7 魔王討伐の功績
いつもお世話になります。黒笠です。
魔王を知らない間に倒したこととされるところから、本作の始まりです。
ここまででも6話かかるという。いやはや。
フレック氏をダメダメで描きたくてしょうがない割にはなかなか上手くいきません。
お読みくださっている方々には大いなる感謝を。
いつもありがとうございます。
3日間、フレックはベンドルムの森の中を彷徨っていた。被服は乱れ、木の枝に破れている。喉の渇きは川の水で満たした。
(だが、私のことなど、どうでもいい)
結局、魔王ペグドランからの追撃を受けることは無かったが故にまだ自分は生きている。彷徨って初日のうちから、案じられるのは仲間たちの命だった。
見覚えのある木々の並び。その向こうに人の気配を感じる。
(やっと入り口にたどり着いたのか)
天幕が並び、その間を兵士たちが行き来している。
自分の行方不明が原因か、それとも魔王出現が知られたのか。
ふらふらとよろめきながら、フレックは天幕の方を目指す。
「殿下?フレック殿下っ!」
既に騒ぎになりかけていたところ、ゲイルが気付いて名を呼んでくれる。ミレイとウェインの姿もあった。
「良かった、3人とも無事だったのか!」
フレックは3人と抱擁を交わす。
魔王と遭遇した。絶望的な状況から4人とも無事、生還している。
こんな奇跡があるだろうか。
「おおっ、フレック!よくぞ無事だった」
父である皇帝ロックス3世もいた。3日で皇都からここまで、というのはいかにも早い。それだね身を案じてくれたのだ。
「父上」
フレックは父とも抱擁を交わす。
「よくやった」
そして労われた。
決死の覚悟で聖女であるミレイを魔王から逃がすことに成功している。それだけでも戦果として、若輩の身であれば十分だったのだろう。
(そうだ、魔王の誕生を、その脅威を知らせねば)
皇族としての責務をフレックは思い出す。大聖女登場前に魔王の方が先に誕生してしまった。当然に、人類として備えなければならない。
しかし次の瞬間、皇帝の言葉に耳を疑う。
「よもや当代の魔王を自ら討つとはな。その若さで。お前は真の勇者だ」
想像もつかない言葉を父からかけられた。
「えっ?」
思わずフレックは間の抜けた声を上げる。
自分は逃げたのだ。絶望的な戦力差に圧倒されて。聖女のミレイを未来への希望とするため逃がすこと以外は考えられない体たらくだった。
(その判断は間違えていない。私は間違えなかった。しかし)
フレックはゲイル、ウェイン、ミレイの順に視線を交わす。3人とも同じ反応だ。首を横に振る。
なぜ逃げた自分が魔王を討ったという話になっているのか。
「お前は学園の実地演習で、経路を大きく無断で離れ、魔王と遭遇した。聖女の存在を魔人たちに知られたことや独断専行は失態だったが、その手で魔王を討ったのだ」
訝しげに首を傾げつつも、父が自分の戦果を説明してくれた。
「いや、しかし」
相手は魔人どころか魔王なのだ。
倒しても致命傷を与えたとしても肉体が再生する。人間に倒せるものではない。せめて撃退した、ということではなかろうか。
父の後ろから艶かな茶色のローブを羽織る魔術師があらわれた。魔導卿のオルセンだ。
「既に魔王の死体は確認しております。額だけではなく、背中や腹、脚など全身に魔王紋のある、大魔王とでも呼ぶような、大物でした。そして剣も魔王剣ペリグリーで間違いありません」
穏やかな笑顔のまま魔導卿オルセンが言う。ロックス帝国最高の魔術師が間違えるわけもない。
「いや、しかし、それにしても。魔人はおろか魔王に生物的な死を与えるなど。殿下は恐ろしい実力を隠し持っていたのですな」
最早、呆れたかのような笑みをオルセンが向けてくる。
ここでフレックはようやく気付く。
森の入り口に木の杭が立てられ、ズタボロだったが身体の輪郭や2本角には見覚えのある、魔王ペグドランの亡骸が磔にされていた。
魔人は傷を負ってもその膨大な魔力でもって再生する。致命傷も肉体の欠損すらも。
(つまり、再生出来なくなるまで、一方的に魔王を何度も破壊し続けたということか)
自分ではない、誰がやったかも分からない所業にフレックはただ恐怖した。
「私は、そんなことは、記憶に」
どうなっているかも分からない。
自分のしたことではないことが、自分の偉業として語られている。魔王ペグドランと対峙した恐怖を思い起こしつつ、フレックは言葉に詰まってしまう。
「相手は大魔王だ。死に物狂いの戦いであったことは容易く想像出来る。無理もない。亡骸ですらも恐ろしい瘴気を発しておる。だが、お前は愛する聖女を守って戦い抜いたのだ。息子よ、私はお前を誇りに思う」
誇らしげに父皇帝ロックス3世が言う。
ここでフレックは大事なことを思い出した。
「父上っ!レフツは?レフツ・ブラウリーはどうなりましたか?私は栄誉になど値しませんっ!私はっ!」
フレックは言葉に迷う。同時に初めて罪悪感を覚えた。そしてここから先の言葉は自分の恥を晒すこととなる。
「私はレフツ・ブラウリーを、元婚約者サリア・サフランへの当てつけから、巻き込み、そして死なせたのです」
やり過ぎだった。サリアへの罰ならばサリアにだけ害が及ぶようにすれば良かったのだ。
今になってフレックは思う。
「私はかねてからサリア・サフランを疎んじておりました。闇魔術師であり、その希少さを鼻にかけ、気軽に攻撃魔術を乱射していたからです。しかし、平民に対し、彼女との結婚を強要し、さらには夫となった者を巻き添えで死なせるなど」
フレックは思いのままを父親に打ち明けた。廃嫡されても仕方がないくらいの非道を、レフツ・ブラウリーに対しては行ってしまったのだと分かる。
「息子よ。本来ならば守るべき民に対して行ってしまった過ちはよく分かった。だが、サリア嬢が聖女であるミレイ嬢を負傷させた事実には変わりはないのだ。まだ高位貴族として魔術を学園内で乱射するなど、間違っておる。お前も全てが正しいわけではなかったのかもしれんが、その反省は次に活かせ」
思いの外、優しい言葉を父からかけられた。
フレックは思わず父の顔を見る。心底、誇らしげな表情のままだ。
(そうだ、父上にとって、私は今、魔王を討滅した鼻の高い息子なのだ)
フレックは理解するのだった。
「わしも彼女が皇太子妃に適しているとは思えん。それにその夫とやら、レフツ・ブラウリーは死んでおらんぞ」
更に思わぬことを父が言う。
レフツ・ブラウリーが死んでいない。
魔王の飛来に倒され、遺体に剣まで突き立てられていた姿を思い出す。
「そんな、馬鹿な」
思わずフレックは口走っていた。
「その者がお前の奮闘の一部始終を見ていて、報告してきたのだからな」




