おかえり、澪
「合格だ。もはやお前に教えることは何もない。往け、お前の太陽の元へ」
「……はい! ありがとうございました!」
ガルガの言葉を背に、澪は数ヶ月間過ごした山を駆け降りた。
その足取りは以前とは比べ物にならないほど軽く、鋭い。ギルドに立ち寄って更新したステータスは大幅に上昇し、カードの文字は念願の【C級】へと変わっていた。
はやる気持ちを抑えきれず、澪は朝霧家の2LDKのマンションのドアを押し開ける。
「ただいま……戻り、ました……」
限界まで張り詰めていた緊張の糸が切れ、ドッと疲れが押し寄せる。衣服はボロボロで、フラフラになりながら玄関にへなへなと座り込んでしまった。
「お姉ちゃん!」
奥から美月が飛び出してくる。澪は最高の笑顔で、緑色のC級カードを掲げた。
「美月……雫ちゃん……見て。私、本当にC級に上がったよ……!」
「やったぁぁ! お姉ちゃんすごいっ!」
「あはは……もう、一歩も動けないや……」
完全に気が抜けて脱力しきった澪の前に、トコトコと静かな足音が近づいてくる。
数ヶ月間、ずっと待ち続けていた白パーカーの少女――雫だ。雫は無表情のまま澪の前にしゃがみ込むと、泥のついた澪の頬に、温かい手をそっと添えた。
「……よく頑張った。おかえり、澪」
「え……?」
澪は、ぱちぱちと瞬きをした。今、なんと頭の上から聞こえてきただろうか。
「雫ちゃん、今、なんて……」
「……澪。お姉さんじゃなくて、澪。もう、足手まといじゃない。私の、立派なパーティーメンバーだから。呼び捨て」
感情は顔に出ない。けれど、雫の黒い瞳の奥には、数ヶ月分の愛おしさと、無事に戻ってきてくれたことへの深い安心感がこれ以上ないほど満ちていた。
「み、澪って……」
地獄の特訓を耐え抜いた心に、雫からの不意打ちの「呼び捨て」と真っ直ぐな好意が極上のスパイスとなって注ぎ込まれる。
澪の顔は一瞬で真っ赤に染まり、完全にデレデレになってしまった。
「う、うん……ただいま、雫ちゃん……。あはは、なんか、名前呼ばれるの、すっごく嬉しい……」
フニャフニャになった澪は、そのまま雫の胸元へと力なく頭を預け、甘えるようにすり寄った。
「……む。澪、泥くさい。……でも、温かいから、許す」
雫は無表情のまま、けれど優しく澪の背中に腕を回して、愛おしそうに抱きしめ返すのだった。
こうして、泥まみれのC級剣士と、パーカー姿のA級狩人は、数ヶ月ぶりの再会を静かに噛み締める。
ついに並び立った2人の絆。しかし、彼女たちの休息をあざ笑うかのように、ダンジョンの深淵では、最悪の災厄が牙を剥こうとしていた。
(第2章:背中を追いかけて――少女の焦燥と猛特訓 ――完――)
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