第二話
結論から言うと、地獄だった。岡引たちは悲鳴を上げる間もなく斬られていく。
祥介はそれを見て、ただ笑っている。予想通りすぎて介入する気はないとでもいうように。
赤い血が飛び、地面や床を汚した。忍者刀で急所を一撃で仕留めるのを見て、少女はかなりの手練であることがうかがえた。
あっさり男たちを殺した彼女は、最後に祥介のほうへと向かう。振り上げ、頭に向かって振り下ろした。
その攻撃を、刀の柄だけで受け止める。
自分の攻撃を止められたことが信じられないのか、彼女は息を飲んで後方に飛び退った。机に着地すると、積まれていた小銭が散らばる。
空気を割るように、金属音が辺りに広がった。
「あなた……何者?」
「そういう君は刀狩りかい?」
「違う!」
少女の瞳に敵意が宿る。どうやら、その呼び方は彼女にとっては琴線に触れるらしい。
なるほどと、笑みを崩さぬまま自身の顎を祥介は指で撫でる。
「見られたからには殺す」
「物騒だなぁ。僕は誰にも言わないよ」
「信じられない。その薄っぺらな笑顔もやめて」
「酷いなぁ。心からの笑顔だというのに」
会話を切るように彼女が飛び上がる。乗っていた机は反動で割れた。
かなりの鍛錬を積んでいることが一挙手一投足で分かる。しかし、それだけだ。
忍者刀を握る彼女の甲を狙って、再び柄裏を当てる。
「……っ!」
痛みで彼女の顔が歪む。しかし、祥介は容赦なく鞘で少女の脇腹を殴った。
「……カハッ!」
彼女の体は、床を転がる。椅子を一つ倒すことでようやく止まった。
死体から流れた血が少女の服に付着して汚す。
こちらを見上げる瞳は、細かく揺れていた。
型はある。独学で頑張ってきたという癖もある。しかし、彼女の刃はには通用しない。
それは少女も分かっていることだろうだからこそ最初の一手は不意討ちを是としている。
ゆっくりと近づきながら、倒れる少女に祥介は笑顔を向ける。
「おやすみ」
それだけ言うと、彼女の額を強く鞘で打った。
※※※※※※※※※※
祥介は気絶した少女を背負いながら、町を歩く。彼女には脱いだ上着をかけておいた。
町人がたまにこちらをちらりと見るが、気にすることもなく視線を戻す。仲の良い兄妹くらいにしか見えないだろう。町人の他人への想像などその程度だ。
こそこそするから怪しまれるのだ。祥介は何も悪いことをしていないので、堂々と町中を歩く。
辿り着いたのはいつも利用している宿屋。町の端にあり、がらんとしているのが祥介の好みである。
引き戸を開けて、中に入った。
「おかえ──ちょっと、その子どうしたの!?」
受付に座っていた黒髪で小柄な女の子が慌てて身を乗り出す。
静江堂を一人で切り盛りしている、此花静江である。こう見えても成人している女性であり、子ども扱いされると飛び蹴りを浴びせられる。
「拾った」
「拾ったってええ!? いつかやると思っていたけど、ついに誘拐を!?」
「ひどいなぁ静江ちゃん。僕がそんな人間に見えるかい?」
尋ねると彼女は悩む間もなく首を縦に振った。
あららと、心の中で嘆息する。
「まぁ、通報してもいいけどそれをしたら困るのは静江ちゃんだよね?」
「……うっ。取り敢えず、開いてる部屋を貸しますが、何か変なことしてたら追い出すので」
「さすが静江ちゃん、話がわかる」
彼女は受付に戻って、部屋の鍵を投げ渡してくる。それを受け取って、満面の笑顔を向けた。
「その気色悪い笑顔はやめてって言ってるでしょ?」
「うわぁお。僕の信用は静江ちゃんの中ではなさそうだね」
「……本当になかったら今ごろ追い出してるよ」
軽口を言いながら、店へと上がった。渡された鍵の部屋番号を確認して、そこに向かう。
用意された部屋は、とても綺麗に整えられた。布団や置いてあるタオルは、静江が毎日洗濯しているらしい。祥介以外の人間はここに止まっていないのにマメな人間だ。
少女を降ろすと、布団を敷く。そこに彼女を寝かせてから一息ついた。赤く腫れた額を見て、苦笑しながらそこを撫でた。
気絶させるためとはいえ少々強く殴りすぎた。女の子の顔に傷をつける可能性があったなと反省する。しかし、腹部を殴ると気絶させられない恐れがあったのだ。
確かこの辺にと、小棚を漁って軟膏を取り出す。簡易的な処置を終えて立ち上がる。
さてと、祥介は腰を伸ばすようにして体を捻った。あとは彼女がどう選ぶかだ。このままここから逃げるのなら、見込みはなかったということで放っておこう。しかし、自分の命を狙うというのなら、見込み通りだ。
どっちに転んでも、祥介の考え方は変わらない。取り敢えず、彼女を仲間に迎えられるか迎えられないかの違いだけだ。
「楽しみにしているよ」
そういうと、彼は出ていって自分の泊まっている部屋へと向かう。




