神速の狩人、次なる獲物を定める
スタンピード終結後、街のギルドでは戦闘記録の整理や被害状況の確認が続いていた。
そんな中、雫と澪のもとにギルドから正式な呼び出しが届く。
二人はギルドマスターのバルトに呼ばれ、スタンピードでの戦闘について事情聴取を受ける。
特に確認されたのは、次の三点だった。
・雫が使用した、通常の魔術体系では説明しきれない血の矢。
・澪がスタンピードの最中に発現させた、レアスキル『紅蓮の闘志』。
・二人の身体に起きた、吸血鬼への変異と覚醒。
バルトは二人を疑っているわけではない。街を救った功労者である二人に、今後の安全管理や能力の把握に必要な情報を聞いているのだ。
ただし、雫の説明は相変わらず天然で、バルトを困らせる。
「つまり、雫。お前はボスの攻撃を受けて、薬を飲んだら吸血鬼になったと?」
「……うん」
「……そうか」
「……だめだった?」
「いや、そういう問題じゃねえんだよ!」
深刻な事情聴取の中にも、雫の天然さによるコミカルなやり取りを挟む。
事情聴取が終わった頃、バルトは二人に一枚の依頼書を提示する。
依頼内容は、スタンピードの影響で不安定になったダンジョンの調査と、深層に出現した高危険度魔物の討伐だった。
スタンピードによってダンジョン内部の魔力環境が変化し、これまで確認されていなかった魔物の反応まで検出されている。
通常の探索者では受注すら難しい、特別な高難易度依頼である。
バルトは、雫なら単独でも対応できる可能性があると考えていた。
しかし、依頼書を見つめた雫は、隣に立つ澪へ視線を向ける。
以前の澪は、雫との実力差に悩み、剣聖ガルガのもとで必死に修行していた。
今は違う。
『紅蓮の闘志』を覚醒させ、スタンピードでは雫と肩を並べて戦い抜いた。
さらに、吸血鬼の真祖としての力まで手に入れている。
では、今の澪はどこまで戦えるのだろう。
雫はそれを知りたかった。
「……受ける」
「おい、雫。まだ説明が終わってねえぞ」
「……大丈夫」
「大丈夫かどうかは、こっちが判断するんだ!」
バルトの制止をよそに、雫は依頼書へ手を伸ばし、受注の意思を示してしまう。
澪が何かを言うよりも先に、雫は独断で依頼を受けることを決めたのだった。
ギルドを出た後、澪は雫に問いただす。
「ちょっと雫!? さっきの依頼、受けるって勝手に決めたよね!?」
「……うん」
「うん、じゃないよっ! あれ、かなり危険な依頼だったじゃん!」
「……澪なら、大丈夫」
「……え?」
雫は、そこで初めて自分の考えを口にする。
「……澪が、どれくらい強くなったか。見たい」
澪は一瞬、言葉を失う。
雫に認められたい。雫の隣で戦える存在になりたい。そのために、これまで何度も剣を振ってきた。
だからこそ、雫が自分の成長に関心を持ってくれていることは嬉しかった。
しかし、勝手に依頼を受けられて嬉しいわけではない。
「……それでも、先に相談してよ」
「……ごめん」
素直に謝られてしまうと、澪も強く言い続けられない。
それでも、澪は雫の手を取って、まっすぐに告げる。
「私の成長を見たいなら、ちゃんと隣で見てて。私だって、雫と一緒に強くなりたいんだから」
雫は小さくうなずく。
「……うん。一緒に行こう」
愛情と信頼があるからこそ、相手の意思を確かめることも大切なのだ。
今回の出来事を通して、二人は互いの気持ちを改めて理解していく。
出発の準備を整える二人。
雫は弓の状態を確かめ、血の矢を扱う感覚を静かに確認する。
一方の澪は、剣を握り、体内に宿る紅蓮の魔力を巡らせる。
以前なら、雫の背中を追いかけるだけで精いっぱいだった。
けれど、今度は違う。
自分も真祖となり、スタンピードを乗り越えた探索者なのだ。
澪は雫の隣に立つ。
「今度は、私がちゃんと役に立つからね!」
「……うん。期待してる」
「そこは『絶対に大丈夫』とか言ってよ!」
「……澪なら、大丈夫」
「~~~っ! もうっ! そういうところだよ、雫!」
二人のやり取りを最後に、物語は新たなダンジョンへと向かう。
深層へ続く巨大な門。
その向こうから、まだ見ぬ魔物の気配が、静かに二人を待ち受けていた。
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