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孤高の狩人はやがて皆の希望に   作者: 白狐 緋宵
後日談

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恋人たちのショッピングモール後編

遅くなりましたすみません

 3人がやってきたのは、淡いピンクと白のネオンできらきらと飾られた、モール内でも特に人気のレディースショップだった。


 並んでいるのは、フリルやレースがふんだんにあしらわれた、女の子らしい最新の魔導お洒落服ばかり。



「わぁ……見て雫! このワンピース、絶対に雫に似合うよ!」



 お店に入るなり、澪の琥珀色の瞳がパッと輝いた。


 両手にそれぞれ、水色と純白のひらひらとしたワンピースを抱え、まるでキラキラした獲物を見つけた狩人のような勢いで雫に迫ってくる。



「……ひらひら、いっぱい。

 これ着たら、弓、引きにくい。木の枝にも、引っかかる」



 目の前に突きつけられたレースの山に、雫は小さく首を傾げて困惑の表情を浮かべた。

 山育ちのサバイバル感覚が、お洒落よりも「実用性」を最優先で訴えてくる。



「もう、今日は魔物と戦わないんだから、弓のことは忘れなさいっ!

 ほら、美月もそう思うよね!?」


「うん、激しく同意。

 雫さんはスタイルが良いから、こういうちょっとお姫様みたいな服を着せたら、街中の男の子も女の子も全員ノックアウトしちゃうと思うな」


「でしょ!? よし、雫、とりあえずこれ持って試着室へゴー!」



 2人の怒涛の勢いに押し切られ、雫は「う,ん」とワンピースを胸に抱えて、促されるまま試着室の白いカーテンの向こう側へと足を踏み進めた。



 カチャリ、と鍵が閉まる。



 四方を鏡に囲まれた狭い空間。

 雫は無表情のまま、いつも着ているシンプルなブラウスのボタンに手をかけた。


 普段なら何とも思わないはずのお着替え。

 けれど、カーテンを一枚隔てたすぐ向こう側から、澪の楽しそうな足音や、自分のことを話す声が恐ろしいほど鮮明に聞こえてくる。


 吸血鬼の始祖となった雫の五感は、澪のウキウキとした心音や、服の擦れる音までをも、まるで同じ空間にいるかのように拾い上げてしまうのだ。



(……みお、すごく楽しそう。

 でも、私の心臓も……なんか、トクトク、うるさい)



 自分の胸に手を当ててみる。

 人間の頃とは違う、少し冷たい身体の奥で、澪のことを考えるだけで、朝の吸血の時のように、甘酸っぱい熱がじんわりと広がっていく。


 不器用な手つきで、水色のワンピースの背中のファスナーと格闘すること数分。



「……みお。着た。けど、うしろ、届かない」



 無口な声を少しだけカーテンの向こうへ届かせると、

 待ってましたと言わんばかりに、シャッとカーテンが開いた。



「はーい、お姉ちゃんお助けに入りま――っ、……っ!?」



 手伝う気満々で入ってきた澪が、一瞬で言葉を失ってフリーズした。


 そこにいたのは、透き通るような磁器の白い肌に、鮮やかな水色の生地が美しく映える、まるでおとぎ話の精霊のような雫の姿だった。

 少しだけはだけた背中の白さと、困ったようにパチパチと瞬きをする琥珀色の瞳。



「……みお? うしろ、上げて」


「あ、あ、う、うん……っ!」



 澪は顔を耳の裏まで真っ赤にしながら、震える手で雫の背中のファスナーに触れた。


 その瞬間。

 雫のひんやりとした肌のぬくもりと、澪の指先の熱が重なる。



「っ……」



 雫の口の奥で、小さな白い犬歯が、ドクドクと響く澪の激しい脈動に呼応して、きゅんと疼くように熱を持った。


 すぐ目の前にある、澪の細くて白い首筋。

 そこを流れる血液の熱い駆動音が、試着室という狭い密室の中で、雫の耳にダイレクトに響き渡る。


 朝、ベッドの中でその甘い蜜を味わったばかりだからこそ、身体がその味を鮮明に覚えてしまっていた。



(……だめ。今は、お買い物。……がまん、する)



 雫は無表情のまま、小さな拳をぎゅっと握りしめて本能を必死に抑え込む。


 けれど、そんな雫の微かな変化に気づくはずもない澪は、ファスナーを上まで上げ終えると、ほっと息を吐きながら雫の肩にそっと手を置いた。



「う、ん! これでバッチリ!

 ……それにしても雫、本当にすごく、可愛いよ……っ」



 鏡に映る水色のワンピース姿の雫を見つめながら、澪は自分のことのように瞳を輝かせて、うっとりと頬を染める。



「……そう? なんか、スースーして、落ち着かない」


「そこが女の子らしくて良いんじゃない!

 ほら、美月にも見せてあげよ! 絶対にびっくりするから!」



 澪に背中を優しく押され、雫は試着室のカーテンをゆっくりと開けて外へと足を踏み出した。


 外のソファーで待っていた美月が、顔を上げた瞬間にパチパチと大きな瞳を丸くする。



「わぁ……! すごい、やっぱり思った通り!

 雫さん、まるでどこかの高貴なエルフのお姫様みたい!」


「でしょでしょ!? 私の見立てに狂いはなかったよ!」



 自分のことのようにドヤ顔で胸を張る澪を見て、雫の唇が、ほんの少しだけ柔らかく緩んだ。


 山で一人、ただ生きるためだけに獣を狩っていた日々。

 あの頃の自分からは想像もつかないほど、今の自分は、温かくて優しい日常の真ん中にいる。



「よし! じゃあこのお洋服は買い取りね!

 次は、お姉ちゃんたちがお腹を空かせる前に、フードコートに行って復興セールの限定クレープを食べに行こ!」



 美月の弾けた提案に、雫のお腹が待ってましたと言わんばかりに「きゅ~……」と可愛らしい音を響かせた。


最後まで見てくださりありがとうございます

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