剣聖からの甘い祝電、相棒の特等席
面接ぅ!
美月の鋭いツッコミと、恥ずかしさで澪が真っ赤にオーバーヒートするという一幕はあったものの、朝霧家の2LDKのリビングには、無事にお肉の香ばしい匂いが満ち満ちていた。
美月が焼いてくれた極上のボアステーキを、3人でハグハグと口に運んでいく。
吸血鬼の真祖として目覚め、雫の血で渇きを癒やした澪の味覚は、驚くほど敏感になっていた。お肉の脂身が、これまでにないほど甘く、極上の美味として脳を震わせる。
「……ん。みお、口の横、タレついてる」
「ふぇっ!? ちょっと、雫ちゃん、自分で拭けるから――んぐっ」
雫は無表情のまま、トコトコと自分の指先を伸ばすと、澪の唇の端についたソースをちょんと拭い取り、そのまま自分の口元へと運んでペロリと舐めた。
「……うん。美味しい。みおの味がする」
「ひゃんっ!? も、もう、美月の前でそういう無自覚な恥ずかしいことしないでってばぁーっ!」
フニャフニャにデレて顔を両手で覆う澪の横で、ダイニングテーブルの対面に座る9歳の美月が、「お姉ちゃん、ごちそうさまです」と賢そうな目でニヤニヤと笑っている。
そんな、世界を救った『皆の希望』とは思えないほどお気楽で甘い朝食の時間が過ぎ、ひと段落ついた頃。
リビングのローテーブルの上に置かれていた、澪の魔導スマホが、ピピッ、と軽快な通知音を鳴らした。
「あ、ギルドからかな? スタンピードの事後処理の連絡かも」
澪が画面をタップしてメッセージを開いた瞬間、彼女の表情が「あ……」と、何とも言えない引きつったものへと変わった。
「……みお、だれから? また、変な猿?」
雫が後ろから無表情のままトコトコと覗き込んでくる。画面に表示されていたのは、あの地獄の修行を課してきた元S級の『剣聖』ガルガ師匠からの、お祝いのメッセージだった。
『澪ちゃんへ☆
スタンピード、本当にお疲れ様ぁぁ〜〜〜っ!(๑>◡<๑)
まさか深層の王を雫ちゃんと2人でぶっ飛ばしちゃうなんて、師匠、嬉しくて涙がちょちょ切れちゃったよぉ(泣)
さすがは師匠の自慢の可愛い弟子だねっ! 頑張った澪ちゃんには、今度会ったときにた〜〜〜っぷり頭をなでなでして、美味しいパフェを無限に奢ってあげちゃうからねぇ〜〜〜チュッ☆』
「……何これ。やっぱりバグじゃないの、このスマホ」
澪は乾いた笑いを浮かべながら、頭を抱えて端末を机に置いた。
あの修行中、「死ぬ気で喰らいついてこい!」と容赦なく大剣を振り下ろしてきた隻眼の老剣士の面影は、このピンク色の絵文字の嵐の中には1ミリも存在していなかった。
「……ん。おじいさん、相変わらず、澪のことが大好き」
雫は無表情のまま、ぽつりと感想を呟いた。
「いや、本当に態度が違いすぎて怖いんだってば! あ、でも、下の方にまだ続きがある……」
澪が画面をスクロールすると、絵文字だらけの文章の下に、急にフォントが小さくなった、真面目な一文が添えられていた。
『追伸:ギルマスのゴリラから聞いたよ。雫ちゃんが【吸血鬼の始祖】に覚醒したんだって? おまけに澪ちゃんまで眷属にしちゃったとか……ククク。いいかい2人とも。不老の身体を手に入れたってことは、これから何百年も、ず〜〜〜っと2人でイチャイチャ一緒にいられるってことだからね! 師匠、2人の百合を天国(まだ死んでないけど)から全力で応援してるからねぇ〜〜〜っ!☆』
「あのジジイ、全部知ってて面白がってるだけでしょーーーっ!?」
リビングに澪の最大級のツッコミが響き渡る。
吸血鬼になったことすら、ただのイチャイチャの燃料として祝福してくる師匠の規格外の甘々っぷりに、澪は完全に脱力してソファーへとへなへなと倒れ込んだ。
すると、その倒れ込んだ先には、すでに定位置のように座っていた雫の、ひんやりとした太ももがあった。
雫は無表情のまま、当然のように澪の頭を受け止めると、その赤髪を指先で優しく優しく梳かし始めた。
「……みお。私のち、たくさん飲んだから、まだ身体、あつい。……ここで、おやすみ」
「うう……うん。ありがと、雫ちゃん……」
師匠のメッセージには呆れつつも、雫の特等席(膝枕)の心地よさに、澪はすぐにフニャフニャになって目を細める。
人間の常識を超え、吸血鬼としての永遠の絆を結んだ2人のあま〜い日常は、周囲の温かい(?)見守りの中で、これからさらに速度を上げて深まっていくのだった。
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