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第十一話

「さすがにさ、こちらとしては目を瞑っていられねぇわけだ」


 赫灼組の屯所内。剣道場で真剣を持った宋秀が祥介を見やる。


「隊士が二人も死んでんだ。それで何もありませんでしたじゃあ、面目が立たねぇだろ?」

「……で、何で僕はあなたと刀を突き合わせてるんすか?」

「俺がお前の相手をする。これ以上ない罰だろ?」


 それもそうだと納得する。正直、宋秀の強さは重吉郎にも匹敵する。彼と剣を交えて生き延びれる人間など、まずいないだろう。


 覚悟を決めて、刃先を宋秀に向けた。瞬間、何もかも見られているような感覚に陥る。

 大きく息を吸って吐く。祥介は笑みを浮かべた。


「いい笑顔じゃねぇか」


 久方ぶりに自身の笑顔を褒められた気がする。照れを隠すように肩をすくめた。


「しかし、ようしゃはしねぇ。安心しろ、死に様は誰にも見られねぇからよ」

「死ぬ前提で話すのはやめてくれる?」

「ほざけガキが」


 宋秀が先に動く。振り下ろしだ。

 速さと重さを兼ね備えたそれを、刀の剣身で受け止めた。振動が刃から腕に伝わり、肩を突き抜ける。あまりの重さに顔をゆがめた。


「本気で殺す気かい?」

「本気じゃねぇと刑罰にならねぇだろ」


 刀が押し込まれる。宋秀の握る刀の刃が、祥介の頬にあたった。浅く切れて、そのまま血が流れる。


 腰を深く落として、力を地面へと逃がす。ゆっくりと宋秀の刃の重心を逸らした。

 体を捻って手首を返す。宋秀の刀は地面に深く刺さる。


 おっかないと思う。まともに打ち合えば、刀が折れるどころの話ではない。

 

 距離を取るように飛び退る。宋秀は刀をゆっくりと抜き、こちらに向き直った。


「どうした、打ってこいよ?」

「挑発に乗りたいのは山々なんだけどねぇ」


 こちらから動くとそれだけ不利だ。宋秀の刀の技量でカウンターを食らえば、胴体が真っ二つに割れる。

 比喩ではなく本気で。


「来ないならこっちから行くぞ!」


 重い足音が鳴る。

 剣術の基本となるすり足を完全に捨てている動き。それでも彼の強さを成り立たせているのは、真に豪傑と言わざる終えない。


 振り下ろされる刀に絡めるように、祥介は刃先を伸ばす。宋秀の目を狙うように。

 重心を前へと移す。打ち合う直前で行うと相手から見たら剣筋が伸びたように見えるはずだ。

 しかし、宋秀は口を限界まで吊り上げた。


 祥介の刀は、宋秀の頬を浅く切ることさえできなかった。一方、宋秀の刀は祥介の肩に重くのしかかる。

 骨が折れるかと思うほどの重圧に、身体が熱を持つ。身体中から歪な音が聞こえた。


 斬られたそう思った時には、祥介は床に寝転がっている。


「あーもーくそ、峰打ちかよ」 

「ハッハッハ、まだまだガキだな」

「これ絶対どっかヒビ入ってるよ」


 座り、あぐらをかき、大きくため息をつく。

 宋秀は刀をしまいながらこちらを見下ろしていた。


「んで、僕の刑はこれだけでいいの? 隊士二人を巻き込んだのに?」

「あれは不慮の事故だ。それに、“あいつらもそれに納得して乗っかった”。言うなれば、あいつらの自業自得だ」

「ま、あんまりいい気はしないよ。さすがにね」


 拗ねるように視線をそらすと、宋秀のデカい手が頭に置かれる。


「そこまで人間を捨てたわけじゃねぇか」

「元より捨てたつもりはないよ僕は」

「ふん、生意気な小僧が……まぁ良いだろう。問題は嬢ちゃんの方だな」


 隣りにいない一葉のことを思い出して、頬杖をついた。彼女は今別場所で取り調べを受けている。刀狩として、こらから余罪がボロボロと出てくるだろう。

 いくら腐った武家とはいえ、堂々と殺したのはまずかった。影武者だとしても、世間は納得しない。


「ところで、一葉の取り調べしている人間は誰だい?」

「あん? お前に関係あるか?」

「いや、単なる興味。秘密なら別にいい」

「ま、あとで公表されるし隠すことじゃねぇか。柿原瑞池っつぅ俺の部下だよ」


 その名前に祥介は聞いたことがない。宋秀周りの人間関係はそれなりに詳しいと自負していた。

 だからこそ少し引っかかる。


「最近入った人間?」

「あー、一年くらい前から入った若造だよ」

「そんなに……?」


 そんなに長い間関わっていたのに、自分は柿原の存在を知らなかった。


「どんなやつ?」

「なんだ、やたらと興味津々じゃねえか。でもさすがにこれ以上はプライバシー違反だ」

「は、はは。宋秀のじっちゃんの口からそんな言葉が飛ぶなんてね」

「……うっせぇ、これでも公的機関の人間だ」


 軽口の中に隠したはずの違和感は、大きくなる。言いようのない不安感が募った。

 そんな時、剣道場のドアが開いた。若い隊士が顔を覗かせる。


「宋秀さんこちらにいたんですね。木下一葉さんの事情聴取、正式に始めますね」

「あん? 柿原がもう始めただろ?」

「……いえ、担当は僕ですが」


 その言葉を聞いた瞬間、祥介は飛び出していた。


「おいこら! 追うぞ」

「は、はい!」


 後方から追いかけてくる宋秀を気にかける間もなく走る。

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