20歳までを綴る
高校卒業後、私はとにかく仕事に励んだ。
アパレルの接客術はファミレスの接客とは、全く違いはじめの頃は戸惑いもあった。
だが、慣れていくにつれてどんどん接客が楽しくなっていき仕事は充実していた。
このお店では、正社員になることはできない。もしもなりたいならショッピングモールにある本店で正社員雇用の面接を受けてそこで働かなくてはならない。
と店長から言われていた。
私はその頃正社員になることの重要性に気付かないままだったので、そのままアルバイトとして働いた。
もちろん給与はほとんど母に渡していたので、貯金もしていなかった。
弟の修学旅行などがあり、とにかくお金が必要だった。
お父さんは仕事を見つけては数日で辞めるを繰り返していた。
辞めるたびに家で暴れるお父さんを見るのがもう限界になってきていた。
休みの日は、地元の大学に通う紗耶香や同じく地元に残った風花や職場のアルバイト仲間と遊んだりした。
紗耶香と拓也の交際は、まだ続いていたが、拓也は二股交際をやめて今度は穏やかに付き合っている様子で少し安心した。
そのころから、中学生のころの仲間との集まりも増え、私も紗耶香に誘われてたまに参加するようになった。
紗耶香と拓也はとても仲が良さそうで私もほっとした。
しかし私と拓也が会話することはなかった。
紗耶香のお陰で中学生の頃あまり話したことのなかった子とも少しずつ話せるようになってきていた。
私はその時も、拓也の過去の浮気について紗耶香に言わなかった。紗耶香を傷つけることは絶対に話さないと決めていた。
ある日、仕事が休みだったので、紗耶香とショッピングモールへ出掛けた。沢山のお店が並び、夕方になるとキャバクラの勧誘や客の呼び込みが盛んに行われていた。
紗耶香が服を見ている間、私は職場の本店を覗いた。入る勇気はなかった。
とても落ち着いた大人の雰囲気で、接客もとても丁寧なのが見うけられた。
私は、お店と全く違う雰囲気に怖さを感じてそこで正社員として働くことはますます考えなくなった。
その時、後ろからお姉さん、落としましたよ?と声をかけられた。
振り向いて応じると、どうやら何かを落としたと思わせて声をかけるキャバクラの勧誘だった。
いつもはキッパリ断ってくれる紗耶香がいなかったので、私は断りきれずグイグイと手を引っ張られどこかへ連れて行かれそうになった。
やめてください。と大きな声で言ったものの人ごみの中、誰にも届かない。
その時、私は後ろに覆い被さるように、誰かに抱きしめられた。振り向くと長身で細身のギャル男系の男性だった。
俺の彼女に何すんの?とその男性は睨んだ。
すぐにキャッチは逃げていった。
私が、ありがとうございます。と言うと、彼はあんなもんちゃんと断れよ!お前みたいに優柔不断な態度とってるから連れて行かれそうになるんだよ!と私を叱った。
私は、初対面でいきなり怒られたことが怖くて泣いてしまった。
その時、紗耶香が現れた。
えーどうしたの?と駆け寄る紗耶香。
彼が事情を説明すると、彼と紗耶香は意気投合し、彼と紗耶香は連絡先を交換した。
紗耶香から、あとで彼の名前を聞いた。
春樹。紗耶香が春くんと呼んでいたので、私もそう呼ぶことにした。
それから、春くんの友達も交えて遊ぶようになっていった。
私はとにかく家に帰りたくなかったので、その空間が居心地良かった。
最初は警戒していた春くんたち。見た目はチャラチャラしていたが、中身は硬派だった。
みんな大学生で、県外出身者ばかりだった。
地域がバレないように標準語で書いているが、春くんはかなり訛っていた。見た目とのギャップに最初は笑ってしまった。
最初は怖いと思っていた春くんは、とても優しい青年だった。
みんなで遊んでいる間も、春くんはよく電話をしにいっていた。
みんなが女の子かー?とからかう中、春くんの電話の相手は実家に住む幼い妹や弟だった。
お母さんがうつ病になってしまい家庭が大変な中春くんは奨学金制度で大学へ来た。
夜はバーでアルバイトしながら、家計を支えていた。
ある日、紗耶香にこう言われた。
春くんってあなたのこと好きなんだって。
私はてっきり春くんたちは、みんな紗耶香のことが好きなんだと思っていた。
中学生の頃を思い返すと男の子はみんな紗耶香に夢中で、私に好意を持つ男の子なんていなかったから。
私は春くんをはじめて男性として意識した。
でも付き合うことは考えられなかった。
私の汚れた過去が次への恋の邪魔をしていた。
紗耶香には他に気になる人がいるから。と言った。またウソをついた。
私は紗耶香にこの頃はとくに沢山のウソを付いていた。
経験人数を聞かれたら、多すぎてわからない。と返したりとにかく遊び人ぶっていた。
もう、恋愛はコリゴリだ。そう思いながらもどんどん春くんに惹かれていく自分がいた。
二人で遊ぶようにもなった。
ちょうど、大学の夏休みの時期だったので週に何度も会うようになった。
私はすっかり安心しきっていて、昔のトラウマも忘れつつあった。
なにより私を可愛いと言ってくれたことが嬉しかった。
しだいに、私は春くんの家に泊まり込むようになっていった。春くんは指一本私に触れなかった。
寝るときも私がベッドで春くんはソファーだった。何度も私がソファーで寝るから春くんはベッドでと言ったが春くんはきかなかった。
そんなことが続いたある日、春くんと罰ゲームをかけたトランプゲームを二人でしていた。
負けたほうが、好きな人に告白するという内容だった。
最初に私が負けたが、私は弟に電話して大好きだよ!っと言った。弟は気持ち悪いーと言いながら電話を切った。
春くんはその手があったかーと笑った。
何度も同じ様な攻防は続いた。
その時、春くんが真剣な顔をして私に言った。
俺の気持ちはもう分かってるよね。
君がその好きな人を忘れるまで、俺はずっと待ち続けるよ。
と言った。
私は嬉しくて号泣してしまった。
春くんはそんな私をずっと見ていた。
恥ずかしいし、ブサイクだから見ないで!と私は言った。
春くんは、可愛いよ。と何度も言ってくれた。
私は、今もう大好きだよ。私と付き合って下さい。と告白した。
春くんはマジで?マジで?と言いながらも嬉しそうな顔をした。
春くんは私を抱きしめて、何度もマジかー。と言い続けていた。春くんは私を抱きしめていた手をぱっと離して、両手を広げて王子様のように膝を立て唇を思いっきり突き出して目を閉じた。
私はどうしたらいいか分からずおろおろした。
私からキスをするなんて恥ずかしくてできない。そう思った。
春くんはそのポーズのまま、早くーと私を急かした。
私は勇気を出して春くんの唇に自分の唇を重ねた。人生で二度目のキスはとても長かった。
それから、春くんは満足っ!と言って私の隣でいびきをかいて寝だした。
私はてっきりそれ以上のこともされるのだと思っていたので拍子抜けして春くんの隣で寝た。
普段はなかなか寝付けない私が久しぶりに睡眠をとれた日だった。
それから、私は春くんのアパートにどんどん泊まり込むようになり、半ば半同棲生活だった。
春くんは、私をほっとけない存在だ。危なっかしい。とよく言った。
私は、叱ったり甘やかしたりしてくれる春くんに益々はまっていった。
いつも、二人ともお金がなくて、節約デートをした。ご飯は外食を避け、二人でたこ焼きや、焼きうどんを作って食べた。
春くんが作る焼きうどんは最高においしくて、私は何度も作ってとせがんだ。
いつも激安スーパーに二人で買い物に行った。
私がお菓子を買いたいとせがむと、一個だけだぞー。しょうがないなあ。と笑う春くんの笑顔が嬉しかった。
その代わり片付けや洗濯、などの家事は私がやっていた。
とにかく勉強やアルバイトに忙しい春くんに負担にならないように、春くんに尽くした。
春くんにハマるあまり私は仕事がおろそかになっていき、シフトを大幅に減らして会いに行った。
給料は激減したが、家に入れるお金を減らしてオシャレやデートに当てた。
私の春くんへの愛情はどんどん異常化していった。
トイレやお風呂もあとに着いていき春くんが出てくるのを待ったり、春くんのお風呂の際も頭や身体を洗ったり髪を乾かしたりするようになった。
また、家に帰る事になるときは毎回号泣して春くんに離れたくないと縋った。
そのたび春くんは困ったように笑った。
春くんの携帯電話もチェックした。
出てくる女の子の着信に泣いて怒ったり、部屋にあった前の彼女の写真を無理矢理捨てるようにいったりと束縛もするようになった。
もうこの世界には春くんと私しかいない。そう思うほどになっていき、春くんが友達と遊びなよというたびに私には春くんしかいないと言って泣いた。
ある時春くんが大学の研修で何日間か県外へ行くときがあった。
その時に私のおじいちゃんが亡くなった。
長い病状生活を遂げての死だった。
すでにお母さん側のおじいちゃんは亡くなっていたので、今回はお父さん側のおじいちゃんだ。
お父さんは、縁を切られているにも関わらず、
新聞で知るなり、一人でお父さんの実家へと向かっていった。
そして帰ってきたお父さんは、あいつらは能無しだ。縁を切ってきたからお前らは絶対に俺の実家に近付くなと言った。
梅おばちゃんとお母さんは親交があったので、私と弟はおじいちゃんが亡くなったことを事前に聞いていた。しかし、お母さんの仕事の都合で葬儀などには出れなかった。
私は、それを春くんや友達に相談しなかった。
その頃は相談する意味というものが分からなかった。相談=誰かに負担や迷惑をかける行為だと思っていた。
過去、お母さんにも相談しようと思ったことはあったが、聞く耳持たずだったので諦めていたことが大きかったのだと思う。
ただ、春くんに会いたくてたまらなくて私は泣いてばかりいた。仕事は3日間休みが取れた。
お母さんと弟と三人で、お父さんに内緒でお父さんの実家へと向かった。車で三時間の距離を私たちはほぼ無言で向かった。
もうおじいちゃんは骨になっていた。私たちは仏壇に手を合わせた。
それからは親戚やいとこにすごく責められた。
梅おばちゃんは何も言わずにいた。
お父さんが押し掛けてきて喪主をすると言い張ったこと。介護を一切協力していないのに、亡くなったのはお前らのせいだ。といとこや梅おばちゃんを責めたこと。
などなどたくさんたくさん責められた。
そのたびに謝るお母さんに私は疑問を感じた。
私は重い空気の中、口を開いた。
なんで、私達を責めるの?責めるのならお父さんじゃねーの?あいつは最低最悪の人間だよ。父親としても人間としても。
あいつが死ねば良かったのにな。
と高笑いしながら言った。
すると隣にいたお母さんが私の太ももを思いっきり摘んだ。とても痛かった。
昔からお母さんは人前で私が粗相をすると必ず、私の太ももを叩いたり、摘んだりした。
親戚やいとこは何も言い返さず黙っていた。
お母さんは本当にすいませんと頭を下げて、急いで自宅へと向かっていった。
帰るまでの三時間、私はお母さんに説教をされ続けた。
恥ずかしいことは言わないでちょうだい。
と、とにかくお母さんは言った。
私は、また周りの目ばっかり気にして、私や弟が犠牲になってもいいと思ってる。と思い、口だけ謝っておいた。実際は反省なんてしていなかった。ただ、弟が心配だった。
弟はいつもの調子で私とお母さんの間に割って入り世間話をしたりギャグを言ったりして場を和ませた。
弟はいつもそうだった。
黙って周りをよく見ていた。そして誰も傷つかない解決策を選ぶ子だった。
そんな弟を羨ましく思う時もあった。
私は父親に似てしまい、激情する性格だ。
ついつい言ってはいけないことも言ってしまい昔からお母さんによく叱られた。
その後お父さんはどんどん荒れて仕事を辞め、失踪したり、家の水道を全て全開に出したり、テレビを近所迷惑なくらい大音量にしたりと謎の行動をしだした。
お母さんは、自殺を毎回心配していたが、私はお父さんのことを心配していなかった。
とにかく早く死んでほしかった。
私や弟にストレスを与える諸悪の根元が消えてくれることをひたすら祈った。
春くんが帰ってくると、また春くんのアパートに居座った。もう私には春くんしかいない。本当にそう思った。
春くんが友達と遊びに行ったり、忙しくて寝てばかりいることもとにかく責めた。
私の相手をして!ととにかく依存した。
もちろんセックスもした。
はじめての愛のあるセックスだった。
はじめは怖くて抵抗もあったが、何度も痛いの?大丈夫?と気にかけてくれたり
大好きだよと私を求める春くんのお陰でセックスに対するトラウマはなくなっていた。
その頃から春くんは少しずつ私と距離を置くようになった。
春くんは、君は友達をもっと作りなさい。
相談もしなさい。
そして正社員として働きなさい。
と私に口うるさくいうようになった。
そして、家事は全て私任せになり、水道やガス代の節約に私がキッチンやお風呂をつかうたびに貯金箱にお金を入れることを強制した。
セックスも自分本位なものとなっていき、とても痛かったがとにかく耐えた。
春くんの欲望を全て受け入れようと思った。
春くんはイベント毎のプレゼントもくれなくなった。私は渡していたしお祝いもしていた。
そして春休みにお金を貯めて行こうと約束していたテーマパークにも行くことはなかった。
19歳になった私は、高校生の頃からの友達の奈々に一緒に成人式に行こうと誘われていた。
奈々は中学校も一緒だったが、その頃はお互いにお互いの存在をあまり意識していなかった。
奈々は中学生のころ壮絶ないじめにあっていたらしく、成人式も散々迷った挙げ句行くと決めた様子だった。
私は、成人式は当初行くつもりは毛頭なかった。
まず振り袖を手に入れるお金がない。
セアセットや着付けなどのお金もない。
スーツも持っていない。
その頃は春くん以外眼中になく、中学生のころの同級生との再会にも興味はなかった。
しかし、奈々の勇気に私は凄く感動した。
私はいじめにあったことはなかったので、仲の良かった友達にいきなり無視されたり、物を捨てられたりしていたらしい奈々の気持ちは全ては理解できなかった。
でも、勇気を出した奈々に心を打たれ成人式に参加することを決めた。
私が一緒に行くことで奈々が少しでも安心できるなら…そう思った。
その頃はいきなり色々な中学生の頃の友人から連絡があった。
殆ど成人式についての内容だった。
だが、私は交流のなくなっていた子の連絡先を消してしまっていて、さらにアドレスを変えてしまっていたので、何人かにはそれを叱られたりもした。
叱ってきた友達の一人がみかちゃんだった。
みかちゃんは高校卒業後、都会の有名校に入学していた。
みかちゃんは両親が公務員で、自分も公務員になるべく勉強を頑張っていた。
そして、みかちゃんがあれから彼氏とどうなったのか聞いてみると、高校生のころは別れていたが、今は遠距離で交際していると言っていた。
みかちゃんはなかなか彼氏と連絡がつかないから、成人式で会うのが久々かな。と複雑な感じだった。
成人式は振り袖で行くよね?
と聞くと、みんな当たり前じゃん。親から買って貰ったよ。もう前撮りもしたよー。
あなたはまだ前撮りしてないの?
と聞かれた。
私は言葉を濁して、違う話題へと切り替えるようにしていた。
私は春くんに成人式は何着ていくの?と聞いた。
俺?入学式に着ていったスーツだけど?
どうしたの?と聞かれた。
私は何でもないよ。と答えた。
私はなんて考えナシに生きてきたのだろう。
貯金しておくべきだった。
と、はじめて自分の金銭感覚に後悔した。
でも、家に入れるお金を考えると、貯金なんてとてもじゃないけどできなかった。
だが、それからは節約して、少しずつお金を貯めるようになっていった。
仕事は真面目にしていたが、職場で友達を作ろうとは思っていなかったので仕事以外の話はせず、黙々と取り組んだ。
なんだか仕事場の人と仲良くしてしまうことで、仕事が捗らなくなってしまうようで怖かったという気持ちもあった。
私は成人式についてはじめてお母さんに相談した。お母さんは振り袖は買えないし、借りるお金もない。と言った。
しかし、お母さんは、新しい提案をしてくれた。
あなた、お母さんの振り袖着る?おばあちゃんの家に置きっぱなしだから今はどうなっているか分からないけれどね。
私は嬉しくて、大丈夫だよ!ありがとう!と言った。はじめてお母さんに優しくされた。そう思ったしお母さんの振り袖を親子二代で着れることも嬉しかった。
お母さんの仕事が忙しく振り袖を取りに行くのは成人式ギリギリになった。
それをそのまま着付けとヘアセットをしてくれる美容院に渡した。
そうして、私は成人式の日を迎えた。
早起きしてシャワーを浴びようとしたら、シャンプーの途中から水が出始めた。
灯油がなくなったようだった。
私は真冬の早朝、冷水でシャワーを浴びた。
今日はツイてないなあ。と思いながら震える体でお母さんを起こして美容院へと連れて行ってもらった。
ヘアセット代や着付け代は自分でお金を出した。
メイクは自分でやった。
着付けが始まる時に、担当のお姉さんが振り袖を見て驚いていた。
年月が経った振り袖は酷く痛んでいて、シミやほつれ、虫食いがかなりあったからだ。
私は、笑顔で大丈夫ですから。と言った。
そんなことは少しも気にならなかった。
それよりもお母さんの振り袖を着れることが嬉しかった。
お姉さんはなんとか振り袖の痛みをカバーしながら着付けをしてくれた。
振り袖も下駄も鞄もかなり古いものだと思われるデザインだったが、私は逆に古風で目立てるかも…とプラス思考に捉えた。
おんなじ美容院に着ていた風花は家族に買って貰った振り袖を着てネイルもかなり気合いが入っていた。
私の地域は、通っていた中学校で成人式をあげて夜二次会に居酒屋へ行くという形だった。
幹事はその時目立っているしっかりしたメンバーがなっていた。
紗耶香もその一人でかなり忙しい様子だった。
私が、中学校に着くと、奈々がすぐに駆け寄ってきた。奈々の家はお金持ちだったので、凄くゴージャスな振り袖を着ていた。
奈々は私の姿を見て一瞬引いた表情をしたが、その後変わらず一緒にいてくれた。
奈々がとても不安そうにしていたので、心配だったが、そのうち周りのみんなとも打ち解けて写真を撮ったりしたりと楽しそうにしていた。
私も色々な友達と久しぶりに再会し、写真を撮ったりした。もう女子は写真合戦になっていった。
私が、ある子に写真を撮ろうと声をかけた。
その子は普段からとてもオシャレで、振り袖も個性的なものを着ていた。
その子は信じられない言葉を発した。
嫌だ。あなたの振り袖汚いから。正直みんなダッサーって思ってるよ。
私はショックでそこから笑顔がうまく作れなくなった。
成人式では、幹事の楽しい司会や中学校時代の写真がスクリーンに映されたりとみんな楽しんでいた。私はその中でショックで固まっていた。
成人式が終わりまたしても写真合戦が始まった。
私は自分の写真を撮らず、周りのみんなの写真を撮る係りをした。
その横で紗耶香は忙しくバタバタ動きながら、拓也と仲良さそうに話していた。
その時、みかちゃんが私に声をかけた。
彼氏と写真撮りたいから協力して。
みかちゃんの彼氏は男の子だらけの中にいて声をかけるのは勇気が必要だったが、私はみかちゃんの彼氏に声をかけて呼び出し二人の写真を撮った。
みかちゃんはあとでプリクラ彼氏と撮りに行くからあなたもあとで二人で撮ろうよ。と言った。
私は先に奈々とプリクラを撮る約束をしていたので、その後なら大丈夫だよ。と答えた。
みかちゃんはそうだよね。あなたの方が友達多いもんね。と不機嫌そうに言った。
その後、奈々とプリクラを撮ったあとみかちゃんと合流しみかちゃんとプリクラを撮った。
プリクラだと振り袖の汚れが分からない状態だったのですごく嬉しかった。
みかちゃんの彼氏と三人でゲームセンターにいると次々に同じ中学校の同級生がプリクラを撮りにきていて、その子たちの写真もたくさんとった。
みんなデジカメの中、私一人が使い捨てカメラだったのをみんなに突っ込まれ恥ずかしかった。
その時、同級生でも強面の男の子が彼女とプリクラを撮りにきていた。
彼女は見たことのない子だったので、話し掛けるのを躊躇っていた。
しかし、みかちゃんの彼氏とその男の子は仲が良かったので、必然的にみんなで写真を撮った。
その時に彼女がそばで待っているにもかかわらず、強面の男の子は私の振り袖姿をすっげーかわいいと言ってくれた。
私はその時はボロボロの振り袖を着ている私への嫌味だと思った。
その後、二次会が待っていたので私はみかちゃんのお父さんに家に送ってもらった。
その時、家の前からとんでもない罵声とドンっという大きな物音がした。
私はすぐさま玄関を開けた。トイレの便座や扉や玄関の入り口のドアも外れていた。
罵声するキッチンの方へと向かうと、お父さんがお母さんに罵声を放ちながら暴れていた。
お父さんが怒っていた理由は、陳腐なもので、お母さんがあるお店のポイントカードを作り、その案内が家に届いていたことがキッカケだった。
お父さんはこのキャッシュカードを使ってお金を借りて男と逃げるつもりなんだろーが!
と怒鳴りながら暴れていた。
私の振り袖姿には目もくれず、成人式のことなど全く頭にない様子だった。
私はそのままほおっておいた。
そして、自分の部屋で振り袖を適当に脱いで、二次会へ行く服装に着替えた。
もう服装なんてどうでも良かったので適当にワンピースとレザージャケットを着た。
二次会へ向かうとすでに奈々がいて、楽しそうにみんなと話をしていた。安心した私には、二次会である目標があった。
中学校時代好きだった彼に、その時の気持ちを伝えようと思っていた。
今はもう春くんという彼氏がいたので、過去は過去としてぶっちゃけようと思ったのだった。
私はいつもよりお酒をハイペースで飲んだ。
多分ストレスから解き放たれたかったんだと思う。瓶ビールにそのまま口を付けて一気飲みした。
少し酔ってきたころ、周りを見渡すとみんなもうベロベロだった。
紗耶香もベロベロに酔っ払っていて、幹事の仕事を忘れて、拓也となんどもキスをしていたのが面白かった。
そのうち、周りはキス大会になっていった。
中学校時代険悪だったリーダー格の男の子二人ががキスをして抱き合って仲直りしたりと感動的な場面もあった。
なかなか彼氏と話せない様子のみかちゃんは、周りの輪に溶け込めずにいる様子だったので私は強面の男の子、武雄と二人で無理やりみかちゃんの彼氏のトシを隣に座らせた。
二人は凄く照れていて、会話もコソコソとしていた。
実はこの二人は手も繋いだことのない純情カップルだった。
それを知っていたのは、唯一私だけだった。
私は、紗耶香のとこと対照的だなあと二人を微笑ましく見ていた。
武雄がずっと私の横に居座っていたが、それどころではない。私も自分の任務を遂行せねば。
武雄が話しているのを無理やり遮り、中学校のころ好きだった彼の元へと向かった。
彼は女の子に囲まれていた。私は負けじとその間に入り込んで彼に話しかけた。
久しぶりだね。実は話したいことがあって…
そう切り出した途端、彼はストップと行って店の外へと走っていった。
私は心配になり、彼のあとを追いかけた。
ちなみに彼のあだ名はなべちゃんだった。
なべちゃーん!と向かうと思いっ切り嘔吐していた。
もうー大丈夫ー?と背中をさすり続けた。
なべちゃんに水を持って行き少し飲ませて落ち着かせた。
ありがとう。なべちゃんはそう言った後、私にこういった。
実は中学校時代、君のことが好きだった。
でも俺には夢があって、その時はそれに夢中で誰かと付き合うなんて考えられなかった。
私もと言うと、彼は知ってる。君分かりやすいもん。と笑った。
私はまさかの両思いだったことに驚いたが、過去は過去。今はもう新しい彼氏のいる私。新しい彼女がいるなべちゃん。
お互いに、ぶっちゃけてなんかスッキリだね。
と笑った。
二人で、お店に戻ると、武雄が浮気してんじゃねーよ!と冗談で私に絡んできた。
私も冗談で、私には武雄だけよ。浮気なんてしないわ。と言った。
周りは大爆笑だった。
私は二次会が終わったあと、お酒に口を付けていない武雄に車で送ってもらった。
殆どの人が歩いて帰れる距離だったり、親に迎えにきてもらったりしていた。
真冬の夜中。外はかなり寒かった。
武雄は大きな身体をしていて、顔も強面なのに、車は軽自動車なのが妙に笑えた。
みんなでサイズ感違うよね?と突っ込んだ。
帰りの車内、武雄は何度も私を口説こうとした。
付き合おうぜ!マジで!
私はそのたびに、お酒飲んだ?
冗談言ってないで、今の可愛い彼女を幸せにしてあげてね。
と返した。
家の近くに着くなり、私はここで大丈夫!と車を降りた。
まだ一緒にいたいと言い出した武雄をなだめて、ありがとう!気を付けてね。と言った。
私が家に向かうにつれて大きな音がしてきていた。大音量のテレビの音だった。
多分、お父さんだな。と思った。
私は家の玄関の鍵穴に鍵を差して回そうとした。
が、その日に限って回らなかった。
そんなことはじめてだった。
何度も鍵が合っているか確認しては、鍵を鍵穴に入れた。でも回らない。
しばらく続き私は考えた。
私の家の内鍵は2つ付いていて、2つとも閉めると外からは開かないようになっていた。
私は、またお父さんの嫌がらせか。と思い、お母さんや弟に何度も電話したが、寝ているようで電話は繋がらなかった。
充電が切れそうになるまでかけた。
寒くて寒くて、早く家の温かいシャワーを浴びたかった。
しばらくして私は、諦めて家から歩いて15分の距離にあるコンビニで立ち読みでもして過ごそう。そう思った。
立ち去ろうとしたその時、玄関のガチャンという音が聞こえた。扉を開けたのは、弟だった。
かなり眠たそうに弟は何も言わず、部屋へと戻っていった。
それから家に入ると、水道が全開に出ていた。全ての水道だった。私はそれを全て締めてから、お父さんのいる茶の間へと向かった。
お酒が入っているからか、その時は恐怖心を感じなかった。
小学校以来に入った茶の間。
缶ビールなどのゴミだらけの部屋で、畳はタバコの灰や燃えカスだらけだった。昔の面影は全くなくなったこの部屋で、お父さんはタバコを吸いながらただでさえ大きいテレビの音量を更に上げた。
言葉は何も発しておらず、私の存在もないものとして扱われていた。
それでも私は最後の望みに賭けた。
お父さんが本当に私を愛していないのか。
お父さんに少しは父親らしいところを見せて欲しかった。
こんなお父さんに99%以上期待はしていないつもりだったが、私はその時何かがおかしかったのだと思う。
お父さんに数年ぶりに自分から話をかけた。
お父さん…今日ね。何の日か分かるよね…。
お父さんとして言うことない?
ちょうどテレビでは成人式のニュースが流れていた。
お父さんは無言のまま、私に向かって吸っていたタバコを投げた。
私は足に火が当たって熱いっ!と言った。
その後も周りにある缶ビールなどを投げつけてきた。
お父さんなりの出ていけの形だった。
私はお酒まみれになりながら、逃げるように部屋へと向かった。
大粒の涙を流しながら。
部屋では、お母さんがスヤスヤと寝ていた。
私はタオルで体を拭いて着替えて布団に入った。
また一睡も眠れない夜を過ごした。
その日から、私にはお父さんはいない。そう思うようになった。
春くんが県外での成人式を終えて帰ってきた。
私は写真を見せるのが嫌で仕方なかったので、プリクラと二次会の写真を見せた。
春くんは、楽しそうだね。可愛いよ。と誉めてくれた。
私も春くんに写真を見せてもらった。
春くんはその時金髪にピンクが混ざった髪色でかなり目立っていた。
髪の色は春くんに頼まれて私が市販の染め粉で染めたものだった。
それよりも気になったのは、色んな女の子と肩を組んで写真に写る春くんだった。
春くん…本当に真っ直ぐ家に帰った?と心配そうに聞く私に春くんはウンザリしたようすで大丈夫。浮気してないから。と言った。
そして、またしても私は春くんに余計なことを言った。
春くん私にクリスマスプレゼントも誕生日プレゼントも今年はくれなかったよね。
成人式の時に友達に言ったら変だよって言われた。私のこともう好きじゃないの…?
と泣きながら言った。
春くんはまた、困ったような笑顔を見せた。
お金ないんだ。分かってるよね?
私はさらにヒートアップした。
お金がなくても、私はあげたよー。
好きだから、安いものでも何でも良かったのに…クリスマスの日も一日中ゲームしてた…何のお祝いもなかったあ!
と泣き叫んだ。
春くんは呆れたようにアパートから出て行った。
私は行かないでと言いながら泣いた。
自分が言ったことを後悔しながらひたすら泣いた。
それからしばらくは泣いていたが、私は振られたと思い、部屋に貼ってある二人の写真をはがしはじめた。
その時、玄関の扉が開いた。
春くんはちょっと来て!っと手を引っ張られて玄関先に立たされ目を閉じてと言われた。
春くんがいいよ!と言ったので目を開けると、そこには大きなバラの花束があった。
春くんは、付き合った当時と同じようにひざまずき花束を渡した。
遅くなったけど、メリークリスマス!と春くんは笑った。
私は嬉しくて号泣した。
春くーんお金はー?
春くんは何とかするから大丈夫だよと言い笑顔で私を抱きしめた。
私は、凄く幸せだった。
それとともに一つの決意をしていた。
続く




