21歳までを綴る
話は少し遡る。
私が20歳のとき弟は18歳。
高校三年生になった弟は進路を決めなくてはならない時期になっていた。
弟は有名な進学校に通っていたので、通常だと進学するべきだった。
だが弟は進路を就職へと変更してした。
私は、弟が家の事情を察して、就職を選んだのだと思い、心配になった。
何度も弟に奨学金制度もあるよなどとと勧めた。
だが、弟の意志は固く、絶対に就職すると曲げなかった。
その後弟は、高校から進められた少し名の知れた企業に入社することになった。
車の免許は私とお母さんで負担し、車は就職してからのローンで払うこととなった。
私は、その時にやっと正社員になることの重要さ、自分の将来のことも考えるようになった。
話は変わってみかちゃんの話をする。
成人式前からちょくちょく連絡が来るようになっていた。主に彼氏のトシのことを相談していた。
遠距離恋愛でただでさえ不安な中、トシと全く連絡が取れない。電話するのも都会から帰ってきて遊びに誘うのも私ばっかり。
と悩んでいた。
私はそんなみかちゃんが心配で、みかちゃんが都会から帰ってきたら、よく2人でファミレスへ行きみかちゃんとトシのことを一晩中話し続けていた。
電話も頻繁にしていた。
ある日、みかちゃんから、ファミレスに誘われて行った。いつも通りにトシのことを話した。
私も春くんの話をした。
私は春くんが大好きだったので、春くんに対しての不満は一切言わなかった。
その時、みかちゃんがもう一人呼びたい人がいるんだけどいいかな?
と言った。
私はてっきりトシが来るのだと思い、いいよと言った。トシとはあまり親交がなく、トシのことをよく知らなかった私はトシと仲良くなって知ることで、みかちゃんにいいアドバイスができるかもと思った。
元々、恋愛経験が浅く、みかちゃんの話を聞くことしかできなかったことを申し訳なく思っていたのでチャンスとも思った。
だが、その時来たのはトシではなく知らない女の人だった。年齢は30歳くらいのニキビだらけの顔の女性はみかちゃんの隣に座り、自己紹介した。
私、みかちゃんのいとこなの。ちょっと今日は話したいことがあって来たの。
と笑顔で言った。
私は、頭の中にクエスチョンマークがついたが、とりあえず話を聞くことにした。
みかちゃんはずっと黙っていた。
あなた、最近運気悪いでしょう?
とその女性は言った。
私は最近じゃなくてずっと運気は悪いよ。と思いつつ、はい。と答えた。
そして女性は、占いとか好きかな?
と私に聞いた。
私は占い師?と思いながら、はい。と答えた。
本当は占いは好きではなかった。
昔占い師のところに占いに行ったら、あなたは父親にすごく恵まれて幸せな子ねーと言われたからだ。
そんなことあるわけないじゃねーか。
と思いながら、もう二度と占いは信じないと決めていた。
だが、みかちゃんのいとこと言うことで否定はせず話を聞くことにした。
あなたが今の状態をもっと上手くいくようにする方法があるの。つまりコップに例えると、コップに入っているのは幸せな状態。
でも幸せを感じると水は減っていくの。
でも、その水を増やしてもっともっと幸せになる方法があるの。
と女性は語り出した。
わたしは、はあ…そうなんですか。と相づちを打った。
それは、おまじないのようなものなの。簡単よ。1日二回そのおまじないの本を口に出して読むだけ。
みかちゃんもやってるよね?
女性が言うとみかちゃんは、うん。と笑顔で答えた。
そのおまじないあなたもやってみない?
わたしは、凄くニキビがヒドいのが悩みだったの。でもおまじないをはじめてからとても良くなったの。
私の家族みんながやっているわ。
みかちゃんには、みかちゃんのお母さんはおまじない信じない人だから、内緒でやってもらってるんだけど…
と言いながらみかちゃんと微笑み合っていた。
そして、みかちゃんも切り出した。
みかも、まだやりだしたばっかりなんだけど、トシから連絡が来るようになったの!凄いでしょ?
あなたもやりなよー。
わたしは、断りづらかったので適当にはい。と答えた。
すると、女性は本を取り出した。
すごく怪しげなパンフレットに本。
まずは、パンフレットを見せながら、これが体験者の言葉。ほおら、皆幸せになってるでしょう。あと、ここが本を購入できるお寺なの。とても安いのよ。一万円。たったそれだけで幸せになれるのよ。
これは、詐欺かカルト宗教だと私は確信した。
本を見せようとしてきた女性に、私は遠慮しときます。と言った。
女性は何で?と聞いた。
私は、スイマセン。お金がないので。とみかちゃんを傷つけないように言った。
だが、そこからが長かった。
女性はまくしたてるように、とにかくお寺へ今から連れて行くわ。そしたら本を買おうと思うわ。絶対。と言ったり
何で?信じてないの?と泣いたりした。
最終的にはみかちゃんのこと信じてないの?
信じてるなら友達の気持ちを受け取るのが普通でしょう?
と責め立てるようになった。
そうして一時間がたった頃、女性はさらに何かを言おうとしていた。みかちゃんは不機嫌そうに黙っていた。
私は言った。
スイマセン。私何にも信じてないんです。信じているのは自分だけなので。
遠慮させていただきます。
女性はあなたは絶対に不幸になる。
コップの水はなくなるわ!!!
と言っていたが無視をして家に向かった。
みかちゃんとはしばらく連絡が取れなかったが、しばらくしてごめんね。と謝罪のメールが来た。
どうやら、女性はみかちゃんのお母さんにもそのおまじない?を勧めようとしてそのいとこ一家と揉めて縁を切ったそうだ。
要するにカルト宗教だった。
だが、みかちゃんはおまじないを辞めていない様子だった。辞めると悪いことが起きるかもと言っていた。私はそのことについては何も言わなかった。
トシとの交際は順調ではないが続いている様子だった。
毎回電話でトシのことばかり話すみかちゃんは、本当にトシの事が好きなんだなあと思った。
そんなみかちゃんを応援しようと私も協力しようと思った。
話は戻って、春くんの話になる。
春くんに花束を貰って二週間くらいがすぎた頃、私たちはドライブデートをした。
私は、免許も車も持っていないので、送り迎えや運転はいつも春くんだった。
そんな春くんに申し訳ないと思い、私は毎回飲み物などを奢っていた。
少し遠出して海の綺麗な所へ行った。駐車場に車を止めて降りようとしたが寒くて出ることはできなかった。
春くんと付き合ってから、私は、春くんの前では一度もタバコを吸わなかったが、その日は寒い中私だけ外に出てタバコを吸った。
緊張がピークに来ていたのでそれを紛らわせるためだった。
私は、その日春くんに話そうと思っていることがあった。
なかなか言う勇気が出ず、どんどん緊張が増していった。
春くんと暖かい飲み物を買って車に戻った。
春くんが膝枕をしてと私にお願いしたが、私は、断った。
私の目から涙がこぼれた。
何?泣いてるの?寂しいの?と春くんは私に顔を合わせた。
私は、首を振り、大丈夫。寂しいんじゃないよ。と言った。
そして、春くんにこう切り出した。
春くん、私たちしばらく距離をおかない?
意外にも春くんはそれに対して即答した。
考えさせて。春くんは頭を抱えながらそう言った。
私は、春くんといたら依存してどんどんダメになっていくと思った。そのためには、正社員としての就職や、心許せる友達をもっと作ることが必要だと思った。
その時間が欲しくて春くんと距離を置くことに決めたのだった。
帰りの車内は無言だった。
そして、家に帰り早速アルバイト先のお店へと向かった。
店長に、私!本店で正社員面接受けます!そのために車の免許取って車も買います!
それまでの間一生懸命頑張りますので、よろしくお願いします。
と言いに行った。
店長は、嬉しそうに分かったよ。上に連絡しとくね。と言った。
そしてアルバイトをカツカツに入れてもらい働いた。ギリギリまで切り詰めてお金を貯めた。
そして貯めたお金で免許センターに通った。毎日通い詰めて2ヶ月くらいで免許は取れた。
その後また、アルバイトをカツカツに入れてもらい
お金を再び貯めて車を買った。
車を買うまでの期間で一年が経っていた。
実は、春くんと離れてから、二週間ほどたったころ、寂しくてたまらなかった私は、紗耶香に相談していた。
紗耶香は行動派だったので、今すぐ春くんに会いに行って、考えさせて。の返事聞きに行こうよ!
と私を車に乗せて春くんのアパートに向かった。
しかし、春くんの車はなく不在だったので、春くんの友達のアパートへ向かった。
春くんの友達の佐藤は、とても友達想いの性格で困っている人は皆佐藤に頼っていた。
佐藤の家に上がり、佐藤はいきなりどうしたの?とビックリしている様子だった。
紗耶香が事実を話すと、佐藤はさらに驚いた様子で何か考え込んでいた。
そして、佐藤は、とりあえず春樹に連絡しとくわ。それまでアパートにいていいよ。と言った。
春くんと連絡がつかず、しばらくは三人で時間を潰していたが、紗耶香は用事ができてしまいその場から去っていった。
私は、佐藤とふたりきりになり、少し怖かったが、佐藤はいきなりコタツでいびきをかいて寝だした。私は、寝るにも寝れずずっと佐藤としていたゲームをして朝まで過ごした。
佐藤はずっと爆睡していた。
そして、起きた佐藤は顔を洗い、シャワーをしにいった。
スッキリした様子の佐藤が切り出した。
お前…ショックだろうけど、よく聞けよ。
春樹は先週会った時お前と別れているって言ってたぞ。それで合コンしたんだ。
春樹、女の子お持ち帰りしてたぞ。
私は、ショックで言葉も出なかった。
でも私と春くんの関係をもう一度取り戻したいという気持ちは変わらなかった。
佐藤。言いにくいこと言ってくれてありがとう。
あとは、自分でなんとかするよ。
と言って佐藤のアパートをあとにした。
それからすぐに、春くんにメールを送った。
私たち別れてるの?距離を置くんじゃなかったの?
春くんからは、別れてるよ。今までありがとう。というメールが二日後に届いた。
最初は悲しくて悲しくて泣いて過ごしていたが、そのうちとにかく三年頑張ってみて、その後春くんに連絡しよう。変わった私を見たらもう一度付き合えるはずだ。
そう強く思った。
それが私を頑張らせる原動力となっていた。
とにかく何もかもを頑張ろう。
仕事を精一杯しよう。
高校生の頃、死に物狂いで勉強しながらアルバイトしていた時のことを思い出して。
アルバイト先で友達ができた。
新しく入ってきたアルバイトの子で、私と同じ20歳の大学二年目の女の子だった。
名前は紗耶香。私の親友の紗耶香とおんなじ名前だった。
私はその紗耶香を名字で呼んでいた。
山村紗耶香。はじめの頃は山村さん。と呼んだ。
山村さんはよくお菓子を作ってきてくれた。
そして、穏やかでのんびりした性格だった。一緒にいると、気持ちがやけに落ち着いた。
私は、いつも仕事に関しては完璧に。人に頼まない。他のお店の子とは仕事の話以外しないと決めていた。なので、山村さんとも仕事中はあまり話をしなかった。
山村さんはバレンタインの日にチョコレートを作ってきてくれた。
私は、食べ物が手に入った!と大喜びで家に帰って食べた。
次にアルバイトの時間が一緒になった時にありがとう!と言った。それ以外は美味しかったよーお菓子上手だね。くらいの会話をした。
だが、山村さんの様子はどこか寂しげだった。
それからも私に対して山村さんはいつも通りだったが時折寂しげな表情を見せた。
それがしばらくたった頃、私は、心配になり仕事終わりに山村さんに直接聞いた。
何か様子おかしくない?バレンタインの時から。何かあった?
山村さんは、もしかして中に入っているもの見てない?と私に聞いた。
私は、チョコレートでしょ?食べたよ!と言った。
山村さんは、言いにくそうに答えた。
あのチョコレートの包み紙の横に手紙入れておいたの。私の電話番号とアドレス書いたのだけど、返事来なかったからもしかして嫌われてるんじゃないかと思って…
私は、ごめん!手紙ありがとう!気づかなかった!
今連絡先交換しようか!
といい山村さんと連絡先を交換をした。
それから、山村さんをのちにヤマと呼ぶようになり
どんどん仲良くなっていった。
ヤマには彼氏がいて、同じ大学で付き合って二年目だそうだった。
彼氏の中条くんを紹介してもらったが、イケメンで、中身はヤマと同じでおっとりしていて話しやすい男の子だった。
三人でもよく遊んだりした。二人といると、気を使わずに入れてとても居心地が良かった。
ヤマにも、よく春くんの話をした。
ヤマは、きっと戻れるよ!と言ってくれた。
私は、車を購入したあと、本店の正社員面接を受けに行った。
面接は、私服でいい。と言われ、さすがアパレル!そういうオシャレも見るのね。と思いながら緊張した面持ちで向かった。
面接はなるべくきれいめのワンピースを着ていった。
面接官は一人。なんと23歳の若店長だった。
店長の面接は拍子抜けするような内容で、私が必死に本などで調べた質問は一つ。志望動機しか聞かれなかった。
あとは、趣味の話や携帯にどれくらいの友達が登録されているかなど交友関係の話をした。
それと好きなブランドやファッションについても聞かれた。
店長は切り出した。
あのさー、お腹弱いって聞いたんだけど、それで仕事休んだりしてたって聞いたのね。
私は、ヤバいと思った。落ちる。と確信した。
そして、朝勤務だと、お腹壊すんです…スイマセン。と正直に答えた。
すると店長は、以外な回答をした。
実は俺もお腹相当弱くてさー、仕事中もよくトイレこもるんだよね。朝はキツいよねー。
気持ち分かるよ。
私は、ヘンテコリンな面接官に少し笑いそうになったが、気持ちを引き締めたまま、面接を終えた。
他に面接を受けた人数は今のところで10人と聞いていた。
そのうち受かるのは一人。
私は、絶対に落ちる。と凹みながらも結果を待った。
二週間後、電話で結果を聞いた。
結果は採用だった。嬉しくて堪らなくて、とにかくありがとうございます!と何度も言った。
しかし、正式な採用ではなかった。
店長は、言った。
やっぱり体調面だね。正社員としては採用できない。あなたは、契約社員として働いてもらうよ。
私は、契約社員とはどういうものなのかあまり分かっていなかったが、社員になれることが嬉しくてありがとうございます!と再び言った。
そうして私は、21歳の秋、本店で勤務することとなった。
受かったのは私ともう一人、麻里ちゃんという同じ年の女の子だった。
彼女も同じく契約社員での採用だった。
理由は家がかなり遠く、通いきれるか分からないということからだった。
私は、前のアルバイト先のお店での引き継ぎがあり本店に移るのが、麻里ちゃんより1ヶ月遅れてしまった。
初めて、本店で働く日。私は、緊張していたが楽しみでもあった。
これで、死ぬ気で頑張れば春くんも見直してくれるはず!正社員になりたい!
そう思っていた。
一日目は研修からスタートだった。
スタッフの紹介から仕事の大まかな内容。扱っている商品の流通ルートなどを聞いた。
私は、全員の名前と年齢と特徴をメモした。
その日いなかった人の特徴も教えてもらいメモした。
まず、社長の高橋さん。その日は挨拶程度しかできなかったが、きさくで年も30代前半とかなり若かった。
そして、エリアマネージャーの哲也さんと健さん。
店長の中居さん。
社員の太郎さんと香奈さん。
契約社員の麻里ちゃん。
フリーターの克也さんと洋子さん。
主婦アルバイトの川さん
そして、学生アルバイトの誠さんとシンさん。
が本店の全スタッフだった。
他に系列店が二店舗あり、一つは私がアルバイトをしていた小さなお店。
そして、もう一つは本店と同じ名前の大きいお店があった。
それからは怒涛の毎日だった。店長が配慮してくださってシフトは全て遅番だった。
オシャレにイマイチ疎かった私は、ディスプレイを作るのにかなり時間が掛かったり、接客の入り方も下手だったのでとにかくビシバシ鍛えられた。
その時は仕事で頭がいっぱいだった。
辛い時は、春くんを思い出してひたすら頑張った。
アルバイトのスタッフの方が全てを上回っていたので、私は、それに追いつくため休みの日も全て勉強に費やした。
本店で仕事をし始めてから、少したったころ、太郎さんに連絡先を聞かれた。
店長の連絡先しか知らなかったので、私は、喜んで交換した。
店長は一見クールだが、お茶目な所も垣間見える人。太郎さんは対照的に初っ端から下ネタを飛ばしたりギャグを言ったりするようなかなりお茶目な人だった。
見た目も対照的で店長の中居さんは顔が薄くて肌も白いイケメンだったが、太郎さんは顔が濃くて肌も黒いイケメンだった。
何でも相談してね。と太郎さんは言った。
私は、そんな太郎さんを凄いいい人だと思った。
本店で働くようになって、一つ驚いたことがある。スタッフ間のコミュニケーションがかなり多いことえだ。仕事中もギャグを言ってみんなで笑ったりしていた。
私は、初めは理解できなかった。
必要最低限の会話だけで仕事は成り立つ。
無駄話なんていらない。と思った。
静かに仕事をしていた私だが、次々に色んな人がちょっかいをかけたりしてきて、少し心を開くようになってきた。
でも、元々の性格は変わらず他のスタッフと仲良くなることはなかった。
その時、初めてミーティングに参加した。
本店は月に一回の社員ミーティングと、月に一回の全員参加のミーティングがあった。
本店での全員ミーティング。たくさんのスタッフが続々と会議室に入ってきた。
同じ時期に入社した麻里ちゃんは慣れた様子で他のスタッフと楽しそうに話していた。
皆それぞれ話している中、私は一人ぼっちでミーティングが始まるのを待った。
ノートとペンを出して気合い十分だった。
その時、見たことのない人が会議室に入ってきた。
のちに、エリアマネージャーの健さんだと分かるのだが、その時は健さんも他のスタッフと話していたので自己紹介ができなかった。
他のスタッフには自己紹介は済ませてあったので、なんて失礼なことをしてしまっているのだろうと後で自分を責めた。
そうして初めてのミーティングは始まった。私は、中居さんから一番遠い端っこの席に座っていた。一生懸命メモを取る皆。仕事に対して皆真剣だった。
その時、隣に座っていた香奈さんが、私のノートに落書きをし出した。香奈さんは私がいた店舗にほとんどいて、本店で仕事を一緒にしたことがなかったので挨拶程度しか話したことのなかった。
焦る私を、香奈さんは楽しんでいた。
次に香奈さんは私のわき腹を摘んだ。
私は、ついつい反応してしまい、中居さんにどうしたの?と聞かれてしまった。
トホホ。
無事?ミーティングが終わった。
私は、皆が雑談をしている中、中居さんにミーティング内容の確認を取っていた。
中居さんは何度も何度も質問する私に少し困ったような顔をしていた。
それから少したった頃、お店が大きく変わることになる。
本店に新しい社員さんが入ること。
もう一つの店舗がとある小さなショッピングモールに移動になること。
そして、私がいたお店はもう少し華やかな場所に移動することになり、前にいたスタッフは通えなくなり全員が辞めてしまった。
それに伴い香奈さんが店長として働くことになり、残りは麻里ちゃんや洋子さんや私が順番に出張に行くことになった。アルバイトも新しく募集し、2人ほど採用になった。
本店には新しい社員さんの長友さんが入った。
以前本店で長く働いていて社長の勧めで戻ってきた様子だった。
凄く張り切っていて、とにかく真面目で、私と少し似ているなあと感じた。
そして、もう一つの店舗からフリーターの由美さんと主婦の小春さんが入ってきた。
2人は殆ど、本店にいることはなく香奈さんの店舗にいた。だが、由美さんは本店に残るようになっていき、殆どは小春さんと洋子さんがヘルプに行っていた。
そして、ショッピングモールの新店舗には、太郎さんと旧店舗の格さんとエリアマネージャーの哲也さんが移動することになり店長は、哲也さんがすることになった。
異動に新店舗にと皆大忙しだった。
そんな中私は、奈々に誘われてカラオケをすることになった。
奈々は友達の結婚式で知り合った男の子にカラオケ誘われて断りきれなかったそうだ。
休みを合わせて某カラオケ店へと入ると、太めの優しそうな男の子と背の高い細身の男の子がいた。2人とも年は2つ上だった。
名前は慎吾といたる。
慎吾が奈々を誘っての集まりだった。奈々は慎吾に言い寄られ、満更でもない様子だったが、後に聞いてみると好みじゃないし付き合うつもりはないよ。と言っていた。その後慎吾は奈々に告白するのだが、玉砕することになる。
いたるは不機嫌そうな顔をしていた。
私もいたると仲良くなるつもりはなかったので、とりあえず歌って過ごした。
少し自慢させてもらうと、歌は人から誉められることが多かったので自信があった。
しかし、いたるはずっと不機嫌な顔をして私の歌を聞いていた。感想も特になし。
一方、いたるは歌はまあまあ上手いくらいだった。
ただラップを歌うとかなりクセがあって、本物の歌手のように聞こえた。
カラオケの清算を慎吾がしている中、ずっと不機嫌そうな顔をしていたいたるが私を外へ引っ張っていった。
今から、慎吾が奈々に告白するから、お前は俺の車に乗って帰れよ。
そう偉そうに言われると私も少しムカついた。
しかし、奈々に乗せてきてもらっていて足がなかったので仕方なくいたるの車に乗せてもらった。
車にはステッカーが沢山はってあって、CDが山ほど乗っていた。流れてくる音楽も聞いたことがないものばかりだったが、途中で凄く惹かれる歌があった。
無言で車を走らせていたいたるに、私はこの歌いいね!誰の歌?
と聞いた。
いたるは、不機嫌そうな顔が一変し、嬉しそうな顔をした。
そして、いたるは俺の歌。と言った。
私は、ええ?!!じゃあこのラップの所は?
バンドしてるの??
凄い!カッコいいねそういうの!憧れる!
とにかくテンションが上がり話しまくった。
いたるは、不機嫌そうな顔ではなくなったが、無表情で私の質問に答え続けていた。
送ってもらって車から降りる時に、いたるは私に一枚のCDを渡した。
聞いたら感想教えてね。と言われて連絡先を交換した。
速攻で走り去っていく車を見ながら、私は、読めない人だなあ。と思っていた。
家に帰りCDを聞いた。女性ボーカルの迫力ある声とクセのあるラップが融合していてとても気に入った。ネットでバンド名で検索すると、YouTubeでライブ映像が出てきたりしたので私は、それをとにかく見た。
すっかりこのバンドの虜になってしまった私は、通勤時もそのCDを聞きながら運転するようになった。
感想もすぐにメールした。むっちゃ良かった。
特に車で言ってたあの曲が好き!
今度ライブあったら教えてよ!
見に行きたいしチケット買います!
返事はすぐにはこなかった。
むしろ、誰だっけ?という返事が一週間後に来た。
おいおい。と思いながら、奈々の友達!とメールしたらやっと思い出した様子だった。
そこからしばらくは連絡することはなかった。
それよりも困っていたのは、成人式後から少し経ってから始まった武雄のアプローチだった。
武雄は彼女がいるにも関わらず、私に付き合ってくれと何度もメールや電話をしてきた。
私は、それを毎回かわすのが面倒になってきていた。
そして、知らない番号から電話がかかってくるようになったのも悩みの一つだった。
怖くて一度も出なかったが、どうやら武雄の彼女からの電話らしかった。
留守電が残っていて、人の彼氏に手を出すな!と怒鳴り声が入っていた。
私は、仕事はバリバリしていたが、それが悩みで休憩中はよくため息をつくようになった。
休憩中、よくエリアマネージャーの健さんが休憩室に入ってくることが多かった。
必然的に健さんと会話することが増えていき、私も少し他のスタッフよりは心許せる存在だった。
健さんは、見た目は漢って感じの昭和のイケメン顔だった。中身はまったーり話す、少し天然な人だった。私は、見た目と中身のギャップに笑ってしまった。
いつも通り休憩室で健さんとご飯を食べていると、携帯が何度もしつこく鳴った。
健さんに謝ってマナーモードにしたが、ブーブーとバイブ音は鳴り止まなかった。
私が電話に出ないので、健さんは俺に気を使わず電話しなよ。と言ったが、私は出たくないんです。
と答えた。
健さんに事情を聞かれて、私は武雄にアプローチされて困っていると答えた。
すると、健さんは凄く怖い顔をした。
俺に携帯かして!そいつの電話出る!と言い私の携帯を奪って電話に出た。
そして、こう言った。
俺、こいつの彼氏なんだけど?お前、人の彼女に手を出してんじゃねーよ。もう電話もメールもしてくんじゃねーぞ。
そして電話をブツッと切って私に携帯を渡した。
健さんはもうこれで大丈夫だよ。と笑った。
私は、今まで働いていて初めて相談できる人ができた。その後、武雄からの連絡も途絶えたので安心した。
私は、それから新店舗のお店作りに参加するようになった。
行くと、業者さんや本部のマネージャー達がいて緊張したが、香奈さんもいて少し安心した。
香奈さんは、私をタバコ吸いにいくのに付き合ってくれたり色々話を振ってくれたりとミーティングではいつもちょっかいをかけてくるが、いい人そうだった。
香奈さんは一緒にタバコを吸っている時に私に質問をしてきた。
本店の男の人で誰が誰が一番好みー?顔だけでいうと。
ちなみに私のお店は全て恋愛禁止だ。
それがなくても、春くんを忘れられない私は職場で恋愛する気はなかった。
昔海とつきあっていたときに別れたことが原因でアルバイトを辞めてしまったトラウマもあった。
私は、どう答えるか少し考えて無難に他店舗になるからいいか。と格さんの名前を挙げた。
格さんとは、まともに会話したことがなかったのでちょうどいいかな。と失礼ながら思った。
旧店舗の店長をしていて、本店の店長の中居さんと凄く仲がいい様子だった。
一度、格さんと香奈さんが本店に一緒に来ていて、仕事終わりに中居さんも含めて4人でいたことがあった。
格さんと香奈さんは凄く仲良さそうに二人で話をしていた。中居さんはいつもの冷静な口調で、私が貸した漫画を読んでいた。そして私に一緒に読もうと言った。
週刊誌の大きな漫画だったが、二人で読むにはかなりの密着が必要でかなりビビったのを覚えていた。
一方で香奈さんは、中居さんか誠かな?と同タイプの薄い顔のイケメン顔を言った。
そして、格さんはありえないでしょー。と私をB専だと言って笑っていた。
同時に彼氏はいるの?と聞かれた。
いないです。
と答えると、香奈さんから太郎さんをごり押しされた。私がいじられキャラの太郎さんをよくいじっていたからだと思った。
私は、好きな人がいるので…と毎回かわしておいた。
実は、中居さんにも休憩中に彼氏はいるの?と聞かれたことがあった。
私は、いません。と答え、好きな人はいます。と付け加えた。
どんな人?と聞かれて、元彼です。もう別れて一年以上経ってるんですけどね。
と答えると中居さんは怖いわ!と言っていた。
さらに中居さんはお前、男友達多い?と聞いてきた。
中学校の同級生や春くんの友だちなどとは付き合いがあったので、まあ遊んだりはします。と答えた。
中居さんは、じゃあ香奈と似てんな。俺、香奈のこと一番好みやけど、男友達多いのは嫌だわ。
と笑った。
本店は店長の中居さんと社員の長友さんが仕切るようになった。
長友さんはブランクを覆す勢いで仕事に励み、みるみるうちに中居さんと並ぶレベルへとなっていた。
中居さんはクールなタイプで、長友さんは熱いタイプだった。
私は、そんな長友さんに憧れ慕った。理想の上司だと思った。長友さんからは全身から溢れ出す活力を感じたし、色んな発想を言ってお店がどんどん向上していく様子は誰から見てもわかった。
私は、相変わらず仕事を覚えるスピードは遅く、特に接客は本当に下手だった。
マニュアル通りでないと、上手く話せなかった。
多分人との会話自体が苦手だったのだと思う。
一方で、同期入社の麻里ちゃんは、いつも笑顔でニコニコしていて性格もかなり良かった。
スタッフもお客さんも麻里ちゃんによく馴染んでいた。
私は、麻里ちゃんと自分を比べてよく落ち込んだ。
でも、そのたびに長友さんは私を慰めてくれた。
君は誰より頑張っている!それが一番なんだよ!と毎回言ってくれた。
私は、長友さんの言葉を信じて、さらに頑張った。
21歳のクリスマスの日がきた。
恋人がいるスタッフが休みを取る中、私や中居さんなどの社員や、フリーターの克也さんはクリスマスイブ、クリスマス共にシフトに入っていた。
克也さんは誰よりも優しくて、聞き上手だった。
もっとシフトが被れば良かったが、残念ながら克也さんと洋子さんは1月に辞めることになっていた。
洋子さんは見た目はきつめだったが、中身は家庭的でギャップがあった。そして本店にいることはほとんどなかったが接客もうまかった。
そのころ洋子さんと休憩が被り、洋子さんはよくヘルプに言っている時の愚痴を言っていた。
主に店長の香奈さんのことだった。
香奈さんの接客はお客さんと友だちになる接客で天真爛漫だった。リピーターのお客さんも多かったが、逆にそれが嫌で来なくなるお客さんもいた。
そして、洋子さんは2つ私に秘密を教えてくれた。
一つは香奈さんと中居さんが付き合っているかもしれない。というものだった。
香奈さんが本店の会議室に忘れ物をして、走って扉を空けるとそこには香奈さんと中居さんがイチャイチャしていたそうだ。
それが、原因か香奈さんの仕事ぶりにはムラがある。そう言った。
そしてもう一つは、洋子さん自身のことだった。
洋子さんは太郎さんと付き合っているとのことだった。
確かに最近たまに本店に来る太郎さんは妙に機嫌が良く、服装のセンスも少し洋子さんと似たファッションをするようになっていたな…と思った。
洋子さんは社内恋愛禁止だから、1月で辞める。と言った。
私は、洋子さんのカミングアウトにかなり驚いたが、誰にもそれを言わなかった。
スタッフの皆ともいつも通り接していた。
クリスマスイブの前の晩に、久しぶりにいたるから電話があった。
お前、明日夜空けれる?
と聞かれた。
ライブでもあるのかな?と思い私は、空けれるよ。と答えた。
そしてクリスマスイブの日の仕事終わりにいたるが車で本店まで迎えに来た。
どこに行くの?と聞くといたるは内緒。と言った。
いたるは、私が行ったことのない場所へと向かっていった。そこは、音楽スタジオと書いてあった。
ライブハウスじゃないけど、何だろうと思っている私の手を引いていたるは私をスタジオへと連れて行った。
いたるはスキンシップを多く取るタイプで、車内でも肩を叩いてきたり、頭を撫でたりしてきた。
本店の男性スタッフと、ハイタッチをしたり至近距離で働いたりしていたので私は、もう軽いスキンシップ程度には慣れていた。
スタジオに入ると、バンドマンが沢山いていたるも軽く挨拶していた。
そして、防音の扉を開くと、そこには知らない男の人や女の人がいた。
それぞれ楽器を持っていた。
続く。




