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#42. 気にかかること。



エルナはふたりの子どもが警戒心を和らげられるよう、タルーの名前を出した。ラディオンから何度も補給品を送ったことがあったためか、補給品という言葉を聞くと、子どもたちの表情がほんの少しだけ和らいだ。


「タルー様のご依頼……ですか?」

「ええ、そうです。ここに身元証明書もありますよ」


エルナがタルーから受け取っていたペンダントを持ち上げると、子どもたちは躊躇いがちに答えた。


「そうです。私とミリアはエルケから来ました」


子どもたちの答えに、エルナは微笑むふりをしながらマクラーレンとミリアの状態を観察した。年齢は人族の基準で十二、三歳といったところだろうか。

華奢な身体は、成長期の子どもとは思えないほど痩せこけていた。


(頬もげっそりとこけているわ。睡眠もロクにとれていないのかしら?)


まだ幼い子どもたちの目の下に黒々と隈が落ちているのが、かなり気にかかった。それだけではなかった。ふたりの子どもの服は、ボロ切れに近い状態だった。


正直、身にまとっているから服と呼んでいるだけで、雑巾の切れ端と呼ぶほうが遥かにしっくりくる表現に近かった。


(タルー族長は、エルケで感染症が蔓延していると言っていたわね)


獣に近い外見を持ち、成人しか罹らないという感染症と、川辺へ魚を捕まえに来た血色の良くない子どもたち。


つまり、動けるのは子どもたちだけであり、この子どもたちが大人たちを養っているという意味だ。


(なるほど……)


子どもたちがなぜあれほどガタガタと震えながらエルナに謝罪の言葉を口にしたのか、少し理解できた。


ただ……。


(思っていた以上に村の状態は良くないみたいね)


子どもたちの栄養状態から察するに、動ける子どもたちの数すら圧倒的に不足しているように見えた。そもそもコル地方はダンジョンの影響によって問題が生じているのだ。

当然、ダンジョンから現れた魔物も多いだろうから、子どもたちだけで食料を調達してくるのにも限界があるはずだ。


(これ参ったわね……困ったわ)


人手が圧倒的に不足している村に到着した冒険者。熱帯雨林を押し分けて来るほどの実力者であり、補給品まで届けてくれる?


断言するが、村の誰かが助けを求めてくるのは目に見えていた。冒険をしたいのは事実だが、慈善事業をするつもりはないのだが。


(子どもたちをダシにして助けてほしいと言われたら、断るのも難しいわ。うーん……)


もちろん、村の人々が無闇に助けを求めてこない可能性もある。エルナは獣人たちが排斥する人族であり、グレンは大罪人なのだから。だが、村に入るのがどこか気味が悪いというのもまた事実だった。


(いっそこの子たちに補給品を渡して、迂回しようかしら?)


あれこれと思いを巡らせながらエルナが沈黙していると、子どもたちの顔に再び不安の色が芽生え始めた。

それに気づいたエルナは、口元に笑みを浮かべながら子どもたちに言った。


「そうですか。ちょうどよかったわ。おふたりさえよろしければ、私たちをエルケまで案内してもらえないかしら? お礼はするわ」

「お礼、ですか?」


期待を込めた子どもたちの様子に、エルナはバッグの中から保存食をいくつか取り出して差し出した。

新鮮な食べ物も持っていたが、現在の状況から見て保存食を渡すほうが遥かに益が大きいと思えたからだ。


「これくらいでどうかしら?」

「こ、こんなにたくさん……」

「村はこちらです! 私たちについてきてください」


エルナの心変わりを心配してか、素早く手に乗せられた補給品を回収した子どもたちは、先頭に立って歩き始めた。

子どもたちの後ろ姿を見つめていたエルナは、グレンに尋ねた。


「グレン。エルケの状態はかなり良くないみたいだけれど、どうするのがいいと思う?」

「補給品だけ置いて立ち去るのが効率的に思えますが……」


言葉を濁したグレンの表情は、決して晴れやかではなかった。何か気にかかることでもあるのだろうか。


「グレン。グレンはどうしたい? 村を見て回りたいの?」

「はい……一度見て回りたいです」

「理由があるの?」

「子どもたちがふたりしかいないことが気にかかります」

「移動のルートが違うだけじゃないかしら? 大人数で一緒に動き回ったからといって、食料をたくさん調達できるわけではないし」

「もちろんその通りです。ただ……」


言葉を濁したグレンの赤い瞳には、訳のわからない感情が宿っていた。それ以外にも、心に引っかかることがあるのだろうか。


「正直に言うと、私は気乗りはしないわ。それでも見て回りたい?」

「……」


エルナの答えに、グレンの視線がエルナへと向けられた。普段のグレンであれば、エルナが気乗りしないと言った時点で自分の意見を引っ込めていたはずだ。


そもそもコルで起きている問題の根本はダンジョンだ。エルナが自らダンジョンを攻略しない限り、問題を解決することはできない。


(原因が残ったまま手助けをしたところで、それはどこまでも一時しのぎにすぎないわ)


グレンは愚かではない。当然、エルナが考えていることなど分かっているはずだ。

それにもかかわらず強硬な態度をとる上、別段の説明もないということは、口にできない何かがあるということだろうか。


(気乗りはしないけれど……まあ、仕方ないわね)


ここまで気にかかるように振る舞われると、かえって気になってくる。そこでエルナは心配いらないという表情を浮かべながら答えた。


「分かったわ。それじゃあ村を見て回りましょう. ただし、あまり深入りするのはごめんだわ。これについては私の言うことに従ってほしいの」

「……! もちろんです。ありがとうございます、エルナ」

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