皆の希望、紅蓮と深紅の終止符
結晶の全身をボロボロに破壊され、跪いた深層の王『ジ・アース』。
だが、死に体の怪物は、その胸の奥にある『真の魔力核』をかつてないほど禍々しく、眩く明滅させ始めた。周囲に残る漆黒の魔力をすべてその一点に凝縮していく。
「……っ、あれ、自爆するつもりだわ! この規模で爆発されたら、要塞ごと街が消し飛んじゃう!」
澪が紅く染まった瞳を見開き、悲痛な声を上げた。
「……ん。美月のところに、破片すら、行かせない」
雫は至近距離までトコトコと歩み進めると、おとなしめの無表情のまま、感情の読めない真紅の瞳を細めた。
彼女が弓を引き絞ると、自身の全魔力と血液が一本の矢へと集束していく。それは今までのものとは次元が違う、戦場全体を赤く染め上げるほどの巨大な【深紅の光の杭】へと姿を変えていった。
「……澪。私の、すべてを、乗せる。……道を、作って」
「――任せて! ハァァァァァッ!!」
澪が紅蓮のオーラを全身に爆発させ、弾丸のように跳躍した。
自爆の光を放とうとするジ・アースの胸部に向けて、限界を超えた速度で大剣を振り下ろす。
『初級剣技・極』――紅蓮断頭っ!!
キィィィンッ! バリバリバリッ!!
澪の一撃必殺の剣技が、ボスの分厚い結晶の胸壁を真っ二つに叩き割り、剥き出しになった『真の魔力核』を完全に露出させた。最高の盾が、最高の道を切り拓いたのだ。
「……終わり。丸太、おやすみなさい」
雫はおとなしいタメ口のまま、神速の指先を完全に解き放った。
――ヒュンっ!!!!!!
それは、もはや音すら置き去りにした閃光だった。
放たれた深紅の杭は、澪が抉じ開けたジ・アースの胸の奥――明滅する魔力核へと、寸分の狂いもなく真っ直ぐに突き刺さった。
……カツン、という小さな音が響いた、次の瞬間。
ズドォォォォォォォンッ!!!!
激しい爆風とともに、ジ・アースの巨体が内側から完全に頽れ、結晶の塵となってサラサラと戦場に霧散していった。大氾濫の『王』の、完全なる消滅。
核を失った背後の魔物たちも、光の塵となって次々と消えていき、要塞を包んでいた赤黒い霧が、嘘のように綺麗に晴れ渡っていく。
「た、倒した……? 本当に、あの深層の化け物を倒しちまったのか……!?」
「俺たちは、助かったんだ……! 街は守られたんだぁぁぁ!!」
静まり返っていた戦場に、一気に爆発的な歓声と、涙ながらの勝利の咆哮が沸き起こる。
生き残った何百人もの探索者たちが、抱き合い、武器を掲げて歓喜に震えていた。
「……ふぅ。お腹、ペコペコ。……澪、帰って、お肉食べよ?」
白パーカーのフードをパタパタと払いながら、雫は無表情のまま、トコトコと澪の元へ歩み寄った。
「あはは……もう、本当に雫ちゃんはマイペースなんだから……。……っ、うわっ!」
緊張の糸が切れて足がもつれた澪は、そのまま雫の胸の中へと倒れ込んでしまった。
すかさず雫が華奢な腕で優しくその体を抱きとめる。お互いの命の重さと、無事であることの温かさが、組紐で繋がれた手首を通じてじんわりと伝わってきた。
「本当に……無事で良かった。ありがとう、雫ちゃん……。私、雫ちゃんが大好きだよ……」
胸に顔を埋めたまま、フニャフニャにデレて涙声で囁く澪。
「……ん。私も、澪が、一番好き。……ずっと、隣にいて」
雫は真紅の瞳をパチパチと瞬かせながら、無表情のまま、けれど愛おしそうに澪の赤髪を優しく撫でるのだった。
傷つき、泥に塗れながらも、お互いを強く抱きしめ合う2人の美少女。
その姿は、要塞の窓から差し込み始めた美しい朝日の光に照らされて、まさに街の危機を救った、名実ともなる『皆の希望』そのものだった。
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