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実食!


遠くで鳴り響く、教会の鐘の音。

毎日定時の五時に三回、正午には十回、十七時にまた三回が叩かれる。

夕方をむかえ、孤児院の夕食が始まる時刻。

ちなみに食後は少しの休憩を挟み、濡らした布で身体をふいてから、すぐに就寝する時間となる。


十歳をむかえた孤児は今までの〔お世話される立場〕を卒業し、以降は幼い者達を世話する立場に代替りしていく。

勿論、シスター達と協力しながらになるが。


当たり前だけど前世の記憶がある俺は、大層手のかからない子供だったはずだ。

それこそ猫を被っていたぶん、不気味な程に……。


しかし今日、恩恵を授かり節目である十歳にまで成長したんだ、この異世界で。

これからは少しづつ被っていた猫を脱ぎ去っていって、なるべく早い段階で自立できるように、色々な道を模索していきたい。


十五になれば孤児院を出て、自立しなければならない。

早いうちから行動を起こして、悪いなんてことはないだろうし、世界の違いがあるとはいえ、中身は立派な大人なんだ俺は。

色々と有利なぶん、失敗は許されないとも思う。


まあ、何を以て成功とか失敗を語るかによると思うけど。

そんなわけで俺も夕食、お寿司を食べるとしよう!


自慢じゃないが、回らないお寿司屋さんには二回しか行ったことがない。

子供の頃に親に連れられて……。

勿体ないことに、当時は子供だったから茶碗蒸しと玉子の寿司、あとはかっぱ巻きしか食べなかったんだよなあ、その頃は。


自立してからは専ら回転寿司が行きつけで(月に二〜三回)、他にはスーパーのパックの寿司くらいが関の山だった(スーパーのはスーパーので普通に美味いが)

あ、爺ちゃんの家に遊びに行った時にとってもらえた出前の寿司もあった! やったぜ!

あれはきっと、回らないタイプのお寿司屋さんのはずだ、知らんけど。


あれ? 一貫で魔力を一消費するらしいけど、かっぱ巻きとかの巻いた寿司ってどうなるんだ? 回るお寿司屋さんにあったとはいえ、茶碗蒸しやミニラーメンが駄目(召喚できない)なのは想像つくけど。


恵方巻きに代表される太巻きの類は? あと実家でちょいちょい食べた手巻き寿司なんかも、どう呼称したら良いんだろうか? 握り寿司の一貫二貫と呼ぶ単位しかわからないのだが? それらの寿司がいったい、どういった扱いになるのか、すごーく謎だ。


そして、こんなことを考えていると、自分の貧弱な寿司遍歴が暴露されてるような気がしてきて、恥ずかしくなってきたぞ? 誰に聞かれているわけでもないのに……。


まあいい、後の検証でわかるだろう。

気持ちを切り替えて恩恵を意識し、食べたいお寿司をイメージしてゆく。

まずは鰯、地味だけど美味いから好きなんだこれが。

擦った生姜と万能ネギが乗っかっていて、ワサビはなしで醤油は点けて、二貫を同時に。


孤児の皆が食堂に集まる中で一人、自分のベッド(二段の上)に陣取って胡座をかき、恩恵を行使してみた。

すると、交差する足のすぐ前に見覚えのある丸い皿と、その上にちょこんと乗った鰯の握り寿司が白光を伴って、ぽわーんと現れた。


(おおお、こういう感じかあ……)


イメージしたリクエスト通りに薬味が乗って、醤油もちゃんと点いている。


(箸がないから手でいくか)


うん、普通に美味い! やっぱ美味しいわお寿司、回るお寿司屋さんのでも十分に。

二貫を食べて皿の上が空になり、少ししてから皿がふっと消えたのを確認した。


(予兆もなにもなく、静かに消える皿も怖えーな、ふふふ)


よし、じゃんじゃんいこう! 続いてハマチ、イカ、マグロ、サーモン、全部二貫づつで、これで合計十貫。

召喚するそばからもりもりと食べていって、軽く十貫をたいらげた。


(ステータスで魔力の減り具合もチェックしておくか)


久しぶりにお寿司を堪能して満足し、ステータスを念じて表示。

召喚した数と、消費した魔力を見て差異がないことを確認した。


(あー確かにお寿司は美味しいけど、さすがに飲み物がないと喉が詰まりそうになるな。お茶も味噌汁も用意できないから、明日からは水でも汲んでおくかあ……)


図らずして今日は、あの緑茶の偉大さを知ることになった。


(後は一晩寝てみて、どれだけ魔力が回復するのか確認だな)


夕食を終えて、子供の世話するために食堂に移動する。

といっても夕食を済ませた子供を捕まえて、順次水で濡らした布で拭いていくだけなんだけど。


先輩孤児やシスターに交ざり、小さい子をじゃんじゃか芋洗いする俺を、シスター達が心配そうにちらちらと見ていた。


その視線に気づかないふりをして、作業を続ける。

おそらく『ああ神よ! 生の魚を食べるなんて! なぜそのような罰を!』て感じで嘆いて、心配もしてくれているのだろう。


そういえば、味変(気分を変える意味でも)で肉とかハンバーグのお寿司も試したことがあったな。

ああ、海老の天ぷらとか、穴子も煮ているわけだし、ああした生の魚以外のものもあると教えたら、無駄な心配をさせなくて済むのか。


質素なここの食事内容に比べたら、お寿司生活は大幅なグレードアップだし、大満足なんだよなあ俺的には。

それを食文化の違いがあるにしても、無駄に心配をかけるのは忍びない、逆に可哀想だわ。


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