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鶏


さて。

十歳になり恩恵を授かり、前世の記憶もほとんど取り戻した。


日本とは違い、簡単に命を落としてしまえる中世的な世界。

これに適応できるように身体を鍛え始めたけど、それでも暇、とにかく暇で、やることがない。


テレビもネットも、本すら手に入らない状況だから読書もできない、書物を使った勉強も。

孤児達と遊ぼうにも、前世があるから本気で楽しめるものではないし、どっちかというとお世話している感が強い。


手伝いという名の労働も、あるにはあるけど、子供用に手加減された内容のため、比較的すぐに終わってしまうことばかりだし、慣れてしまった今では、さらに時間を弄ぶ。


かといって他人の分の仕事を奪ってまで、しゃしゃり出るのも違うしなあ……。

過去に思っていたことだけど、やっぱり子供時代は体感時間が長いわ。


今になってしみじみ想う、前世の娯楽の多さと多様性の凄さを。

あげたらきりがないけど、登山なんて、あんなに苦しい想いまでして嵌っちゃうんだもんなあ。

とにかく趣味的なものから実用的なものまで、ありとあらゆる趣味というか娯楽というか、暇を潰すための手段が無限に存在していたと思う。


で、問題は今だ。

とにかく何かをなんとかして、暇を潰せることが何かないかと考える。

どうせなら孤児院のためになるような、実用的なものが良いだろう。


そして導き出した答えは、鶏を飼ってお世話をする! というもの。

シスターアルネットが言ったように、卵を食べる機会なんて、そうそうないらしいからね。

鶏は可愛いし、生き物を飼育するのは孤児達の情操教育にも良さそうだ。


卵がとれれば毎日のスープが豪華になるし、ゆで卵を食べたり、鶏肉もたまには食べれるかも知れない。

日によっては売っちゃって、そのお金で塩や胡椒を買えば、毎日の食事にもっと味がつくかも知れないし。


購入する際に掌サイズの黒パンは銅貨一枚で、卵は二つで銅貨一枚が必要。

卵を二つ得る毎に、黒パンが一個増える計算か(直売でないなら販売を委託するため、売価は安くなるが)

餌にかかるコストは未知だけど、ちらし寿司を召喚する手もある(勿体ないけど魔力も余ってるし)


ということで鶏が必要になった。

卵を産むのは雌のはずだから、雌の鶏かひよ子を。

どこで売ってるのか知らなきゃ駄目だし、何よりも、その代金を稼ぐ算段をしなければならない。


いや、その前にまず、鶏を飼うことについて大義名分が必要だ。

俺が勝手に用意するにしろ、院長に相談するにしろ、子供から食い物の心配をされたら、傷つくよなあ? たぶん。


突然どうしても〔卵が食べたくなったから〕みたいな、少し無理がある理由でも、その我儘を叶えてやれない自分達大人を責めそうだし。

エキセントリックな変な子を演じても駄目そうだしで、これは困った。



こうして悩んだ俺は、街の飲食店でバイト的に働くことを決めた。

コネや伝は全くないし、そこからして苦戦をするのがもう、目に見えるようだが。

そもそも働くことを院長に認めてもらう必要もあって、スタートからとても厳しい。


が! 〔将来は迷宮ギルドや狩猟ギルドに登録したい。そして活動するために武器をはじめとした装備が必要だけど、今のうちから少しづつ準備をしたい。準備を疎かにして先輩孤児達のように、あっけなく命を落とすのは嫌だ。だから働いて将来に備える〕


概ねこういう内容で院長を丸め込み、無事に働くことの許可を得た。

よし、次だ! 手の空いてる時間に限り、働き先を探すために外出をする許可を得る。


そうして街に繰り出した俺は、多数存在する飲食店に度肝を抜かれた。

まず、全ての店で酒の類を出すもんだから、昼間からガンガン酒臭い。


そして店毎に特色というか個性というか、同じように見えて、その実は結構な差異があった。


戦いを生業とする者が集まる店は決まってガラが悪く、怒号が飛び交う。

その中でも少しだけ行儀が良く見える、兵士が訪れる店、狩人が多く集まる店、迷宮の探索者で埋め尽くされる店といった具合に、同じガラの悪さでもピンからキリまで〔癖〕がある。


他にも商人が好む少し値段が高い店、労働者が集まる安い店、職人が集まる店や文官が贔屓にしている店というように、なんとなくだが、しっかり住み分けがされているように思えた。

特に◯◯専門店とか謳ってもいないのに。


とにかく、これらの飲食店の中から、働ける場所を探さなければならない。

忙しい時間帯を避け、働きたい旨を伝えてみても、当然というか、普通に門前払いを受け続ける。


別に俺くらいの子供が働いたらいけない、なんて決まりはなく、実際に働いている子もちらほら見かける。

きっと、そういう子達には血縁関係だとかコネだとか、何らかの理由があるんだろうなあ……。


俺の身なりや出自にも、敬遠される要素があるのかも知れない。

孤児といえば貧しさの代名詞みたいなところがあるし、貧しいイコール何か盗まれそうな、どうしてもトラブル関係のイメージはあるし。


責任の所在を求めても、孤児院に金がなければ満足に補填もされないまでも連想できる。

だいたい、このみすぼらしい子供に、何か一つでも仕事を任せられるのか? と思われても、文句は言えない立場だしなあ。


髪をかき上げると自然にできてしまう真ん中分けも、この世界では珍しいから、おかしな子供に映るんだろうか、この社会では?


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