薄い
結局のところ前世にあったオセロみたいなモノは胸の中に閉まっておいた。
想像しても大して楽しそうじゃなかったからなあ……。
初めは皆初心者だから俺が無双できるとして、だからなんだ? みたいな感じ。
楽しくなれる気がしない。
そのうち上手い奴が現れて善戦したり、勝ったり負けたりをするだろうけど、あの娯楽の物量の中で育った自分が、今さらオセロに嵌まるとは、ちょっと考えられない。
突き詰めれば奥深さがあり、面白いとしても。
自分には合わないという意味で。
改めて趣味というか娯楽というか、そういう時間潰しを再度探し始めて次に考えたのは〔靴を作る〕といものだった。
これには切っ掛けがあって、バイト先の常連の中に靴職人がいたからだ。
裸足の俺がなにかを聞く度に、結構ちゃんと教えてくれる。
邪険にせずに。
俺だって孤児院を出る頃には自分の靴が欲しい。
ただ、成長の関係があるし、見る限り満足できそうな造りの靴を見かけたことがないため、自分で作る方向に意識が向いてる。
なんたって街の大人が履いてる靴も前世のものに比べたら、そりゃあもう子供の玩具みたいなものばかりだし。
量産して売るようなモチベはないけれど、自分が履くものだけは最低限のものを持っていたい。
人生も二度目になると、驚くほど様々な〔欲〕が薄くなった。
弱くなったというべきか?
オセロにしろマヨネーズにしろ、他にも色々と思いつくことはあるけれど、それで大儲けをしようだとかは、全く考えられなくなったというか。
今のところ。
その反面、そのアイデアで他の誰かが簡単に大儲けしちゃうのは、なんだか面白くない、セコい感じの心持ちで。
ということで、自分のためだけに靴作りを噛じってみようと思ったわけだ。
現状よく見る靴は、革を張り合わせたソールに布や革で足を覆う部分を作り、ソールに抜い合わせたものが殆ど。
靴下は基本的に履く者がいないから、穿き心地を想像すると、なんとも嫌な気持ちになってしまう。
まだ裸足の方が良くないかそれ?
だから俺が目指すのは、なんとかして頑張って、もう少し前世のものに寄せたもの。
そんなイメージでやってみよう。
まず、なんといってもソールからして気に入らないぞこれは。
バイト先にあるガラクタの中から靴を見つけて、大人用だが履いてみたから理解した。
全然しっくりこない。
ゴムとはいわないけど、もう少しまともな素材はないのか? と思ってさらにガラクタを漁る。
そして発見した、なにかの軟骨まみたいなもの。
店主に聞いたら、迷宮産の魔物の軟骨ということだった。
見つけた際には上着の肩パッドみたいに使用というか、縫い付けられていたけどね。
柔らかすぎず、硬すぎない、なかなか良さそうな材料に思えるが……。
実験してみるか。
孤児院とバイト先とを往復しての毎日は、結構な忙しさで時間も限られる。
だけど、自分のためにコツコツとでもやるしかない。
時間を作り、買い物をするために街へ出た。
「おや、お使いかい?」
「ああ、いえ、はい、そんなところです」
いつもの、物乞いを警戒する空気が店の中を漂う。
少し意識して、こっちも戸惑ってしまった。
「えーと、加熱しても割れない陶器の小皿が欲しくて。それと加熱に使うランプも」
小皿は焼成皿をイメージしていて、ランプはアルコールランプのイメージかな。
魔物由来の軟骨を色々とやって試してみたいことが沢山ある。
「それならこの小皿はどうだい? 薬師が使う物なんだけど。ランプは……ああ、これだ。獣脂でも燃やせるから、買った後も安く使えるよ」
「すみません、他に小皿を乗せる三脚台もありますか?」
「うーん三脚台はあったかな? 三脚台に乗せた小皿をランプで加熱するんだよね?」
「はい、そうです」
「うーん今はないみたいだねえ。仕入れるのを忘れていたか……」
「それじゃあ、硬い針金があれば見せて下さいますか」
「針金ね、あるよ。少し待って、えーと、針金は……はいどうぞ」
「曲がり具合を試していいですか? 僕の力でうまく曲がるかどうか」
「ああ、少し曲げるぶんにはいいよ」
針金は番線をイメージしてるけど、番線で伝わる自信がない。
だから針金を言語的に代用してるだけで。
今手渡されたものは柔らかすぎるな。
これで焼成皿を乗せる五徳というか、三脚台を自作するつもりなんだが。
いくつか試して良さそうな針金を買うことに決めた。
「お支払いはいくらになるでしょう?」
「ランプが銀貨十二枚、小皿が三枚、針金は二枚だから、合わせると銀貨で十七枚になるね」
「承知しました。大銀貨三枚と銀貨二枚です。お確かめ下さい」
「ふむ、確かに。間違いなく受け取ったよ。ありがとうね」
「こちらこそありがとうございました」
「ずいぶんしっかりしてるけど、どこの子だい?」
「ああ、孤児院の者でして。ダリルと申します」
「……憶えておくよダリルくん。私は、店の看板を見たらわかるけど、コンラッツ道具店のコンラッツだ。また来てくれよ」
「はい、また道具が必要になれば伺わせて頂きます」
よし実験だ。




