第10話:伝説の「8字ダンス」を踊り狂え
過酷すぎる外の世界――猛烈な強風、巨大なカマキリの恐怖、そして人間のジュースの罠を(奇跡的に)突破したハチ子とブン美。
ハチ子はボロボロになりながらも、運良く大輪のヒマワリ畑を発見し、全身に抱えきれないほどの花粉と蜜を蓄えて巣へと帰還した。
「はぁ……はぁ……生きて……戻れました……!」
巣の入口で崩れ落ちるハチ子。
しかし、外勤バチの仕事は「蜜を持ち帰る」だけでは終わらない。
『新米ハチのための必携マニュアル・外勤応用編』
――『極上の花畑を発見した者は、直ちに巣の広場にて「8字ダンス」を踊るべし。角度と尻の振りによって、仲間に正確な距離と方向を伝達せよ』
「これぞ外勤バチの真骨頂……言葉で説明できない私が、全身の表現力で仲間に情熱を伝えるプレゼンテーションです!」
ハチ子はボロボロの体を引きずり、広場の中央へと進み出た。
周りには、次の採集に向かおうとする大勢の同僚バチたちが集まってくる。
「おい、新人のハチ子だぞ」
「あいつ、どこで蜜を拾ってきたんだ?」
「みなさん! 聞いて……じゃなくて、見てください! 太陽から東へ30度、距離にして約500メートル! 楽園のようなヒマワリ畑があります!」
ハチ子は気合十分で、右へ旋回、左へ旋回……と、お尻をブルブルと振動させながら「8」の字を描き始めた。
(マニュアル通り! お尻の振動数は1秒間に25回! 角度は正確に……!)
しかし、ここで真面目すぎるハチ子の「ドジ」と「極度のあがり症」が重なった。
(あ、あれ……? みんなの視線が集中して……すごく緊張してきました……! 角度って太陽から何度だっけ!? 東? 西? 距離は500メートル? 500キロメートル!?)
パニックになったハチ子の動作がおかしくなり始めた。
綺麗な「8」の字を描くはずが、あまりの緊張でお尻の振り幅が限界を突破。
「な、なんだあのダンス……!?」
「8の字じゃなくて……『無限(∞)』を超えて『ただの激しい踊り』になってないか!?」
同僚たちがザワつき始める。
ハチ子はパニックのあまり、高速でその場で回転し、お尻を前後に激しく振り回し、挙句の果てに両脚をバタバタさせながらヘッドバンキングのような謎の動作を繰り出し始めた。
「ハ、ハチ子!? お前何の宗教のダンス踊ってんだよ!?」
外勤から帰ってきたブン美が、目を丸くして叫んだ。
「わ、分かりませんブン美さん! 体が勝手に……! ヒマワリ畑が……凄く……凄く良かったんですーーっ!!」
感情が爆発したハチ子の「謎の狂乱ダンス」。
しかし、そのあまりの必死さと、全身から溢れ出る熱気は、言葉(ダンスの文法)を超えて、同僚たちの本能にダイレクトに響いてしまった。
「な……なんて情熱的なダンスなんだ……!」
「あんなに激しく踊るってことは……よほど凄まじい『伝説の花園』があるに違いない!」
「行くぞ野郎ども! ハチ子の情熱に続けーーーッ!!」
「「「「おー――――ッ!!」」」」
なんと、ハチ子の意味不明なタコ踊りを「伝説の超大型プレゼン」と誤解した数十匹の働きバチたちが、興奮の坩堝と化して大空へ一斉に飛び立っていったのだった。
「あ……あれ……? 私、方向と角度、教え忘れた気が……」
踊り疲れてその場にへたり込むハチ子。
隣にすたすたと歩み寄ってきたブン美が、呆れたようにため息をついた。
「ハチ子、お前さ……ダンスの角度が無茶苦茶すぎて、みんな『隣の家のガーデニングの花瓶』に向かって飛んで行ったぞ」
「ひやぁぁぁぁぁっ! そこじゃないですぅーーーっ!」
自分の過激すぎる表現力のせいで、大混乱を巻き起こしたハチ子。
だが、その突き抜けた真面目さと一生懸命さは、無機質なハチの社会に、確かな「熱気」を吹き込んでいたのだった。




