第一話
「見てみて寄って、知ってて! 町中を歩くなら、注意が必要だよ!」
少年の声が響き渡る。木の立て看板の前で大きな声を張り上げていた。
「また刀狩りが現れたらしいな」
「今日で何件目?」
「人がまた殺されたらしい……」
様々な会話が混じる中、桜島祥介は自身の腰にさしてる刀の柄に手を置いた。
立て看板に描かれているのは、墨で描いた女の似顔絵。要項には、有名な剣豪から刀を強奪すると書かれていた。賞金もついており、一年は暮らしていける額となっている。
「へへ、俺が捕まえてやろうかな」
「やめとけやめとけ。どうせ、返り討ちにあうのがオチだ」
無駄話をする町人をかき分けて、祥介は声をかけてる少年の前に立つ。
見上げる彼に、視線を合わせた。
「その依頼、僕が受けようか?」
その言葉を聞き、少年は満面の笑顔を浮かべる。
※※※※※※※※※※
城下町──鹿路は、将軍の庇護のもとに商人や侍が集まってできた町だ。各地で町奉行所が立ち、秩序を守っている。
少なくとも表向きはそう言われている。
南町奉行所の裏手。祥介は少年にそこへ案内された。彼が扉をノックすると、無精髭を生やした岡引が出てきた。咥えた煙草からは煙が立ち上り、やる気なくボサボサの頭を掻いている。
「んだっ?」
出てきた男は煙草を取り、火のついたまま地面に放る。そのまま履いてる足袋の裏で消した。
「こちら、新しい依頼請負人です」
少年が祥介を紹介する。言葉を受け取った岡引は、ジロジロと観察するようにこちらを上へ下へと見回した。
「軟弱そうなやつだな? 本当に大丈夫か?」
「ははは、よく言われます。でも、そこそこ腕が立ちますよ?」
「……ちっ、まあいい。今や請ける人間が少なくなったからな、猫の手でも借りてぇくらいだ。入れ」
そう言うと、彼は顎で室内を差す。
「あ、あの……紹介料もらえますか?」
割り込むように言った少年の言葉に、男は舌打ちする。
「あ? それはこいつがちゃんと働いてからだ。なまいってんじゃねぇ」
「そ、そんな……」
肩を落とす少年に、見向きもせずに中に戻っていく。
残された彼は、どこか悲しげな目で祥介のことを見あげていた。
仕方ないなと肩をすくめてから、小銭袋を出して少年の手の中に乗せる。
「多くはないけど、これで我慢してね」
その言葉に彼は輝かせて、手を振りながら走っていく。
さてと、切り替えてドアノブに手をかける。穏やかな表情を作ったまま、祥介は中に入った。
真っ先に祥介を襲いかかったのは、激しいタバコの臭い。視界を埋め尽くすほどの濃煙は、身体に悪そうどころではない。
思わず眉毛を動いてしまい、笑顔が崩れるところだった。
続いて目に入るのは数人の人間。
机の上に置かれているのは銭と西洋から伝わったというトランプ。短刀が無造作に置かれており、赤い液体がついている。
床に転がるのは酒瓶。とてもじゃないがまともな公務をしているようには見えない。
「ほぉ、新人かえ?」
赤ら顔の男が、しゃっくり混じりに言い放った。目はすわっていて、まともじゃないのは一目で分かる。
「違う、刀狩り関連の依頼を請けた奴だ」
無精髭の男の言葉を聞いて、部屋中の人間が湧き立つ。大半はまだそんな命知らずの奴が居たかと、嘲笑が混じっていたが。
なるほどと、祥介は笑顔を崩さないまま顎に手を当てる。
一部の公的機関は腐敗していると聞いた。しかし、これは中々どうして酷い。少なくともこの中では秩序というものが存在していないようだ。
そして、とちらりと目を上に向ける。
天井に一人の少女が張り付いている。銀髪ショートヘアの小柄な女の子で、青い瞳が睨みを利かせるように周囲の気配を探っていた。
祥介は彼女に気づかれる前に、気づかないふりをする。
「依頼を請ける前に一つ尋ねたいのですが、良いですか?」
「何だ? 前金はなしだぞ?」
「いえいえ、“刀狩りの女”の特徴を教えてほしいんですよ」
そんなことかと、男が椅子に腰掛けた。深くもたれかかり、足を組む。
「銀色の短い髪に青い目。こいつは市民を襲っては、業物を盗んでいく。正直な話、こっちも仕事が増えて困ってるんだ」
彼の話を聞いて、もう一度上を見上げる。
「小柄ってことはないかな?」
「んあ? そこまではわかってねぇよ。ただ、闇に紛れるのがうまいって話だな」
「闇に紛れる……ね」
祥介は納得して、笑顔を向けてドアの前まで下がった。
「それで請けるのか請けないのか? ハッキリしろ」
少し苛立つ彼の言葉には耳を傾けない。ここが今から大惨事になることを予想して、ただ心の中で笑みを作るだけであった。




