第8話:ついに宣告、恐怖の外勤(営業)シフト
羽化してから20日が過ぎた。
巣の中での掃除、育児、建築、警備……無数の失敗とトラブル(とブン美のサボりフォロー)を重ねてきたハチ子たちにも、ついにその時がやってきた。
ある朝、朝礼の場で人事に当たるベテラン幹部バチが、冷酷なまでに朗らかな声で告げた。
『本日をもって、第42期生の諸君は「内勤」を卒業とする! これより君たちを、我が巣の命運を握る外勤部隊へ配置転換する!』
ざわっ……! と、若き働きバチたちの間に激震が走った。
「が、外勤……!!」
ハチ子は持っていた掃除用ブラシをポロリと落とした。
『新米ハチのための必携マニュアル・最終章』
――『羽化後20日目以降。巣を出でよ。そこは強風と天敵が渦巻く過酷な外世界。花を捜索し、密と花粉を限界まで持ち帰るべし。命尽きる、その瞬間まで』
「ついに、この時が来てしまいました……! 私たちの『最終ステージ』です!」
ハチ子の触角が恐怖と緊張でガタガタと震える。
隣のブン美も、これまでの人生で見たこともないほどの引きつった顔をしていた。
「おいおいおい……マジかよ。外勤って、あの『生存率が日ごとにゴリゴリ下がる最前線(営業部)』だろ!? 私の省エネ人生設計が崩壊するんだけど……!」
「ブン美さん、逃げられません……! 外勤を務め上げてこそ、一人前の働きバチです!」
「嫌だよ! 外には鳥とかカマキリとか、超巨大な人間とかいるんだぞ!? 日陰でサボる場所すらないかもしれないじゃん!」
不安に押しつぶされそうな同期たちが固まる中、外勤部隊の出口――「大空へのゲート」が開かれた。
突風とともに、眩しい太陽の光と、見たこともない広い世界が眼前に飛び込んでくる。
「うわぁ……っ!」
ハチ子は思わず目を細めた。圧倒的なスケール感。そして、一歩間違えれば二度と戻れないという圧倒的な死の匂い。
「さあ行け、若者たちよ! 母様のために! 巣の未来のために!」
先輩バチたちの圧に押され、同期たちが次々と大空へ飛び立っていく。
「ひやぁぁぁ……! み、みんな飛んでいっちゃいます!」
ハチ子は覚悟を決めるため、両こぶしをギュッと握りしめた。
「ブン美さん! 私たちも行きましょう! 恐れていても始まりません、マニュアル第1条『翼を信じて飛び立て』です!」
「待って、ハチ子! 私、まだ心の準備が……っていうか、脚がすくんで動か……っ!」
「行きますよーーーっ!!」
「話を聞けぇぇぇーーっ!?」
真面目なハチ子は、恐怖で固まるブン美の手を強引に掴むと、そのまま巨大な大空へ向かって決死のダイブを敢行した!
ヒュオォォォォォッ!!
「きゃあぁぁぁぁぁぁーっ! 風が強すぎますーっ!」
「だから言ったろバカぁぁぁぁーっ! 飛び降りるんじゃなくて風に乗るんだよーっ!」
二匹のハチは、羽ばたきのバランスを失い、空中でもみくちゃになりながら回転。
真っ逆さまに、未知なる危険に満ちた「外の世界」へと落ちていくのだった――!




