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ハチのいっしょう  作者: 亀丸物産


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4/12

第4話:サボりの天才、裏の顔

 建築係での「防犯用星型ルーム(失敗作)」の騒動から数日。

連日の猛労働と自身のドジによる疲労で、ハチ子のメンタルと羽は限界を迎えていた。


「はぁ……はぁ……マニュアル第4章『蜜の搬入と貯蔵』……。今日も今日とて、外勤の先輩方が運んできた花粉だんごをテキパキと貯蔵庫へ運搬……あ、足がもつれる……!」


 ハチ子は自分より大きな花粉の塊を抱え、フラフラと廊下を歩いていた。

真面目すぎる性格ゆえ、一切の休憩を挟まずに働き続けていたのだ。


「おいおい、ハチ子。お前、顔が『ハチミツが腐ったような色』になってるぞ」


 声のした方を見ると、壁の隙間からブン美がひょっこりと顔を出していた。

手にはなぜか、小さな花粉の欠片(おつまみ)が握られている。


「ブ、ブン美さん……! 休憩時間でもないのに、そんなところで何を……! マニュアル違反です!」

「いいから黙ってこっち来いって」


 ブン美はハチ子の手首をガシッと掴むと、巣のメイン通路から外れた、暗く狭い配管の裏側へと強引に引きずり込んだ。


「きゃっ!? な、なんですかここは……!」


 暗がりを抜けると、そこには信じられない光景が広がっていた。

巣の外壁のスキマから、柔らかな木漏れ日が差し込む小部屋。そこには心地よい風が吹き抜け、甘い熟成ハチミツの香りが漂っていた。さらに床には、柔らかい綿毛(植物の種子についていたもの)が敷き詰められている。


「ようこそ、私のプライベート・VIPラウンジへ」


 ブン美はフフンと胸を張り、綿毛のベッドに倒れ込んだ。


「な、なんですかここー! 巣の設計図にこんな場所ありませんよ!?」

「当たり前でしょ。建築係の時に、手抜き工事でできた空間を私が密かに改造したんだから。ここならフェロモン警報も届かないし、鬼主任の巡回ルートからも外れてる。完全な『サボり場』よ」

「サ、サボり場……!?」


 ハチ子はガタガタと震え出した。真面目な彼女にとって、「サボる」という概念はもはや犯罪に等しい。


「ダメです! 私たち働きバチは、一生のすべてを母様と巣のために捧げるのが使命です! 早く現場に戻って作業を――」

「はいはい、お堅いこと言わないで、これでも舐めな」


 ブン美はハチ子の口に、トロリとした特製の「熟成プレミアムハチミツ」を強引に突っ込んだ。


「んむぐッ!? ……ん? ……んんん〜〜〜〜っ!?」


 ハチ子の目がカッと見開かれた。


「なにこれ……甘くて……まろやかで……疲れが一気に吹き飛んでいきます……!」

「だろ? 貯蔵庫の奥で極秘に熟成されてたヤツをちょっと『試食』名目で拝借してきた。……いいかい、ハチ子。私たちは生まれてから死ぬまで、たったの1か月しか生きられないの。ずーっと馬鹿真面目に働き詰めて、自分を追い詰めて倒れたら、それこそ損でしょ?」


 ブン美は熟練のサボり魔らしい、妙に説得力のある顔でハチ子を見つめた。


「ちょっとくらいサボって体力を温存するのも、長生きして結果的に巣に貢献するための『高度な戦略』なんだよ」

「高度な……戦略……?」


 ハチ子の脳内で、固いマニュアルとブン美の悪魔の囁きが激しく打突した。

(確かに……最近ずっと失敗続きで、体も心もボロボロでした……。少し休むのも、明日のための仕事……?)


「……ふぁぁ。綿毛がフカフカで、なんだか眠くなってきました……」

「そうそう。力を抜いて、10分だけ目を閉じなー」


 ハチ子は急速に意識が遠のき、ブン美の隣で「すやぁ……」と幸せそうな寝息を立て始めた。

――しかし、世の中そう甘くはない。


「――おい。こんなところで油を売っているのは誰だ?」

「!!??」


 重低音の効いた声が、狭い隠れ家に響き渡った。

入口の隙間から覗き込んでいたのは、なんと「警備隊長」のいかつい顔だった。


「ひやあぁぁぁぁっ!?」


ハチ子は飛び起きた。あまりのショックで、綿毛を喉に詰まらせてゴホゴホと咳き込む。


「け、警備隊長官殿! これは違くて! 私たちはただ……その……『熟成ハチミツの品質チェック』という高度な戦略的業務を……!」


 ハチ子はパニックで支離滅裂な言い訳を叫んだ。

一方、ブン美は脱兎のごとき速さで起き上がると、ハチ子の襟首を掴んだ。


「ハチ子! 言い訳は無用! 第二ルートから脱出するよ!」

「えっ!? 第二ルート!?」

「サボり場作るときに脱出口作っておくのは常識でしょーが!」


ブン美は壁の極小の穴へハチ子を押し込んだ。

「行けぇぇぇ!」


「マニュアルに……サボり場の脱出ルートなんて書いてなぁぁぁい!」


 隊長の怒号を背に受けながら、二人は狭い壁の裏を必死に這い進み、命からがら現場へと逃げ戻ったのだった。

初めての「サボり」は、ハチ子にとって寿命が縮むほどのスリルと、ちょっとだけクセになる甘いハチミツの味を残していった。

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