ギルドの絡まれテンプレと、決闘の誓約
お買い物の翌日。
雫は澪に買ってもらった新しい服――シンプルな白のパーカーに黒のショートパンツという、動きやすくて少し現代風な格好に身を包んでいた。ボロボロの衣服は卒業したものの、背中には愛用の大きな弓と三十本の矢がしっかりと背負われている。
2人がやってきたのは、あの要塞のような『探索者ギルド』だ。
今日から本格的に活動するため、低ランク用の依頼掲示板の前に立っていた。
「うーん、初心者のG級だし、まずは街の近くの薬草採取か、ゴブリンの間引きかなぁ……」
「……ゴブリン。山にいた、緑の、うるさいやつ。あれ、弱くて、美味しくない」
「食べたことあるの!? っていうかゴブリンは食べちゃダメだからね!?」
そんな2人のゆるい会話を遮るように、ドスドスと無骨な足音が近づいてきた。
「おいおいおい、見ねえ顔だと思えば、ガキが2人で何おままごとやってんだあ?」
振り返ると、そこにはいかにもガラの悪そうな男の探索者が3人、ニヤニヤと下品な笑みを浮かべて立っていた。手には鈍く光る大剣や斧を握っている。リーダー格の男が、雫の華奢な体と弓を見て鼻で笑った。
「おい赤髪、そんなヒョロい弓使いの未成年を連れてダンジョンに入る気か? 足手まといにしかならねえぞ。死にたくなきゃ、そのケツの青いお嬢ちゃんを置いて、俺たちのパーティーに入りな。可愛がってやるからよぉ」
「なっ……! ちょっと、何言ってるの!? 雫ちゃんは私の命の恩人で、めちゃくちゃ強いんだから!」
澪が顔を真っ赤にして怒鳴るが、男たちは「ハハハ!」と下品に笑うだけだ。
周囲の探索者たちも、厄介事に巻き込まれたくないのか、遠巻きにニヤニヤと見物している。
そんな中、当事者である雫はというと――完全に無表情のまま、男たちの顔をじっと見つめていた。その瞳には怒りも怯えもなく、ただただ、淡々とした天然な思考が巡っている。
「……お姉さん。この人たち、声が、すごく大きい。……威嚇? 山の、寂しがり屋の猿みたい」
静かなギルド内に、雫のおとなしめの声が綺麗に響き渡った。
「あ、アァ!? てめえ、今なんつったコラァ!!」
男の顔が怒りで真っ赤に染まる。凄まじい威圧感を放ちながら、雫の胸ぐらを掴もうと大きな手を伸ばした。
だが、その手が雫に届くことはなかった。
雫は無表情のまま、ほんのわずかに上体を反らしただけで、その荒々しい手を紙一重で完全に回避したのだ。
「……っ!? かすりもしねえ……!?」
「……危ない。むやみに、触ろうと、しないで。……解体する」
「ひ、解体ぃ!? クソガキが調子に乗りやがって……! おい、受付の姉ちゃん!『決闘カード』を出しな!!」
男が激昂して受付に向かって叫んだ。
探索者ギルドには、探索者同士の私闘を防ぐための公認ルールが存在する。それが『決闘システム』だ。
ギルドが用意する特殊な結界魔導具のなかで戦い、実力を証明し合う。これによる怪我はすべて自己責任となり、敗者は勝者の要求(お詫び金や、特定の命令など)を飲まなければならない。
「ちょっと、大人が新人のG級相手に決闘なんて、恥ずかしくないの!?」
澪が必死に止めようとするが、男はニヤリと汚い笑みを浮かべて雫を指さした。
「嫌ならその生意気な口を叩いたガキに、土下座して俺の靴でも舐めさせろ! それとも怖くて逃げ出すかぁ?」
挑発する男に対し、雫はコトコトと受付へ歩いていき、差し出された黒い『決闘の誓約カード』をじっと見つめた。
「……これに、名前を、書けばいい?」
「雫ちゃん!? ダメだよ、相手はこれでもC級に近いD級のベテランなんだから!」
「……ううん。大丈夫。あの人、動きが、すごく遅い。……丸太が、歩いてるみたい」
おとなしいトーンで男のプライドを完璧に粉砕した雫は、そのままペンを取り、無表情のままさらさらと自分の名前をサインした。
カードが淡い赤色の光を放ち、ギルド公認の決闘が成立する。
「よし言ったなクソガキ! 泣いて謝っても絶対に許さねえからな!!」
男が狂ったように笑いながら大剣を構え、ギルド併設の決闘場へと歩き出す。
ついに引き返せない戦いの幕が上がろうとしていたが、雫はただ、お気に入りの白パーカーの袖を無表情にまくり上げるのだった。
最後まで見てくださりありがとうございます
よかったら評価くれると嬉しいです




