泥をすすり、限界を超えて
特訓が始まってから2ヶ月が経過した。
澪の日常は、文字通り『地獄』の一言に尽きた。
「構えが甘い!」「足が死んでいるぞ!」
ガルガの容赦のない木刀が、澪の体を何度も打ち据える。
D級探索者としてのぬるい戦い方はすべて叩き潰された。魔力の効率的な練り方、呼吸法、そして何より『一撃にすべてを懸ける』剣士としての極意を、澪は体と心に叩き込んでいく。
夜、岩肌に寝転びながら、澪はボロボロの手でスマホを開き、美月から送られてくるメッセージを見ていた。
『お姉ちゃんがいない間、雫お姉ちゃんが毎日すごいお肉を狩ってきてくれるよ! でも、時々お姉ちゃんのお部屋をじっと見てて、寂しそうにしてるよ』
添付された写真には、リビングのソファーで、お気に入りの白パーカーの袖を顔まで引っ張って丸くなっている雫の姿があった。無表情だけど、どこか捨てられた仔犬のように寂しげだ。
「……待っててね、雫ちゃん。今、行くから」
愛おしさと決意で胸が満たされる。
翌朝、澪はついにガルガの放つ猛烈な一撃を、進化した身のこなしで完璧に受け流してみせた。
「ほう……ようやく形になってきたな。ならば、仕上げだ」
ガルガの瞳に、初めて満足気な光が宿った。
*
その頃、ギルド長室では、ギルマスのバルトが深刻な顔で書類を睨みつけていた。
「深層エリアの魔物の活性化、さらに中層での異常な魔力の歪み……。間違いない、これは近いうちに『大氾濫』が起きる兆候だ……」
バルトは窓の外のダンジョンを見つめ、拳を強く握りしめる。
「この街の盾となれるのは、A級の面々……そして、あの照道雫だけだ。それまでに、少しでも戦力を集めねばならんが……」
街に静かに迫る、崩壊の足音。
そんな世界の異変などまだ知らない澪は、ただひたすらに、相棒の隣へ帰るために剣を振り続けるのだった。
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