狩人の要求と、特例の昇級
「ひ、ひぃ……要求は何でも飲む! 頼むから命だけは……!」
涙目でガタガタと震えるボルスを見下ろし、雫は感情の読めない瞳のまま、ぽつりと言った。
「……これから、私たちに、何も関わらないで」
「え……? そ、それだけか……?」
お詫び金や土下座を要求されると身構えていたボルスは、拍子抜けしたように目を見開いた。
「……うん。声が大きいし、丸太みたいで、邪魔だから。二度と、近づかないで」
おとなしめのト城でバッサリと切り捨てられたボルスたちは、「へ、へい……!」と這う這うの体で決闘場から逃げ出していった。
呆気にとられる澪を横目に、雫が白パーカーの袖を直していると、慌てた様子でギルドの受付嬢が駆け寄ってきた。
「照道 雫さん、朝霧 澪さん。……ギルマスがお呼びです。個室へお越しください」
案内されたのは、重厚な革張りのソファが並ぶギルド長室だった。
デスクの奥に座っていたのは、体中に無数の傷跡を持つ、眼光の鋭い大柄な初老の男――ギルドマスターのバルトだ。バルトは手元の書類と雫を交互に見つめ、深くため息をついた。
「驚いたな。登録手続きの魔導具が壊れたかと思ったが……先ほどの決闘、見事だった。俊敏125、器用138。おまけにユニークスキル持ちか」
「……板の数字、本当だった」
「あぁ、間違いなく本物だ。お嬢ちゃん、それほどの腕がありながらG級のまま活動されるのは、ギルドとしても困るんだよ」
バルトは苦笑しながら、2枚のカードをデスクにコトリと置いた。
「低ランクの依頼掲示板には、せいぜいゴブリンや薬草採取といった、普通の人間でもこなせる仕事しかない。だが、お嬢ちゃんのその実力で初心者用のダンジョンに入られたら、一般の新人探索者の稼ぎ(魔物や資源)を根こそぎ奪うことになってしまう。それは生態系の破壊であり、新人の育成阻害にも繋がるんだ」
ギルマスの理路整然とした説明に、澪が「あ……確かに……!」と納得の声をあげる。
「さらに言えば、お嬢ちゃんのような逸材を低ランクに放置して、万が一にもゴブリン相手に『手を滑らせてダンジョンを崩落させた』なんて事故を起こされたら、ギルドの面目が丸潰れだからな。周囲の安全と、不必要な混乱を避けるためにも、ランクを引き上げさせてもらう」
バルトは雫のカードを端末に通し、パチパチと操作した。
「本来なら数ヶ月の活動実績が必要だが、今回はギルドマスターの全権による『特例措置』だ。照道 雫、お前を本日付で【C級探索者】に昇級とする。これで適正ランクの依頼を受けられるはずだ」
「……しーきゅう。板の色が、緑になった」
「う、嘘でしょ!? 一気にC級!? 私を追い抜いちゃった……!」
澪が頭を抱えて叫ぶ。
外の世界の常識はまだ何も分からないまま、山の少女・雫は、一瞬にして『一流探索者』の仲間入りを果たしてしまったのだった。
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