第37話 「こんなおれの傍に居てくれ」
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浮遊感に攫われたアランロドは、遥かなる大空へと飛び立った若人たちを仰いで、薄く唇を嚙み締める。
笑う顔を作るのは得意なはずなのに、何故だか今回だけは、上手く笑えていない気がした。
「こんな──おれが居なくても。あんたはもう、大丈夫。何も問題は無い。そうだろ?」
何か、口をついて最悪な言葉が出かけた気がする。
故に、氷の塊でも飲み下すように喉仏を上下に動かした後、アランロドは何もかもを誤魔化すため独りでに誰かへと問いかけた。
飛んでいく二人から目を離せぬまま、黄金の目を眩しそうに細める。
(さあ、飛んでゆけ。どこまでも高く、遠く——〈影〉なんて、見えなくなるくらい。〈影〉なんかに、囚われないくらい)
アランロドは黄金の目を固く閉じる。今にも、眠りにつくかのような──しかし、決して安らかではない。何かを無理やり呑み込むような、貼り付けた微笑みも歪んでしまう、何にも喩えられないような、眉を顰めて目元をほのかに赤らめた顔で。
(やっぱり、あんたが大嫌いだ。この世界諸共、死んじまえばいい。だけど……あんたと居ると勝手に魂が歌ってしまうのは、どうしてだろうか。おれは死ぬほど、歌もあんたも嫌いで憎いのに。最後まで、それだけは解らないままだったな)
アランロドは、また、イルダナの所為で知らない感情が魂の深奥から新たに芽吹いてくるのを感じる。これで、最後だというのに。
ほのかに息苦しくて、胸を掻きむしりたくなるような──ぽっかりと心臓に孔が開いてしまったかのような、喉から鼻の奥がツンと痛くなるような。
こんな、微塵も知りたくもなかった感情は、何と言うのだろう。
ただ、ほんの少しだけ、寒い。
きっとこれも、イルダナが齎した、最悪な錯覚であることに違いないはずだというのに。
それでも、寒いと、思わずにはいられなかった。
アランロドは無意識に伸ばしていた片手で空を掴むと、そのまま谷底の深淵へと墜ちていったのだった。




