第12話:1ヶ月の命、だけど今日も私たちは飛ぶ
――灼熱の死闘から、数日後。
あの恐怖のオオスズメバチは、ハチ子とブン美、そして巣全員の絆が作り出した「限界突破の熱殺蜂球」によって見事に退治された。
奇跡的に巣は守られ、赤ちゃんたちも無傷。
巣内には平和な日常が戻っていた。
そして、羽化してから約30日が経過した。
「ふぅ……今日もいい天気ですね、ブン美さん」
巣の入口の縁で、二匹のハチが並んで腰かけていた。
朝の爽やかな光が、二匹を優しく包み込む。
ハチ子の自慢だった綺麗な毛並みはすり減り、羽の先はボロボロに欠けている。隣のブン美も、かつてのツヤツヤとした体からは程遠くなっていた。
働きバチの寿命は、夏場はわずか1か月。
彼女たちの体に残された体力は、もう残りわずかだった。
「ねえ、ハチ子。後悔してない?」
ブン美が、遠くの青空を見つめながらぽつりと呟いた。
「え?」
「たった1か月だよ。生まれてから死ぬまで、毎日毎日、掃除して、怒られて、サボって、命がけで蜜集めて、スズメバチと戦ってさ……。私たちの人生って、なんだったんだろうね」
ブン美はふっと自嘲気味に笑ったが、その表情は驚くほど穏やかだった。
ハチ子は自分のボロボロになった羽を愛おしそうになでると、静かに首を振った。
「ううん……最高でしたよ」
「最高?」
「はい! マニュアル通りにいかなくて、ドジばっかりで、たくさん怒られましたけど……。ブン美さんと出会えて、甘いハチミツをサボって舐めて、綺麗なお花畑を見つけて……みんなで巣を守れましたから」
ハチ子は胸を張って、最高の笑顔を見せた。
「私、働きバチに生まれて……ハチ子として生きられて、本当によかったです!」
「……ふん。相変わらず、バカみたいに真面目で前向きなんだから」
ブン美は呆れたように笑いながら、ハチ子の頭をポンと叩いた。
「でもまあ……悪くない1か月だったかな。お前とサボるハチミツは、いつもよりちょっとだけ美味しかったしね」
その時、二匹の背後から元気に足音が響いてきた。
「あ! ハチ子先輩! ブン美先輩!」
振り向くと、そこには昨日サナギの殻を破ったばかりの、ピカピカの新米働きバチたちが立ち並んでいた。
「先輩! 私たち、今日から育児係なんです! マニュアルには『ローヤルゼリーをあげろ』って書いてあるんですけど、緊張してパニックになりそうで……!」
不器用そうに触角を震わせる新人バチ。
その姿は、かつてのハチ子そのものだった。
ハチ子は優しく微笑むと、新人の肩を優しく抱いた。
「大丈夫ですよ。マニュアルも大事ですけど……一番大切なのは『無理せず、仲間を頼ること』です。……困ったら、隣のサボり上手な先輩に相談するといいですよ」
「おい、余計なアドバイスすんな」
ブン美が苦笑いしながら口を挟む。
「頑張ってくださいね! 私たちの素敵な、大好きなホームですから!」
「はいっ! ありがとうございます、ハチ子先輩!」
元気に走っていく後輩たちの背中を、二匹は温かな眼差しで見送った。
自分たちが紡いできた命と絆は、こうして次の世代へと確かに受け継がれていく。
「さて……と」
ブン美がよっこいしょ、と重い腰を上げた。
「最後の『営業(外勤)』に行きますか、ハチ子殿」
「はいっ! ブン美殿!」
二匹は顔を見合わせ、ニッと笑い合った。
もう羽はボロボロで、遠くまでは飛べないかもしれない。
でも、彼女たちの心は、どこまでも澄み渡る青空のように晴れやかだった。
「行きますよーーーっ!!」
「最後くらい、綺麗な花の上で昼寝するぞーーーっ!!」
朝日を浴びながら、二匹の小さな働きバチは、力強く翼を羽ばたかせた。
限られた命の、その最後の1秒まで。
ハチ子とブン美は、今日も大空へ向かって、誇らしく飛んでいくのだった。
ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました。
ハチ子の一生は如何でしたでしょうか。
働きバチは、1ヶ月という短い命ですが、やることは沢山ありますね。
その命を全力で駆け抜けたハチ子達の物語を少しでも楽しんで頂けましたら、フォロー、ブクマ、コメント等頂けますとモチベーションになります!
ありがとうございました!




