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断られる


一の魔力で恵方巻きが召喚できたことを経て俺は、それからも数日を費やして、色々と召喚をやってみた。


輪切りにされてパックに入った、スーパーの太巻きも、消費する魔力は一。

回る店のものだけど、穴子が一匹乗ったような姿の長くて大きな寿司も、必要な魔力は一だった。

極めつけは過去に母親が作ったちらし寿司で、車のハンドルみたいなサイズの寿司桶のもの。

全ては消費魔力一で召喚されちゃう。


そうした検証を繰り返す日常の中で、困った問題も出てきたり……。

ある日の昼食時、孤児の一人が何日も食堂に現れない俺を探しに、ベッドのある部屋まで来てしまった。


最後の太巻きを口に頬張って難を逃れたけど、恵方巻きやちらし寿司だったら結構やばかったと、振り返って殊更(ことさら)に思う。


少ない魔力で絞り出すように召喚するお寿司達は、俺にとっての唯一の生命線。

これしか食うことができないんだからな死ぬまで一生。

仮に目の前に食べてもいい豪華なご飯があったとして、それが寿司じゃない限り完全に無意味みたいなものだし。


だから、けして自分だけいいもの食おうだとか(食ってる)、意地悪をしてるとかではないんだけど、そりゃあ気になるよなあ、とも思う。


なぜか食事の時間になると一人だけ皆と離れて別行動をして、いつの間にかまた近くに混ざり、何食わぬ顔をしている。

しかも、ここ最近毎日のように。

怪しい……怪しすぎる! 逆の立場でも余裕でそう思うわ、きっと。


そうした小さな事件があって、次の日からは院長の部屋で食事を摂ることを許されたけど、俺の考えも変わってきた。

消費魔力が一で済むなら、ガンガンちらし寿司を召喚すれば、孤児達皆に行き渡るんじゃないか? と思い始めた。


この施設の運営は、主に領主の支援と教会の協力で成り立っているらしい。

他にも院を巣立っていった者達の、仕送りみたいなものもあるみたいだが、それらはきっと、とても少ない。

養われている身でディスりたくはないが。

あとは貴族の気まぐれが精々で。


つまり、何を言いたいかというと、孤児達が口にできる食事は非常に量が少ないし、味にしても本当に質素なものばかりで美味しいなんてことはなく、食後の感想は侘びしい以外にないのだ。


限られた条件でやりくりをして、用意してくれている院長やシスターには悪いけど、これじゃあ子供達は満足に成長できないし、健全な精神と肉体なんて育ちようがない。


これまで与えられた枠組みの中で、携わる全員が努力してきたのは本当に素晴らしいことだ。

院長にしても、シスター達にしても。

でも、残念なことに、結果は著しくなかった。

それはもう、現状で答えが出てしまっているんだよなあ。


だからつい、院長に申し出てしまった。

ちらし寿司を一つ召喚すれば朝夜とわけて、それで自分の食べる量は事足りる。

残った魔力を使い、皆にも振る舞おうと考えたのだが……。



「とても有難い申し出ですけれど、それには及びません。貴方は自分のことだけを考えて、自分のためになることに恩恵を行使するべきです。でも、有難うね」


こんな感じで却下――断られてしまい、俺が傷つかないように、気遣いまでさせてしまった。

まあ、断られた理由はなんとなく理解できて、それはたぶん、アフリカの問題と同じだ。



◇



「剣術を習いたいと?」

「はい、シスターシャンシャリエ。どうかご指導を、お願いしたく」

「珍しく貴方の方から声をかけてきたと思えば……」

「どうかご教授を」


冗談みたいな二択から始まった俺の異世界生活だけど、その内情はとてもシビアでシリアスに溢れている。


ゲームみたいにポンポン上がっていくようなレベルシステムはなく、やりたいことが増えるほどコツコツとした鍛錬を積み重ねるしかないというのが、現状での俺の認識。


とはいえレベルの概念はちゃんと? あって、今はステータス上で確認することができないだけ。

現実問題、レベルを上げようとするなら命を脅かすような相手と戦い、命を奪い、勝利する必要がある。


未だレベルのない俺が挑むとすれば、取り敢えずゴブリン三匹の集団くらいは一度に相手をするくらいの難易度だそうだが。

十歳のレベルなしで、そういう世界(・・)なんだから、全然甘くない。

しかも、それでやっとレベル0に格上げされる、という話だ。


毎日手伝いをするといっても、日中の間ひっきりなしで作業があるわけでもなく、今日みたいに暇を弄ぶような時もある。


今はいなくなったけど、数年前まではこのシスターから剣術を習う先輩孤児達が、結構な数いたんだ。

まあ、その先輩達は全員が物言わぬ、帰らぬ人になってしまったため、最近では鍛錬を希望する者が、てんでいなくなっただけで。


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