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孤高の狩人はやがて皆の希望に   作者: 白狐 緋宵
後日談

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真祖の目覚め、血の甘い誘惑

推薦面接受験勉強

頭がどうにかなりそー



「丸太と一緒にしないでよぉ……っ!」


 リビングに澪の真っ赤な抗議の声が響く。


 けれど、雫は至って大真面目な顔のまま、自分の太ももをもう一度ポンポンと叩いた。

 山育ちの雫にとって、丸太は冬を越すための大切な宝物であり、命の源だ。つまり、澪を丸太に例えるのは、彼女なりの最大級の親愛の証なのである。


「……みおは、丸太より柔らかい。……はやく、おいで」


「う、ぅぐ……もう、雫のばか……っ」


 その無自覚な追い打ちに完全降伏した澪は、顔を両手で覆いながら、観念したように雫の膝の上へと頭を横たえた。


 ふわり、と、雫の鼻腔を澪のハーフアップに結われた赤髪の香りがくすぐる。


 膝に乗った澪の頭は驚くほど軽くて、けれど、先ほど自らの牙を突き立てて眷属(吸血鬼)へと変えたその身体からは、人間の頃とは明らかに違う『異変』が起き始めていた。


「……ん、冷たい……。雫のお膝、ひんやりしてて、気持ちいい……」


 トロンとした瞳で雫を見上げる澪。

 吸血鬼の始祖である雫の体温は、以前よりも少し低い。対して、雫の膝に触れている澪のうなじからは、じわじわと、陽だまりのような熱が溢れ出ていた。


 ドクン、ドクン、と。

 雫の鋭い耳に届く澪の心音。

 その鼓動に合わせて、澪の身体の奥から、鮮やかな『紅蓮の炎』の魔力と、雫から分け与えられた『始祖の血の魔力』が、お互いを激しく求め合うように混ざり合っていくのが分かった。


「みお、身体……あつい?」


「うん、なんだろ……。怒って赤くなってるのとは、違う気がする。

 なんかね、魔力の通り道が、すっごく広くなってる感じがして……」


 それに、と澪は心の中で小さく呟いた。

 さっきからキッチンで美月が焼いてくれている極上のボアステーキの匂いが漂っている。人間の頃ならそれだけでお腹が鳴っていたはずなのに、今の澪の鼻腔が捉えているのは、お肉の匂いだけではなかった。


 ジワリ、と口の中に広がる、奇妙な渇き。

 美月が焼いてくれるお肉の脂が、以前よりも何倍も甘く、濃厚で極上のものに感じられる一方で――それ以上に、自分の頭を優しく包み込んでいる雫の細い手首から、トクトクと流れる『血』の匂いが、信じられないほど甘く、美味しそうに感じられてしまうのだ。


(どうしよう……お肉もすっごく美味しそうなのに、それ以上に、雫ちゃんの首筋とか手首に……噛み付きたい、なんて思っちゃう……っ)


 吸血鬼の真祖として目覚めたばかりの、本能的な飢え。

 けれど、大好きな相棒を「美味しそう」だなんて思ってしまう自分が恥ずかしくて、澪の顔は怒っているのとは違う熱さでさらに真っ赤に染まっていく。


 澪がそっと自分の右手を顔の前にかざす。

 すると、その細い指先から、パチパチと小さな赤い火花が爆ぜた。


 ただの火花ではない。

 その炎の奥には、雫の瞳と同じ、深い『深紅の輝き』が混ざり合っている。


「……これ、私の魔力?

 今なら、いつもよりずっと凄い炎が出せる気がする……!」


「お姉ちゃん、リビングで急に魔法を使おうとしないでよ!?

 マンション燃えちゃったら、またシェルター行きなんだからね!」


 キッチンからお肉の焼けるいい匂いと共に、美月の鋭いツッコミが飛んできた。

 澪は「あはは、そうだよね」と苦笑いしながら、自分の不埒な本能を隠すように慌てて手を下ろす。


「……みお、すごい。強くなった」


 雫は無表情のまま、けれど嬉しそうに、澪の額に張り付いた赤髪を優しく指先で整えてあげた。

 雫は気づいているのだろうか。澪の瞳が、時折、自分と同じ真紅の色に飢えで揺らめいていることに。


「うん……雫ちゃんのおかげだよ。……ありがと」


 人間の前衛剣士から、始祖の血を引く『吸血鬼の前衛剣士』へ。

 大氾濫を生き延び、永遠の時間を手に入れた2人の絆は、魔導科学の力すら超える、新しい最強の力を生み出そうとしていた。


最後まで見てくださりありがとうございます

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