第三話 接触
第三話 接触
学園長との会話の後、早速聖は見習い教師として朝の集会時に紹介された。
声は無かったものの女子からの視線が妙に熱く感じた聖であった。
聖はそのまま担当の教員と共に教室へ行く。聖が入ると沙織と視線が合った。
沙織がいるクラスの担当となったのは学園長の根回しである。教室前で立っていた竜一とも
会ったが特に二人の間に言葉はなかった。また生徒たちの視線を感じながら、
聖は補佐役として務める。
あっという間にお昼となり聖は誰にも見つからぬよう学園内を散策。学園3階建てで、
生徒たちの教室がある学園棟と音楽室や部活動用の部活棟と別れている。
聖は部活棟の方にいき、周辺を一周。誰も来ないだろう裏側で学園を囲む塀を背にして跳躍。
建物と塀をジグザクに跳躍して屋上へと登った。
屋上は水の浄水層や複数の室外機があるだけで、業者以外来ないせいだろうか柵も低く、
学園棟全体を見ることが出来た。
聖は学園棟が見える場所に座り、朝方コンビニで買ったオニギリをスーツのポケットから出して
頬張る。ついでにもう一つのポケットにはペットボトルのコーヒーだ。
学園棟と部活棟の間にある中庭で優雅な昼ごはんを楽しむ生徒達とは対照的だが、
ご飯に集中する時間は無い。対象の人物を見失わないうようにする。小さな双眼鏡で見ると、
沙織は数名の女生徒たちとお弁当を出して中庭で食べていた。時折笑顔も見える。
聖女と言えど年頃の女の子だなと聖は思った。またその数メートル離れた場所で立ったまま沙織を
見守る竜一は聖と同じコンビニで買った菓子パンなのかを食べており、同じ境遇に少し笑みを
浮かべる。
スーツの内ポケットが軽く振動する。聖はそこから携帯電話を取り出す。スマートフォンでは
無く折りたたみ式の携帯電話だ。開けるとショートメッセージで
『監視対象3発見』
とあった。すると続けて振動し新たなメッセージが現れる
『対象2発見。確保済』。
「さすがエージェント。もう仕事が始まっていたか」
とコーヒーを飲みながら返信をする。片方には『確保』ともう片方には『情報を得られない場合は
処分』と。
返信後『確保』と打った方からは『確保済』と返信があった。聖は同じ指示を出した。
スマートフォンでも良いのだが、聖やエージェントにはでかすぎた。マップなどを見るには
便利だろうが、今回のような連携プレーではガラケーでも十分だ。
また仕事時にしか契約しないため、もしエージェントが捕まった場合、他のエージェントや
聖たちに電話や関係が繋がらないようにしている。聖もプライベートでは持ち歩いているが、
数ヶ月に一度は変えている。2年契約縛りなどお構いなくだ。
昨夜、聖によって20名以上を処分したのにも関わらず、まだ出てくるのかと相手の執念さに
驚いていた。沙織の行確を初めて、沙織を監視する数は50を超えており聖は呆れていた。
常に交代交代で見ていたのだ。しかもあんな黒の衣を被って。聖からしたらどうぞ見つけて
くださいと言っているようなものだが、そこはやはり一般とは違うのか、街中だろうとお店の中でも
彼らは誰にも気づかれること無く沙織を見ていたのだ。
あの衣には気配なり姿を一般の目から消せる効果でもあるのかと疑った。
なのであの衣は回収して調べてもらっている最中でもある。
聖血教会はどうやってすぐに沙織を聖女と知ったのか。いくら学園長が沙織を聖女としたと
言っても全国のニュースになる事は無い。椎堂学園中で知れ渡るだけだ。
情報を得るスピードが早すぎる。また知る前はどういう活動をしていのか、
なぜこれ程までの人数がいるのか。聖はコーヒーを飲み干した後も沙織を見ながら考えていた。
「もしかすると、聖血教会は椎堂学園には聖女が必ず現れると確信していたのかもしれない。
昔……お祖母様を狙った連中の生き残りがいて、椎堂家と繋がりがあるこの学園でならと思って……
監視していたという事か? それだと狂気だな、もう数十年待っていたと言うことか……?」
推測は推測でしか過ぎないが、もし今のが正解だとしたら彼らの聖女に対する妄執は計り知れない
ものだろう。下手したら2世代で待っていたかもしれないのだ。
聖女がもつ聖血の奇跡を求めるためだけに数十年……。
聖は表情こそ変えないが、寒気がした。だがすぐに寒気は消えた。聖血教会の曲がった熱意は
分かっただが、まったく理解できなかったからだ。
これが人の暗部というのなら、それを阻止するのが天家の仕事だと聖は思った。
思考の海から浮かびあがった聖は、思考中でも沙織からは目を離さないでいた。チャイムが鳴る。
お昼ご飯の終了の時間のようだ。この後は掃除の時間だ。
と言っても掃除の大半は委託されているが、教室内のゴミなどは生徒達で片付けているらしい。
生徒達が教室に戻っていく。それを見届けると聖は双眼鏡を離し立ち上がる。
「掃除の時間か……。ならこちらも掃除を開始しようかね?」
後ろを振り返るが誰もいない。
「殺気だらけだよ。意趣返しかい?だったら出てきたらどうだい?」
眼鏡を外し、地面に置きゆっくりと歩きだすと、浄水層のところから10名ほどゾロゾロと
黒の衣の集団が出てきた。
「これはまた数を集めてきたね。だけど!」
聖の姿が消える。突然の光景で黒の衣たちの動きが止まると、一人の体が宙を舞った。
そこには聖がいて蹴り飛ばしていた。
「いくら数を揃えたからって無駄だよ」
聖の目つきが変わる。昨日はわからなかったが鋭く目が釣りあがっていた。
集団を前に笑っていた。まるで楽しむかのように。
また同じように聖の姿が消えると同時に今度は3人以上吹き飛んだ。
集団は何が起こり何をされたのかわからず、昨日と同じようにパニックに陥る。
聖は体術を使っているのみである。だが、聖のスピードが早すぎて追いつけていないだけで
あった。逃げ出そうとする者たちの前に回り込み、1分ほどでカタはついた。
全員気絶させ、後の事はエージェントに任せ聖は同じように屋上から見えないように飛び降り
着地。職員室に戻った。さすがに掃除の時間に戻らないのは初日から駄目だろうと考えたからで
ある。職員室に戻ったら戻ったで、若い女性教員からはなんでお昼時いなかったんですかと
怒られて、疑問に思った聖であった。
その後、午後からは午前中と同じく担当の補佐として働き1日が終わった。
すべての授業が終了後、一応は見習い教師なので担当の教師の仕事のヘルプをしたら、
聖の仕事が早かったのか他の教師からもヘルプを頼まれてしまい手伝っていたら
全校生徒下校時間となってしまった。
エージェントには沙織の監視も頼んでいたが聖がメインだったので少し焦りながら職員室から
出ていった。歓迎会をすると言われたが今回は軽く断った。
仕事の後なら良いかもと考えた聖であった。
ショートメッセージで沙織の事を聞くと、兄(竜一)と一緒に帰ると返信があった。
それだけを聞いて聖は歩を遅め、正門へと向かった。
正面玄関からでると通路があり正門があるのだが、そこで二つの姿を確認した。沙織と竜一であった。2人の後ろを歩いていたら、足音に気づいたのか、沙織が振り返る。夕日に黒髪が光っていた。
「伊藤先生、いまお帰りなのですか?」
「えぇ、担任の先生のお手伝いをしておりまして。ここの先生方も大変ですね……先生方の能力は
高いのは分かりますが、授業内容に精査とかカリキュラムの遅延などの確認が厳しくて初めての
私には難しかったです」
お嬢様学校と言われながらも各地の優等生を集めての進学校なので授業内容は1年の時から厳しく
している。聖も学もありながらも久しぶりの事で戸惑いながらもうまくこなしていた。
「私も最初は勉強が難しかったのですが、今はなんとか大丈夫です。」
と言う沙織だが、入学試験ではトップの成績だったと資料にはあったので、十分勉学は大丈夫だろう
と聖は思った。
「沙織、あまり伊藤先生と話して先生にご迷惑かけるんじゃないよ」
竜一が少し聖を見るというか睨んで沙織に注意をする。
「竜一兄さん、分かってます。それでは伊藤先生、ごきげんよう、ふふ」
お辞儀をしてお嬢様学校ではあまり違和感が無い事を言って沙織は竜一と一緒に帰っていった。
その2人を見送り監視を再開しようとした時だった。先程、沙織がいた所に花柄の紙片が落ちて
いた。先程までは無かったものだ。不審に思った聖がそれを拾って広げるときれいな文字で
―伊藤先生、格好いいです。もっと話せたらなと思います 神埼沙織
とあり、しかも電話番号まで書かれていた。
どう言う事なのか分からない聖ではない、普段は気づかないがこういう直接的なメッセージを見れば
ある程度は察する。
「まだ1日でほとんど話してないっていうのに……今の子は大胆だね。」
と思いつつも、相手の連絡先を手に入れることができた。それだけでも良いかと思う半面、
気が重くなる聖であった。
変な方向に考えないよう、聖は沙織の監視を再開した。




