ白に輝いていた。しかも——。
「ワンちゃんじゃなかったの? キツネ? でもキツネより大きいかな? まあいっか!とりあえず名前決めよう~う~ん、ホワイトシルバーの綺麗な毛だから、ギンって名前でいい?」
すると、ギンは「ワンッ!」と尻尾を振って勢いよく鳴いた。
「あっ、そろそろ教会に帰らないと! ギンまた森に来た時遊ぼう! あ、私トアって言うの。よろしくね! じゃあまたね!」
フードの男のことなどすっかり忘れたトアは、仲良しな友達ができた満足感で教会へ帰って行った。
教会へ帰ってきたトアは色々あったせいで疲れていたが、転移の魔法を使えたことを思い出すと嬉しさが込み上げてきて、あの感覚を忘れないうちにもう一度試してみたくなった。
「どこに飛ぼうかな。行ったことない所でも飛べるのかな……試すとしたら……うん、やっぱりリアの所だよね! でも誰かに会うとまずいから人がいない所にしないと。え~と、リアのそばで人のいない所、リアのそばで人のいない……!」
そう願いながらなんとなく自然と魔力を身体に循環させると、ふいに頭の中に映像が広がった。
「ふあっ! なにこれ? なんか広い建物だなぁ……あ! あの窓から見えるのリアだ! ということは……これがリアが住んでる貴族様の家? でっかいなぁ! えっ……」
頭の中で見える映像の中のリアを見ていると、突然リアが床に倒れた。何事かと思って見ていたトアは、急激に頭に血が上るのを感じる。
「なにやってんだあの人! リアの身体を足で踏んでる! 許せない……」
トアが怒りに任せて転移しそうになったその時、倒れているリアに手を差し伸べる少女の姿が見えて、トアの怒りは少し引く。
「あの子誰だろう? 綺麗な服を着ているから、やっぱり貴族様かな。優しい人もいるんだ」
少し落ち着いたトアは、最初に思った通り人のいない場所を探す。この頭の中のイメージはとても便利で、まるで空中を飛ぶように家の中を移動できるし、もっと詳しく見たいと思えばズームも出来た。
「よし、なんか本が沢山あるし、この部屋にしよう! この部屋へ……転移!」
心の中で強く願いながら全身に魔力を行き渡らせると、図書館での転移の時に感じた浮遊感を感じた。
(できた!)
転移が成功して内心飛び上がりたい気分だったが、目の前に広がる見慣れない立派な家具と沢山の本に、一気に気が引き締まる。
(誰にも見つからないようにしなくちゃ)
とりあえず目標の転移には成功したので、そのまま帰っても良かったけれど、目の前に沢山の本があるので、少し見てみたいと思った。
「とりあえず、この本を見てみよう……あっ、風魔法の本みたい。町の図書館より詳しく風魔法について書いてある! こっちの本はどうだろう……これも風魔法の本だ!」
手あたり次第に本を開いてみたが、どれも風魔法の本だった。たまに難しそうな魔法も書いてあったが、「一番難しい風魔法は空中浮遊である」という一文を見つけて、それ以上本を開くのをやめた。
「空中浮遊ならとっくにできるし。これって子供向けの本なのかな? 子供にとって難しいってことかな? もう少し難しそうだと遣り甲斐があるのにな~。まぁいいか、また自分で魔法の練習はしよう。それよりリアのことだよね。優しい人もいるみたいだけれど、リアにひどいことをする人もいるって分かったから、これからはあの方法でこの家を観察しよう。それでもっと魔法を上達させて何かリアの助けになることをしよう」
リアの状況には憤慨したけれど、これまで全然分からなかったリアの様子を知れたことや、近づくことも出来ると分かって、新たな目標を前にリアの心に灯がともったのだった。




