恋人たちのショッピングモール前編
自動ドアが滑らかに左右へと開く。
かつては新種の魔物と勘違いして、無表情のまま神速の弓を構えたその『便利な動く板』を、今の照道雫は平然と潜り抜けていた。
退院とお祝いを兼ねた、初めての3人での外出。
訪れたのは、魔導科学の粋を集めた最新の巨大ショッピングモール『魔導セントラルプラザ』だ。
「うわぁ……! お姉ちゃん、見て!
大氾濫のあとだから心配だったけど、お店、どこもすっかり元通りだね!」
隣で楽しそうに声を弾ませたのは、赤髪を可愛らしくハーフアップにまとめた朝霧澪。
いつもの探索者用の軽装ではなく、フリルがあしらわれた白のブラウスにショートパンツという、年相応に華やかな私服姿。
その眩しさに、雫は歩きながらパチパチと瞬きを繰り返す。
(……みお、すごく可愛い。山のキジの羽より、綺麗)
無口な見た目とは裏腹に、雫の胸の奥は、朝の光を浴びた湖のように激しく波立っていた。
何より、意識せざるを得ないのは――。
「ほら雫、迷子にならないように。……はい」
澪が少しだけ耳を赤くしながら、そっと差し出してきた右手。
数日前までは、戦場を共にする相棒の手だった。
けれど今は、生涯を添い遂げると誓い合った『恋人』の手。
雫は「う、ん」と小さく頷き、自分の手を重ねた。
「っ……、雫? 急にギュってしてどうしたの?」
「……ううん。みおの手、あったかい。……ずっと、繋いでる」
無表情なままで、けれど繋いだ手の力をぎゅっと強める雫。
その天然な破壊力に、澪の顔が一瞬で髪の毛と同じくらい真っ赤に染まった。
「はいはい、そこ。公共の場所で朝からイチャイチャしないの」
2人のすぐ後ろから、呆れたような、けれど心底楽しそうな声が飛んでくる。
澪の妹であり、2人の関係を誰よりも応援(?)してくれている賢い妹、朝霧美月だ。
「美、美月……っ!? ち、違うよ、これは迷子防止で……っ!」
「お姉ちゃん、言い訳が苦しいよ。顔、真っ赤だし。
ほら、まずは復興セールをやってるお洋服屋さんに行こ?
雫さんに、もっとたくさん可愛い私服を着せ替えするって約束だったでしょ?」
「あ、そうだった! 行くよ、雫!」
妹に主導権を握られ、慌てて雫の手を引いて歩き出す澪。
繋がった手から伝わってくる澪の熱量に、雫の口の奥で、吸血鬼の始祖としての小さな犬歯が、無意識にむず痒く疼いた。
(……みおの手、やっぱり、すごくいい匂いする)
街を救ったご褒美のような、甘くて賑やかな時間が流れる中。
雫の身体に宿った『伝説の衝動』と、誰も知らない『不老の運命』が、静かにその輪郭を現そうとしていた。
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