第26話 至宝の正体
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「魔女酒場」に向かう道中。イルダナは、ハルミカとカシュガル、そして第七師団の代表たるディンデルに、アナム心臓城潜入において手に入れた、カロス王の目論見のあらましをかいつまんで話した。
異人類を虐殺し、不還の巨霊を大量に生じさせる非道な作戦「樹海焼き」。カロス王が不還の巨霊を操る術を持っていること。そして——。
「カロス王の言う、アイティナラント・ルグの正体が判りました」
イルダナの確信の籠った言葉に、一同が大きく目を瞠ってイルダナに注目する。
「アイティナラント・ルグ、それは——ハルミカ。きみのことで間違いありません」
「! な……」
ナーザが囚われてから、いつもより顔色が悪いハルミカが僅かに俯かせていた顔を上げて、思いがけずといったように声を上げる。イルダナはハルミカに顔を向けて、静かに語りかけた。
「ハルミカ。精霊魔法が使えるきみに宿っているのは、ただの火の精霊ではなかった。おそらくきみが宿しているのは、〈太陽王〉である王祖ダナンが契約した、神にも等しき太古の精霊——〈炎の大精霊〉。太陽信仰の神話にも登場する精霊たちの王、〈四大精霊〉の一角を担う大精霊です」
つまりは、ハルミカはまさにエーディーン王家の始祖たる〈太陽王〉の生まれ変わりも同然なのだ。精霊との関わりが深い呪術師であるアランロドが、イルダナに「ハルミカがそうである」と匂わせた。おそらく、間違いないだろう。アランロドの呪術師としての腕と見る目は確かだ。
実際、アイティナラント・ルグの正体にまつわる仮説には、エーディーン王家の血筋からしか顕現しないであろう〈炎の大精霊〉ではないかとする一説も、確かに存在した。
神話の一端には、王祖ダナンと契約する以前の〈炎の大精霊〉の怒りを買った島国が、丸ごと焦土と化したという言い伝えもある。
そのため〈炎の大精霊〉は太陽信仰においても、破壊を司る精霊王と恐れられていた──並びに、最も太陽に近しい精霊としても崇め奉られており、〈炎の大精霊〉こそがアイティナラント・ルグであるという一説は現代にも根強く残っているのだ。
そんな破壊の神にも近い存在を宿しているハルミカが、今はまだ完全に覚醒してはいないようだが、強大な力を秘めている可能性は限りなく高い。そのうえハルミカの炎の翼が、全人類の禁忌である〈飛行能力〉を具えていることも確かだ。
大陸一の軍事国家アウレア帝国との戦争を望むカロス王が、ハルミカに執着する理由も頷ける。
「なるほど、そういうことか……! それなら、カロスが十年近くもハルミカ殿下を心臓城に監禁していたことや、ナーザ殿下がハルミカ殿下を連れ出した後も、ずっと手元に戻そうとしていたわけにも更に納得がいく」
「……」
「それにしても、カロスめ。ハルミカ殿下を兵器と見なし呼んでいたとは。胸糞悪い限りだ」とカシュガルがあからさまにカロス王に対する嫌悪感で顔を歪めている横で、ハルミカはますます黙り込んで顔を蒼ざめさせていた。
「僕の責だ。僕の所為で、ナーザは……!」
無理もないだろう。だが、それは決してハルミカのせいではない。そう声をかけてやらなければ、とイルダナは思って口を開きかけるが、それは遮られ、同じくハルミカを心配したディンデルがハルミカの跨る馬へと己の馬を寄せる。
「やだ、ハルミカちゃん顔真っ青よ? 大丈夫? あたしが治癒の魔法を使って……あら?」
ディンデルがハルミカの白い目元に触れると、目を丸くして声を上げた。
「ハルミカちゃん、あなたとんでもなく強力な呪いを目に掛けられているのね。しかも、重ね掛けかしら、これ……こんな凄まじい呪い、なかなか見ないわよ」
長命かつ、魔法といった異能に詳しい魔女族であるディンデルは、呪術の造詣も深いのだろう。それをすぐに悟ったのであろうハルミカが、食い気味にディンデルへと問いかける。
「このまじない……呪いを、今すぐ解けぬか? さすれば、僕も少しはナーザを救い出す役に立つやもしれぬ……!」
「うーん、そうねぇ……この呪いを解くには、たぶん。呪いをかけた呪術師をどうにかするくらいしか方法はなさそうね、あたしが見る限り。それがダメなら、呪いを受けたハルミカちゃん自身が魂の底から『何かを見たい』っていう、呪いも吹っ飛ばすくらいの激情に近い思念を抱くことができれば、この強力な呪いが解ける可能性も無きにしも非ずだけど……それは限りなく、低い可能性よ?」
眉を下げて語るディンデルの見解に、ハルミカが絶句して、悔しそうに唇を嚙み締める。
イルダナはそんなハルミカの肩を力強く叩いて、相変わらず無機質ではあるが、いつもより張りのある声をかけた。
「その呪いは強力に重ね掛けされています。おそらく重ね掛けしたのは、〈奉還の魔王〉に命じられた弟子のアランロドです。だとすれば、都合がいい。三日後、クノク砦にて。力尽くでアランロドに呪いを解かせればいいのですから。何も問題ありませんよ」
血が滲むほどに唇を嚙み締めたままのハルミカは、やはり顔を蒼ざめさせたまま、口を開くことがなかった。
それから間もなくして、イルダナたちはリエン大樹海の傍にある小さな森——その中にひっそりと佇む「魔女酒場」へと到着した。




