第十二話 終話
一葉は無機質な部屋に拘留されている。椅子は固定されてそこに縛られるように座らせられている。
小さく力を入れるが、逃げられそうにない。
「こんにちは」
ドアが開かれると同時に、若い隊士が入ってきた。彼は机の向かいに座る。
「木下一葉さんですね。……えっと、重吉郎さんの実娘……へぇ、すごい人の娘さんなんですね」
彼の質問には答えない。代わりに睨みを返した。
「そんな怖い顔しないでくださいよ。こうなってるのはすべて自分の責任でしょう? あ、飴舐めます?」
「……いらない」
「それはよかった。受け取られたら贈賄罪で僕が訴えられるところなので」
何が言いたいのだろうか。先ほどから男の本質が読めない。
「まず質問一つ目。華原小呂智が仕掛けた影武者爆弾。あれの性能はどう思いました?」
「何を……言ってるの?」
「いやいや、きっちりと体験した人の話を聞かないと、後々の開発でブラッシュアップできないでしょ?」
眉根を寄せていると、彼は大きく笑う。
「死ぬ人の意見も取り入れる。それこそが僕の商売人としての信条なんでね」
「商売人……?」
「おっと、口が滑った。まぁいいや、赫灼組とももう関わる気ないし」
彼は立ち上がり、ゆっくりと刀を抜いた。
「そろそろ来る頃なんでね、さっさと行動に移させてもらうよ」
刃先を彼女に向けて、笑みを浮かべる。同時にドアが蹴破られる。
開いたその先では、祥介が立っていた。
「やっぱりか……華原小呂智」
「想定より数秒遅いよ、祥介君」
二人の男が、一葉を挟んで対峙する。
※※※※※※※※※※
「おっと動くなよ祥介君。動いたら彼女を殺すから」
笑顔で言う柿原──華原小呂智に、祥介は顔をうつむかせる。
肩を震わせ、小さく笑う。
「追い詰められて頭おかしくなったのかな? それとも、時間稼ぎでもして宋秀に解決させようとする腹かな?」
華原は愉悦感に浸るように喋る。ベラベラとよく回る口で。
「無駄だよ。無駄無駄。宋秀は助けてくれないよ。彼は所詮役所の人間だ」
「あぁ、そうだろうな。お前を裁くのは俺みたいな失う者のない浪人だけだ」
「ふふ、でも君は手が出せないよね? 手を出せばどうなるか分かってるからね」
華原の持つ刃の先は、一葉の首元をつく。皮が切れ、血が流れ落ちた。
彼女の口からは小さく声が漏れた。
「なぁ華原、一つ聞きたい。重吉郎の刀はどうしたんだ?」
「あぁ、あの老いぼれ爺のか。適切な場所に売ったよ、良い値になった」
「そうかそうか……」
で、それがどうしたとでも言いたげに、華原は眉根を寄せていた。
祥介は笑みを崩さない。
「行方が知れないなら、お前には用はないな」
「僕を殺す気かい? 赫灼組が見える前で?」
「関係ないね」
「……こいつがどうなっても知らないぞ?」
「……関係ないね」
その言葉を聞いた瞬間、華原が初めて動揺するようの喉を鳴らした。
「お前は一つ勘違いしているが、別に僕にとって一葉の命はどうでもいい。死ぬときは死ぬそれが人間だろ?」
「それが君の言葉か? 最低だな」
「は、大物になりきれない小物に言われたくない」
その言葉を聞いた瞬間、華原の額が切れる音が聞こえた。腕を引いて、刀が振り下ろされる。
「正当防衛成立だな」
一瞬だった。華原の腕が斬り落とされていた。
悲鳴を上げて血が溢れる腕を、彼は抑える。蹲り、嗚咽を漏らす。
祥介はそんな彼を見もせずに、刀を納めた。
「宋秀! 公務執行妨害だ! そいつを捕まえろ!」
「それはできねぇな柿原……今の騒動は誰も見てねぇ」
後ろから聞こえる声に、祥介は反応しなかった。代わりに一葉の顔を見る。彼女の瞳は揺れ続けているだけである。
※※※※※※※※※※
静江の宿屋は、今日も祥介以外の客は来ない。体を伸ばして宿屋前で朝日を浴びる。
「暇なの?」
そんな彼の耳に、聞き覚えのある声が聞こえた。
声のしたほうを向くと、赫灼組の赤い着物をまとった一葉が立っていた。
どうやら正式に入隊することにしたらしい。
彼女曰く、これからは内側から探るとのことだ。果たしてそれを宋秀が許してくれるかは別問題だが。
祥介は彼女を見つめながらニヤニヤと笑う。
「……なによ?」
「いや、やっぱりちんちくりんだなって──あいた!」
背中を蹴られて、思わずのけぞった。腰の痛みに顔を歪ませながら地面に手をつく。
「ふん、そのまま地面に這いつくばってれば良い」
その冷たい声を浴びせて、彼女は立ち去っていく。
残された祥介はあぐらをかいて、薄っぺらい笑みを消した。
「頑張れよ」
その言葉は一葉には届かないだろう。




