お料理
道具が揃い、実験を始めようとした俺だったが、今度はそれを行う場所に困ってしまった。
ライターやマッチなどの便利道具がないため、ランプに着火する際には便利道具に頼らない火種が必要になる。
そして孤児達が火に興味を持つのは、普通に危ない。
前世の記憶でも子供が起こす火事はそれなりにあったのだから。
孤児に見つからずに実験できる気はしないから、孤児院はなしで。
火種がある場所というと竈門が真っ先に思い浮かぶけど、手っ取り早いのはバイト先になってしまう。
という訳で、初めから場所の選択肢なんてなかったということだ。
「坊主、仕事の後だから別にお前がなにをしようが勝手だけどな? 普通に鍋の方が良いんじゃねーかそれ。うちの竈門を使ってよう」
カウンターに陣取り、実験の準備をする俺を見た店主が、もっともな事に気付かせてくれた。
「店の竈門とか調理器具を使うのは申し訳なくて」
「いや構わねーよ。むしろ気をつけてやってくれんなら、そっちの方が安心できらあ」
そういうものかと聞き入れて、厨房を使わせてもらうことになった。
揃えた器具は……そのうち出番があるだろたぶん。
掌サイズの肩パッド(だったもの)を四等分に切り分けて、一つを片手鍋に入れた。
ひたひたに水を入れて、着火して煮てみる。
肩パッドはそのままでは靴底に使うには柔らかすぎる印象だった。
柔らかいシリコンとかゴムのような。
なにかしらの手を加えて、俺の望む硬さに調節できたら良いのだが。
水が沸騰し、それでも煮続けていくと脂が溶けて浮いてきた。
適当に取り出して水の入ったボウルに沈め、粗熱をとる。
気分は完全に料理を作っている感じだな。
水といっても常温なので、大して熱をとれるわけでもない。
触れることを確かめてから、軟骨を水から引き上げた。
摘んで硬さを確かめてみると、ぷよぷよとした感じが抜けて、よりコリコリとしたものになっていた。
全体的に間違いなく硬度が増している。
時間をはかる道具がないため煮込む時間を口に出して数え、時間別四種類の軟骨煮込みができあがった。
やはりというか、煮込む時間が長くなるほど脂が抜けて硬くなり、それに比例して縮んでもいる。
それぞれを押したり摘んだりして、硬さを確かめた。
考えるのは、ソールに使用した際の穿き心地と減り具合だが、こうした実験や研究を長く繰り返すほどの手間はかけられない。
自分の好きに使える設備、環境ってわけではないからなあ。
だからイメージ、想像力を頼りにして作業を進めていくしかない。
将来的により適した素材が見つかれば、その時にまた悩めばいいとして。
今回は他の何か――例えば砂や灰、砂鉄なんかを混ぜる考えはやめておいた。
迷宮産とはいえ動物由来の軟骨が、それらと上手く結合されるイメージが持てなかったから。
なので四種類から一つを選び、それを材料として次の工程に移ることにした。
ソールの素材候補が決まった。
本来なら足形をとって靴の形に近付きたいところだが、俺はまだまだ足が大きくなる予定だ。
今急いで作っても、すぐに作り直すことになるだろうし、練習がてら店主に合わせて作ることにした。
「あん? 足を測らせろだあ?」
「はい、練習するのに必要でして。協力お願いします」
「よくわからん奴だな、まったく。好きにしろ」
「ありがとうございます! 取り敢えず動かないで下さい」
革を足で踏んでもらい、足の形を写すように、炭でなぞり書きをする。
右と左と繰り返して両足で。
肩パッドでは大きさが足りないから、どこかで巨大な軟骨を見つける必要がある。
そのままの意味で、生き字引達が集まる店だからなここは。
必要な情報はすぐに集まった。
普通の動物や魔物の素材を扱う店を訪ねて、店の人に問い合わせた。
「それだけのサイズになると、少し時間がかかるな。取り寄せるかい?」
三十センチの正方形を求めた結果、在庫はないし取り寄せる必要があるため、すぐには入手できなかった。
「はい、お願いします。どのくらいで入荷できそうですか?」
「うーん、二ヶ月みてくれたら大丈夫かな」
「では、よろしくお願いします」
「わかった。取り寄せるのに売値の半分を預かるけどいいかな? キャンセルの場合はそれをキャンセル料として収めることになるけど、意味はわかるかい?」
「はい、理解しました。入荷した際には約束の通りに買わせて頂くので、大丈夫です」
件の軟骨は迷宮に棲息する〔一角獣〕という魔物の膝の軟骨なのだとか。
最大で五メートルにもなる、四つ足の難敵らしいが。
指定依頼を出すと早い代わりに高くつくという話なので、少し待って適正な料金で仕入れることにする。
「一角獣からとる軟骨で、大きさの指定あり、特大。代金の半額にあたる銀貨九枚を預かるよ」
「はい、銀貨九枚です。お確かめ下さい」
(軟骨高えぇぇえええ?!)




