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DARKNESS HUNTER  作者: ゼファー
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第一話 聖女

第一話 「聖女」


 

 「おはようございます!」


朝の登校時、少女の横を通り過ぎる度、女学生はその少女に向かって深くお辞儀をし

挨拶をしていく。


少女は少々困りながらも笑顔で返事を返す。少女は長髪黒髪で鳶色の瞳、

キリッとした瞳で顔も小さく美少女であった。



 少女の名は神埼沙織(かみさきさおり)、椎堂女学園の1学年で1ヶ月前に新入生として

入ったばかりなのに、とある事情で沙織は時の人となっていた。



 入学時、突然学園長から呼ばれた沙織は突然「聖女」という称号を与えられた。

学園から見て名誉ある事らしい。突然のことで沙織は戸惑うばかりであった。

理由を尋ねても学園長からは存在そのものが聖女という回答で沙織を更に混乱させた。

どう言う事なのかさっぱりで、一瞬父親が何かしたのではと疑ったが、

今は大事な政界への進出で忙しいし、変な手回しはしないと考えている。



 聖女と言われてからが大変だった。その噂は一日で広まり、次の日にはまだ知り合ってもいない

同級生からも羨望な眼差しで見られるようになり、上級生からもそういう風に見られるように

なった。幸いな事にそれで変な嫉妬を買い陰湿ないたずらは今の所無かった。


戸惑う日々が続いたが、1ヶ月も経つと慣れてきたのか対応もできるようになった。

ただ同級生の憧れみたいな眼差しは未だに慣れない。


 学校側での問題は無いのだが、入学以来周りで変なことが起き始めていた。

妙な視線を感じるようになった。行くときも帰るときも、常に誰の視線が刺さる。

それが段々と数が増し、昨日それが起こった。


 寮生活なのだが、家の用事で兄と外出しての帰りだった。兄の車から降りたら黒い衣を被った

集団に囲まれたのである。

 兄の車に戻ろうしたが、兄が捕まっており戻れなかった。黒い衣の一人が腕を出し、

沙織に触れようとした時だった、兄が叫びながら藻掻くと油断があったのかなんとか脱出し、

沙織の手を掴んで逃げることに成功した。しかし数キロ走った時点で疲れてしまい倒れてしまった。

兄に抱きしめられ目を閉じた所までは覚えているが、目を開けたら寮のベッドであった。


 制服は着たままだったので、あの出来事は夢では無い事は分かった。

兄に電話したが兄も何時の間にか自宅の部屋で目が覚めたという内容だった。


疑問ばかりで気づかなかったのだが、一つの違和感があったのは今日の登校時はいつもの

何かの視線が無かったのである。


 視線が無いのが違和感と言われると疑問だが、それが沙織にとっては『いつもの』と

なっていたので質が悪い。そんな事を考えながら学校の門の前を見ると、


一人の男性が立っていた。ブラウンのスーツ姿の中肉中背の男性、

沙織の兄「竜一(りゅういち)」だった。




 神埼竜一は父親と比べられるのが嫌だった。自分に父親ほどの才覚が無い事は分かっていた。


神埼家の長男として生まれた竜一は父に憧れ勉学に励んだ。俗に言う一流大学に受かり、

一流企業で働く身となり結果も残しているのだが、周りから言われるのは自分の事ではなく、

自分が父親の息子だからいう感想が多かった。常に竜一の前には父親がいた。

それが嫌になり会社を辞めてしまったが、さすがに働かないわけにはいかず、

今は奇しくも父親の秘書として働いている。


 そんな折だった。妹の沙織が「聖女」という称号を授かった。名誉な事であるのだが、

聞いたこともない事であったので反応がしづらかった。

両親も凄いことだと喜んでいたが、実質家族全員が疑問状態で妹を祝ったのは確かだった。


 だが、それ以降沙織から誰かに狙われているという相談を受けた。警察にも相談したのだが、実質正体が分からない以上警備はされなかった。父親にも相談したが、父の人脈でも無理だったので

竜一自らがボディガードを請け負った。

 中学高校と水泳していただけでそれ以降は何もしてなかったので頼りないボディガードでは

あったが沙織は常に誰かが居ることに安心してくれた。

 学園側にも事情を説明すると学校の警備の数を増やしてくれたが、咄嗟の時の行動が

出来ないため、特別な事情として竜一は女学園に入ることを許された。どうやら聖女とはかなり

特別扱いを受けていることを竜一は感じた。


 ボディガードを請け負った後も、沙織への視線は消えず昨日の事が起きた。父親の懇親会に行かないといけなかった為、家族である沙織を連れて行った帰りに襲われた。

 最初は捕まったがなんとか力を振り絞って逃げることが出来たが、途中で倒れてしまい、

集団が獲物を構えた所で、カヴァリエ・バリトンな声が聞こえて、細身の影を見て……

からの記憶がなかった。少しだけオペラなどを齧った程度だがあの声はバリトンほどではなく

中間的な声だったのは覚えているのだが……



 と、昨日の事を考えていたら門の所で沙織に声をかけられた。



「竜一兄さん……?」


沙織が不安そうに竜一を見ていた。


「あ、おはよう、沙織。……すまん今日は一緒に行けず……」


「おはよう。ううん、大丈夫。なんかその変な視線がみたいのが今日は無かったから」


横に首を振り、すこし笑顔になる沙織。その言葉に竜一は驚いた。あれほど沙織を苦しめていた

視線が無くなった?


無くなった原因を考えるが、何も思い浮かばない……いや一つだけ思い浮かべたのは


「あの申し訳ありません、椎堂学園の関係者でしょうか?女学園なのに男性の方がいらっしゃったので……」


カヴァリエ・バリトンな声が二人の横から聞こえた。その声に反応して竜一はその方向を見る。

沙織は竜一より遅れてそちらを見た。


二人の横にはシルバーのスーツ姿で竜一より若いかつ少し身長が高く、メガネをかけた細身な

青年が立っていた。


聞いたことがある声質だったが、あの時が異常だったせいか竜一には正確な正解は出なかった。


「あ、貴方は……?」


青年の端正な顔つきに沙織が一瞬見とれたが、沙織は何も言わない竜一に変わって質問する。


「貴女はここの生徒さんのようですね。失礼いたしました。私の名前は伊藤真司。

今日から1ヶ月教師見習いとして来ました。よろしくお願い致します。」


笑顔で伊藤と名乗った男-天海聖-は深々と竜一と沙織に頭を下げた。



天海聖の仕事が始まった。


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