表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/12

第十二話 終話

 一葉は無機質な部屋に拘留されている。椅子は固定されてそこに縛られるように座らせられている。

 小さく力を入れるが、逃げられそうにない。


「こんにちは」


 ドアが開かれると同時に、若い隊士が入ってきた。彼は机の向かいに座る。


「木下一葉さんですね。……えっと、重吉郎さんの実娘……へぇ、すごい人の娘さんなんですね」


 彼の質問には答えない。代わりに睨みを返した。


「そんな怖い顔しないでくださいよ。こうなってるのはすべて自分の責任でしょう? あ、飴舐めます?」

「……いらない」

「それはよかった。受け取られたら贈賄罪で僕が訴えられるところなので」


 何が言いたいのだろうか。先ほどから男の本質が読めない。


「まず質問一つ目。華原小呂智が仕掛けた影武者爆弾。あれの性能はどう思いました?」

「何を……言ってるの?」

「いやいや、きっちりと体験した人の話を聞かないと、後々の開発でブラッシュアップできないでしょ?」


眉根を寄せていると、彼は大きく笑う。


「死ぬ人の意見も取り入れる。それこそが僕の商売人としての信条なんでね」

「商売人……?」

「おっと、口が滑った。まぁいいや、赫灼組とももう関わる気ないし」


 彼は立ち上がり、ゆっくりと刀を抜いた。


「そろそろ来る頃なんでね、さっさと行動に移させてもらうよ」


 刃先を彼女に向けて、笑みを浮かべる。同時にドアが蹴破られる。

 開いたその先では、祥介が立っていた。


「やっぱりか……華原小呂智」

「想定より数秒遅いよ、祥介君」


 二人の男が、一葉を挟んで対峙する。



※※※※※※※※※※



「おっと動くなよ祥介君。動いたら彼女を殺すから」


 笑顔で言う柿原──華原小呂智に、祥介は顔をうつむかせる。

 肩を震わせ、小さく笑う。


「追い詰められて頭おかしくなったのかな? それとも、時間稼ぎでもして宋秀に解決させようとする腹かな?」


 華原は愉悦感に浸るように喋る。ベラベラとよく回る口で。


「無駄だよ。無駄無駄。宋秀は助けてくれないよ。彼は所詮役所の人間だ」

「あぁ、そうだろうな。お前を裁くのは俺みたいな失う者のない浪人だけだ」

「ふふ、でも君は手が出せないよね? 手を出せばどうなるか分かってるからね」


 華原の持つ刃の先は、一葉の首元をつく。皮が切れ、血が流れ落ちた。

 彼女の口からは小さく声が漏れた。


「なぁ華原、一つ聞きたい。重吉郎の刀はどうしたんだ?」

「あぁ、あの老いぼれ爺のか。適切な場所に売ったよ、良い値になった」

「そうかそうか……」


 で、それがどうしたとでも言いたげに、華原は眉根を寄せていた。

 祥介は笑みを崩さない。


「行方が知れないなら、お前には用はないな」

「僕を殺す気かい? 赫灼組が見える前で?」

「関係ないね」

「……こいつがどうなっても知らないぞ?」

「……関係ないね」


 その言葉を聞いた瞬間、華原が初めて動揺するようの喉を鳴らした。


「お前は一つ勘違いしているが、別に僕にとって一葉の命はどうでもいい。死ぬときは死ぬそれが人間だろ?」

「それが君の言葉か? 最低だな」

「は、大物になりきれない小物に言われたくない」


 その言葉を聞いた瞬間、華原の額が切れる音が聞こえた。腕を引いて、刀が振り下ろされる。


「正当防衛成立だな」


 一瞬だった。華原の腕が斬り落とされていた。

 悲鳴を上げて血が溢れる腕を、彼は抑える。蹲り、嗚咽を漏らす。

 祥介はそんな彼を見もせずに、刀を納めた。


「宋秀! 公務執行妨害だ! そいつを捕まえろ!」

「それはできねぇな柿原……今の騒動は誰も見てねぇ」


 後ろから聞こえる声に、祥介は反応しなかった。代わりに一葉の顔を見る。彼女の瞳は揺れ続けているだけである。



※※※※※※※※※※



 静江の宿屋は、今日も祥介以外の客は来ない。体を伸ばして宿屋前で朝日を浴びる。


「暇なの?」


 そんな彼の耳に、聞き覚えのある声が聞こえた。

 声のしたほうを向くと、赫灼組の赤い着物をまとった一葉が立っていた。

 どうやら正式に入隊することにしたらしい。


 彼女曰く、これからは内側から探るとのことだ。果たしてそれを宋秀が許してくれるかは別問題だが。


 祥介は彼女を見つめながらニヤニヤと笑う。


「……なによ?」

「いや、やっぱりちんちくりんだなって──あいた!」


 背中を蹴られて、思わずのけぞった。腰の痛みに顔を歪ませながら地面に手をつく。


「ふん、そのまま地面に這いつくばってれば良い」


 その冷たい声を浴びせて、彼女は立ち去っていく。

 残された祥介はあぐらをかいて、薄っぺらい笑みを消した。


「頑張れよ」


 その言葉は一葉には届かないだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ