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孤高の狩人はやがて皆の希望に   作者: 白狐 緋宵
覚醒の紅蓮――孤高の狩人はやがて皆の希望に

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硝煙の奥の禁忌、始祖の目覚め



 澪が紅蓮の炎を身に纏い、ボスの懐へと肉薄したその瞬間。

 風に流された大爆煙の奥に広がっていたのは、誰もが予想し得なかった、異様で、そして圧倒的な『光景』だった。


 そこには、五体満足のまま、静かに立ち尽くす白パーカーの少女――雫の姿があった。


「……し、雫ちゃん……!? 無事、だったの……っ!?」

 澪の赤く染まった瞳から、安堵の涙が溢れそうになる。しかし、突撃する足を止めた澪は、すぐに雫の異変に気がついて息を呑んだ。


 雫の周囲には、黒い光の直撃を強引に捻じ曲げたかのような、半透明の歪んだ魔力の障壁が展開されていた。それは雫のスキルではなく、彼女が左手に握り、いま綺麗に飲み干したばかりの『一本の怪しい薬瓶』から放たれたものだった。


「……ん。澪。……これ、前におダンジョンで拾った、変なジュース」


 雫はおとなしめの天然な口調のまま、空になったガラス瓶をトコトコと足元へ落とした。パリン、と軽い音が戦場に響く。

 矢が尽き、絶体絶命の瞬間。雫の『野性直感 Lv.4』が、アイテムボックスの奥底に眠っていたその「禁忌の報酬」を飲めと、本能で告げたのだ。


「……味、すごく苦い。美味しく、ない。……でも、身体が、熱い」


 次の瞬間、雫の華奢な身体が、ドクンと世界を震わせるほどの強烈な鼓動を打った。


 凄まじい漆黒と緋色の魔力が、雫を中心に竜巻となって噴き上がる。

 衣服の隙間から覗く肌は、雪のように白く透き通り、おとなしめの顔立ちは、息を呑むほどに妖艶で、恐ろしいほどの美しさへと変貌していく。

 そして、フードの奥から覗く黒かった瞳は――夜闇に妖しく輝く、鮮血の如き『真紅』へと染まった。


【照道 雫:隠し条件『始祖の血薬』の完全摂取を確認。種族が【吸血鬼の始祖】へと覚醒・変異しました】

【ユニークスキル『百射百中』が血魔術と融合。新たな弓技が解放されます。これより、自身の血液を媒介とすることで、放たれる矢の残数は【無限】となります】


「な、何よ……その魔力……っ!? 雫ちゃん、本当に雫ちゃんなの……!?」

 澪がその圧倒的なプレッシャーに圧倒され、無意識に一歩後退る。


 吸血鬼の始祖。不老の存在にして、夜と血の支配者。

 雫は無表情のまま、自分の白パーカーの袖を少しだけタメ口を交えて捲り上げた。感情は顔に出ない。けれど、その背後には、形を成した巨大な血のコウモリの翼が、陽炎のように揺らめいていた。


「……うん。私は、私。……少し、お腹が減った、気がする。……でも、大丈夫」


 雫は静かに弓を構えた。

 彼女が弦を引き絞ると、そこには矢筒から引き抜いたのではない、自身の血が魔力と混ざり合って形成された、禍々しくも美しい『深紅の光の矢』が、ひとりでに番えられていく。


「……丸太、美月のところに、行かせない。二度と、動けないように……バラバラに、解体する」


 血魔術の代償として、彼女の防御力は紙のように薄く引き下がっていた。だが、そんなものは当たらなければどうということはない。

 赤い瞳を妖しく明滅させ、吸血鬼の始祖へと覚醒した山の狩人は、深層の王を見据えて、静かにその神速の指先を解き放つのだった。


最後まで見てくださりありがとうございます

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