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復活?お菓子研究会 ─ Reverse & Destroy

「卯月さんはイギリス帰りの帰国子女です」

うちのクラスがいつにも増して騒がしくなる。


男子連中は「金髪碧眼の美少女が来た!」と大盛り上がり。

─見てわかる通り、金髪でも碧眼でもないが?


叶は「ほら、あってたでしょ?」と言わんばかりに私を見る。

─いや、疑ってたのは私じゃないよ!?


オカルト研究会所属の生徒は時期外れの転入に宇宙人説を唱えて盛り上がっていた。

─宇宙人て。


騒ぎの中で、不意に目が合ったウヅキシオリさん。

この空気とは対照的な空気を纏っていて、背筋をピンと張り、少しだけムッツリとした顔をしている。鮎饅頭みたい。


その姿を見て、どういう女の子だったっけ。と思った。

私は目を閉じて瞼の裏に昔の彼女を浮かべてみる。


夕陽に溶け込むキャラメル色の、腰まで伸びた長い髪。

見るものを吸い込むビターチョコレートを思わせる黒色の瞳。


少しだけ伸びている背丈と、ある一点──いや二点を除き。

かつてイギリスに行ってしまった親友と像が重なる。

姿はやっぱり私が知っていた卯月しおりだった。


そんな風に納得をしていると、気づいたら先生がクラスの騒ぎに便乗を始めていた。

「折角だし、仲良くなる為に質問大会を始めましょ~!」

質問大会って別にしおりから質問することはないでしょ。

一方的な質問攻めになると思うけど。

「時間が許す限りで一人につき一つずつお願いしますね」

しおりに許可は求めないんかい。

「ではまずはあいうえお順だから、江・・・」

四月だから今の席順は五十音順。

私から見て左端。つまり教壇側から見て右端の先頭である江藤くんが最初。

──そう思っていた。

その時、思わぬところから手が上がった。

「五十音順なら、一番最初に質問が出来るのはこの私のはずですわ!」

黒板を見た。

そう言えば今日をもってこのクラスに江藤の前って概念が追加されたんだったと思った。

クラスのみんなは転校初日に質問があるのか?そんな視線をしおりは一斉に浴びていた。

第一声。お淑やかさだった初手の挨拶とは考えられない威勢の良い声で

「佐藤こむぎさん、この私と、お菓子作りで勝負ですわ!!」

と言い放った。

もはや質問ですらなく、宣戦布告じゃん。

ちょっと不機嫌そうだった原因はもしかして私?

何か私やっちゃったっけ?もしかして金型?それは返すつもりだよ!

と色々考えてしまい頭が大混乱。

たっぷり三秒程の時が流れて

「わ、私~~~~~~~~~~~~~~!?」

先生はその後、何事もなかったかのように「はい次、江藤さん。質問お願いします」と江藤くんにパスを渡していた。動じず。つ、強い。

クラスの興味は”しおりは”というフェーズを終え、”しおりとこむぎは”というセットで語るフェーズに移っている。どういう関係なのか。そんなヒソヒソ声が周りから聞こえてくる。

私も分からない。


それから何人かの質問が終わった。次は叶の番。

叶の苗字は“ここのえ”だから、私の一つ前の質問。

「むぎとの関係性は?いつ出会ったの?外国って挨拶にキスするらしいけどほんと!?むぎと言えばむぎはまだ入る部活を決めてないけど、しおりさんは入りたい部活はあるんですか!」

「質問は一人につき一つまでですよー」

先生の指摘に叶はかわいらしく舌をチロッと出した。

一方しおりはというと、一人につき一つまで。というルールを遵守しているのか、あるいはその質問以外に答える気がないのか。


「お菓子部、ですわ」。


──バッッッッ


擬音語にするとそんな感じ。

お菓子部希望の発言に、全員の視線が一斉に私へと集まった。

私も驚いたけど、その光景にはしおりも驚いたと思う。


実は春の初めの自己紹介。

奇しくも「お菓子部に入りたいんです!」と私は皆みんなの前で公言していたから。

その時に残念ながら先生に「・・・その部はもう存在しません」と言われている。

それからどの部活に入るかが目下の悩み。だから「お前と同じじゃん」ということ。


「しおり。実はね、お菓子部は無くなっているんだよ」


今度は凄い勢いでしおりが先生の方を見た。


「イッツアトラップ!」


しおりの表情がグルグルと回っている。


「無いなら・・・」


口元がわずかに動いた。

何かを計算するみたいに、ぶつぶつと小さく言葉が漏れている。


「無いなら・・・」


ポツリと出たこの一言に、クラスの全員は次に発する言葉を期待した事と思う。


「無いなら・・・無いなら作ればいいのですわ!」


その言葉を待ってましたと言わんばかりのクラスの全員が熱狂する。

私はまだ着いていけていない。ただ、それはこちらとしても願ってもない提案で。

「それって可能なの?」

「部は無理でしょうけど、佐藤さんと卯月さんと2人でお菓子研究会という形なら可能だと思います」

「そっか・・・私お菓子部に、お菓子研究会に入れるんだ・・・」

こころが焼きたてのシフォンケーキみたいにふわりと軽くなった。

そう言えば「無いなら作ればいい」妹もそんなことを言ってたな。

妹は正しかった。

「ではその件については後程職員室でお話するので来てくださいね」

「はい!」「承知ですわ!」

ありがとう、しおり。


「時間的には次で最後。“仲良し”の佐藤さんは卯月さんに何か質問はありますか?」

来た!しかもちょうど最後。よかった。というかなんだその仲良しのって枕は。

まぁ、いいや。

「しおり!これはしつもんじゃないんだけど」

位置にして江藤くんの右斜め後ろあたりが私の席。

ガタと少し大げさにイスの音が鳴る。私は席から立ちあがり教壇に向かう。

「キャッ」

これは私でもしおりの声でもない。

私たちに何かしらの関係性を見出した叶を含む女子陣からの黄色い声だ・・・。

何を期待してんのよ・・・。

これはそんなんじゃなくて、私はあの時の金型を返すだけ。


ズンズンと彼女の前に相対する。


しおりはどうしたのかしら?とでも言いたげな顔。


「先日、公園で会ったでしょ。夕方。しおりは逃げちゃったけどさ」

「え、えぇ・・・もしかして、逃げてしまった理由が分かったのかしら!?」

「いや、それは分から・・・」


─フワッ


一瞬、瀬戸内レモンケーキを思わせる爽やかな香りが私を横切った。

その後に続いたのは感触。

唇の・・・唇と思わしき感触。


「落としていったこれを返したく・・・て」


触覚、嗅覚、聴覚。あらゆる感覚器官が大混乱の中で私はなんとかポケットを探り。


「公園で忘れ・・・物」


彼女の暖かい手のひらにソレをなんとか強引に乗せた。


私は何をされた?頬に感触。まさか・・・ほっぺにチュ・・・!

しおりの顔を見る事が出来ない。


直後に、クラス中で声にならない声が上がっていた。

顔が熱い。そんな浮いた事を思っていられたのはこの一瞬だけ。


彼女は直後、教室を出て行った。泣きながら。


突然の出来事でクラス連中は嘘のように静まり帰っていた。

「私、何かしちゃった?」


これは後で気づくことだけど「ようやく返せた」と思ったソレは。


()()()()()()()()()()()


この日の出来事は、お菓子研究会復活の件で必ず話題にあがる。

いわゆる“おかしくないおかし事件”とはこのことだ。

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