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孤高の狩人はやがて皆の希望に   作者: 白狐 緋宵
大氾濫(スタンピード)勃発! 最前線の孤高の狩人

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絶望のカウントダウン、潰えた神速



 結晶の王『ジ・アース』の巨体から、空間を焼き尽くすほどの漆黒の魔力が膨れ上がっていく。

 それは戦場のすべてを巻き込んで消し飛ばす、超広範囲の破滅魔術の予兆だった。


「ひ、ひぃっ……あの光、直撃したら塵も残らねえぞ!」

「逃げろ! 要塞の奥へ退避しろ!」


 後方の探索者たちがパニックを起こして出口へと殺到するなか、雫だけは一人、ボスの眼前に立ちはだかり続けていた。ここで自分が退けば、逃げる人々も、そして背後にいる澪も、確実にあの黒い光の藻屑となる。それだけは、絶対に許さない。


「……させない。……絶対に、守る」


 おとなしめの無表情のまま、雫の指先が背中の矢筒へと滑り込む。

 だが、その指先が触れたのは、空っぽになった矢筒の冷たい底だった。


(……あ。ない。もう、ない)


 残された矢は、弓に番えられている【最後の1本】のみ。

 雫の持つ黒い瞳が、限界まで冷徹に研ぎ澄まされる。迷っている暇はない。この最後の1矢に、すべての魔力と俊敏性を乗せ、ボスの魔力核を完全に撃ち抜くしかない。


 引き絞られる弦。発動するユニークスキル――『百射百中』。


「……いけ。丸太を、壊して」


 ヒュンっ!!!!


 雫の腕が残像となり、放たれた最後の矢が、閃光となって空間を裂いた。

 狙いは完璧。ボスの眉間にある結晶の隙間をすり抜け、その奥で妖しく輝く魔力核へと真っ直ぐに突き刺さる――誰もが、勝利を確信した。


 ガキィィィィンッ!!!!


 しかし、次の瞬間、戦場に響き渡ったのは非情な金属音だった。

 ジ・アースは直撃の寸前、自らの巨大な角を盾にするようにして顔を傾け、雫の『百射百中』の矢を強引に弾き返したのだ。角は木端微塵に吹き飛んだものの、最も重要な魔力核は、無傷のまま黒い光を放ち続けている。


 そして――パラパラと虚しく音を立てて、雫の最後の矢が地面へと落ち、折れた。


「嘘……弾かれた……っ!?」

 背後で剣を構えていた澪の顔から、一気に血の気が引いていく。


 雫の矢の残数は、ゼロ。

 神速の領域を支えていた最強の武器を失い、さらに連続した超絶的な回避行動によって、さしもの雫の華奢な脚も、限界を迎えて微かに震えていた。初めて、雫の無表情な顔に、おとなしい絶望の影が差す。


「……動けない。……矢も、お家(隠し場所)に忘れてきた」


 こんな極限の状況でも、雫の脳裏をよぎる天然な後悔。

 だが、深層の王は容赦しなかった。チャージを終えた漆黒の破滅魔術が、冷酷に解放される。


『――グオォォォォォォォンッ!!!!』


 凄まじい黒い光の奔流が、至近距離にいる、武器を失った白パーカーの少女へと一気に押し寄せた。


「雫ちゃああぁぁぁぁーーーーっ!!!!」


 澪の悲痛な絶叫が、戦場に木霊する。

 光の津波が雫の小さな体を完全に呑み込み、激しい爆発とともに大爆煙が舞い上がった。


 防衛壁は完全に消し飛び、あたりを不気味な静寂が支配する。

 誰もが、街の盾であったA級狩人の死を確信した。しかし、硝煙の向こう側で、絶望の淵に立たされた赤髪の少女の瞳に、かつてない『紅蓮の炎』が静かに灯り始めていた。



(第3章:大氾濫スタンピード勃発! 最前線の孤高の狩人 ――完――)


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