第七話
祥介が感じる視線は三人。それを受けて、まだまだだなと心の中で評価を下す。
刺客は動きを相手に悟らせた時点で、任務の成否に大きく関わってくる。
逆にいえば、一葉の脅威はその程度と見られているのだろうか。
少し考えて、そんなわけがないと首を横に振った。
つまり、今視線をかじるのは昨日の忍者と同じ役割を担ったものだ。いや、むしろもっと露骨的なもの。
──狙いは僕の力量か。
面白いと、顎に指を添えた。
「一葉、下駄紐が切れてるよ」
「え、うそ?」
彼女の足を指さすと、確認するように屈む。一葉の頭があった場所に、背後の男がナイフを振り下ろした。
祥介はその手を取って、手を反対に折る。骨の折れる音が響きながら、男のうめき声が聞こえた。
ナイフを取り落とした彼は、痛がるように手を押さえたまま退散していく。
「切れてないけど?」
「ごめんごめん。僕の見間違いだったみたいだ」
後頭部をかくように笑うと、彼女は呆れたように息をついた。
「そんな目をしないでさ、ほらまた団子をおごってあげるから」
「いや、もう食べたくないけど……」
「僕が食べたいんだ」
屋台の団子屋に近づいて、二つと頼んだ。店主は愛想のいい笑いを浮かべてから、三色団子を手渡してくる。
「ほら、一葉」
手渡そうとしてわざと取り落としそうになる。一葉は慌ててそれを受け取るが、態勢をよろけさせてしまった。
団子屋の店主が竹串を握って一葉の首元を狙う。それを祥介は受け止めて、代わりに持っていた団子を店主の口に突っ込んだ。
喉の奥に団子を詰まらせた彼は、藻掻くようにして後ろの椅子に座る。大きく咳き込んでいた。
「渡すならちゃんと渡して」
「ごめんごめん」
「あれ? あなたの団子は?」
「もう食べちゃったよ」
たははと嘘くさい笑みの下に、殺気を察知していることを隠す。
感じていた最後の一人の視線は遠くの方へ消えていった。自分たちで対処できないと判断したのだろう。
──やっぱり、大捕物がいるか。
彼らは実力を試すためにぶつけた人間だ。無理なら深追いするなと言われていることが、最後の一人から伝わってくる。
「まぁ、一葉はゆっくりと食べてていいよ」
「……もう」
彼女は渋々と言った様子で続きを食べ始める。彼女の視線から隠すように立ち、団子屋の店主を見やった。
「どうしたんですか店主? 団子を自分で食べて喉をつまらせたんですか?」
ようやく口から団子を取り出した彼は、涙目になりながら顔を合わせてくる。
「この団子中々美味しいですね。“取り寄せ先とかあります”?」
「……ない」
「へぇ、つまり“あんたの独断で経営してるんですか”?」
「……っ」
会話の意図が分かったのか、言葉を詰まらせた。一瞬、武家屋敷が集まる区域に目線をやる。しかし、少ししてから首を横に振った。
「悪いが企業秘密だ」
「そうですか」
笑顔で別れを告げてから、まだ団子を食べている一葉の手を掴んだ。嫌がられるように振り払われると、所在がなくなった手を反対の着物の裾に入れる。
少なくとも、あの男は喋るくらいなら死を選ぶ。それくらいの覚悟がある刺客だということは分かった。つまり、飼い慣らしているやつが確実にいるということだ。
「一葉今日はもう戻ろうか」
「え、何もわかってないのに?」
「これ以上は長居すると遅くなって危険だよ」
「でも……」
どこか不満げな一葉。そんな彼女に笑顔を消して顔を近づけた。
「僕はいつでも君をお上に突き出すことができるんだよ?」
そのセリフの重さの意図を組んだのか、彼女はゴクリと喉を鳴らす。
ゆっくりと頭を縦に振る一葉の頭を撫で回した。すると嫌がるように腕を払われてから、脛を蹴られる。
祥介は笑顔を作って、痛みをごまかすことにした。
※※※※※※※※※※
宿屋に戻ると静江が着物の裾をめくって道路を箒で掃いていた。いつもは早朝一回で終わらせるのに、珍しいこともあるものだと祥介は思う。
「静江さん、何かあったのかい?」
一葉を脇で待たせて、尋ねる。
「何も。ただ、余計なゴミ掃除が増えただけ」
「へぇ〜……、そのゴミは?」
「分別しておいてたら、回収してったよ。ただ、汚れだけは落としていかないの、本当に迷惑で仕方ない」
ため息混じりについた彼女の言葉に、祥介は視線をそらした。一葉を誘導して、宿の中へと入る。
足を踏み入れる直前、彼女の冷ややかな視線が背中にぶつかる。
「宿がつぶれるようなことがあったら、弁償してもらうからね?」
「あはは、静江さんの宿をつぶすバカはいませんよ。少なくとも、今の政府には」
「……だといいけど」
彼女のため息の意図は、あまり深く考えないようにした。




