少女の決意と、地獄の幕開け
街の外れにそびえ立つ、険しい岩山の頂上。
吹き付ける強風のなか、澪は膝をつき、激しく肩で息をしていた。
「おいおい、もう終わりか? その程度の覚悟で、あの神速の狩人の隣に立つなどと、笑わせるな」
大剣を軽々と肩に担いだ隻眼の老剣士――元S級探索者の『剣聖』ガルガが、冷ややかな視線を澪に見下ろす。
澪の全身はすでに泥と汗にまみれ、愛用の剣を握る両手は豆が潰れて血が滲んでいた。全身の筋肉が悲鳴を上げ、意識が遠のきそうになる。
(……痛い。苦しい。もう、動けない……)
弱音が頭をよぎるたび、澪の脳裏には、あの夕日に照らされた雫の大きな背中が鮮明に浮かび上がった。
A級の金色のカードを無表情に見つめていた、大切な相棒。自分がこのまま立ち止まれば、あの背中は二度と手が届かない宇宙の果てまで行ってしまう。
「……まだ、です!」
澪は奥歯が軋むほど強く噛み締め、震える足で無理やり大地を連打して立ち上がった。
濁りのない、熱い炎を宿した瞳でガルガを真っ直ぐに見据え、折れかけた剣を再び構える。
「私は……雫ちゃんの隣に立つって、決めたんだからぁぁ!!」
「ククク、いい眼だ。ならば死ぬ気で喰らいついてこい!」
ガルガの大剣が容赦なく振り下ろされ、澪の地獄の猛特訓が、本格的に幕を開けた。
*
その頃。ギルドの深層エリアでは、白いパーカーを着た雫が、一人で巨大な魔物の前に立っていた。
地響きを立てて襲いかかってくる甲殻類の化け物を、雫は一歩も動かず、無表情のまま見つめる。
引き絞られる弦。発動する『百射百中』。
ズドンっ!!
放たれた一矢は魔物の分厚い甲殻を消し飛ばし、一撃でその巨体を粉砕した。
周囲の探索者たちが「また一撃かよ……」「化け物め……」と震え上がるなか、雫はふぅと小さく息を吐き、静かに自分の左手首を見つめた。
そこには、澪と結んだパーティーの『組紐』が、今も変わらず巻き付けられている。
「……澪。山は、もう、秋が終わる。……お肉、たくさん用意したから、早く、帰ってきて」
感情は顔に出ない。けれど、ポツリと溢れたおとなしい声には、隠しきれない寂しさが滲んでいた。
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