こそこそ動く
街の中心部に位置する教会から北の孤児院までの道のりは、くねくね曲がって四キロ弱。
街を守る、立派な城壁を外縁部だとすると、直径六キロちょいの街の規模感。
城壁の外にはさらに、農耕地が広がる。
日本での記憶があるとはいえ、子供の目線だからなのか普通に大きい。
将来の人口を見越してなのか、ギチギチではない密集具合で空き地もあり、拡張性も見てとれる。
子供の足ながら早歩きで帰路を急ぎ、一時間かからずに帰り着いた。
「あらダリル、おかえりなさい」
「ただいま戻りました、シスター」
孤児達の世話をする、複数在籍するシスターの一人、シスターマイレラに帰宅したことを気づかれた。
「無事に帰ってくれてなによりです。それで? 問題なくステータスは授かりましたか?」
「はいシスター。それでその、ステータスのことで院長に相談したいことが、あるのですが」
「あら? 何か問題があったのかしら? まさか! なにか特別な恩恵が?! と、とにかく院長シスターですね。夕食の後に時間を割いていただけるように、話を通しておきましょう」
「いや、その、できたら夕食の前がいいのです。夕食そのものに問題があるというか、なんというか……」
「うん? 十歳になったからといって、食事の量を増やすことはできませんよ、ダリル」
「いえ、そうじゃないのです、そういう問題では……説明が難しいことなので、できたら直接、院長を交えてシスター達にも聞いてほしいのです」
「ふうん? わかりました。では夕食の前に院長シスターの手が空いているのか、確認してきましょう」
「すみません、お手数をおかけして」
取り敢えず、院長にとりなしてもらえるようで、ほっとした。
こんな感じで他者との関係は、なるべく穏便に色々が回るように努めているし、院の子供達に対しても、内心では親目線で見守っている感覚なので、同じ土俵に乗るようなことはしないし、できない。
あいつらは元気すぎるし、体力お化けだし、なにしろとても煩い。
前世で俺が、何歳まで生きられたかはわからないけど、いい年こいたおっさんだったんじゃないかと、薄々感じてもいる。
もしかしたらシスターマイレラだって、自分の子供のようなものかも知れない。
彼女は二十歳みたいだし、当たらずとも遠くはないはずだ。
◇
「神から食べ物を与えられる恩恵ですか。それだけ聞くと、とても素晴らしいことにしか思えないのですけど。何か問題があるのですね?」
夕食の前に時間をもらい、院長に三人のシスターを加えた四人からなる面子と相対し、今日得た恩恵を詳らかにした。
「はい院長。恩恵が伝える詳細によると、僕はこれから先一生、お寿司なるもの以外の食べ物を、食べることが叶わないそうなのです」
「それは貴方が自分の意思で以て食べることを禁ずるとか、節制をするという意味で?」
「いえ、そもそも基本的には食べることができないのだそうです。まだ試すようなことはしていないので、どういった風に食べられないのかは、わからないですが」
「そうなのね。困ったわねえ……神のご意思を蔑ろにしてまで、無理矢理に試すわけにもいかないわよね、それじゃあ」
「そうなんです。僕としても不用意に試すこともできないので、非常に困っているのですよ」
「うぅん、どうしたものかしら……」
「困る理由まだあります。例えば寝ている時にたまたま大口を開いていた僕が、人が関与しない偶然な理由でお寿司以外の食べ物が口に入り込み、それを噛み砕き、飲み込んでしまった場合には」
「?」
「僕は死んでしまうのだそうです」
「「「「えぇぇぇえええ!!!」」」」
俺だって今ひとつ理解できていない感じではあるけど、びっくりだよね。
でも転生前に神から告げられた説明の講釈の内容は、確かにこういうものだった。
何らかの作用が働き、自発的だとか他人の意思だとか、そういうのは関係なしに、基本的には食べられなくなるのだと、説明された。
それはきっと、食べようとすると身体が意思に関係なく自動的に働き、食べるという行動を阻害する? みたいに、勝手な想像をしているけど。
他人由来でも同じように。
しかし、偶然が重なって万が一、お寿司以外を飲み込んでしまったなら、確実に俺は死ぬのだそうだ。
理不尽なことに。
「ですから食事の際には他の皆とは場所を変えて、なるべく一人で済ませるようにしたいのです。誰にどんな影響があるのか、わからないですからね。今のところは」
大人はいざ知らず、子供達にお寿司を見られるのは厄介だ。
興味を引いて、とんでもない行動に出られたら対処が面倒だし、危険の芽は今のうちに摘んでおきたい。
まあ、この世界では生の魚を食べるなんてことは、結構なアタオカムーヴと見做されるらしいが……。
「わかりましたダリル。これからは貴方の良いと思う方法と場所で、食事を摂る、糧を得る時間をすごすことを許しましょう」
よし! 当面、食事の時間は誰にも関与されないように、こそこそと行動しよう。




