第九十九話 野盗の次は
野盗が持っていた灯りは、ハルカとの交戦にて地面に落ちていた。その僅かな灯りも月がハルカの戦い映し出していた。
「あのやろう……!」
ハルカをみてラグドールは喜びにうち震えていた。
圧倒的なまでの力を見て、改めてハルカと戦いたいと心の底から思った。
もちろんそんな思いは、ハルカにとって迷惑でしかないのだが……。
「ラグドール、今なら向こう側に行けそうだ。野盗共はハル君に夢中だからな」
オリバーが先に吊り橋を渡り始めたところで、後ろからマントを引っ張られた。
「まて! オレから渡る!」
「ちょっ! 引っ張るな危ない!」
揺れる吊り橋から落ちそうになるオリバーは、慌てて両脇にある落下防止の縄を掴んだ。
早く渡って戦いに混ざりたいラグドールはそんなオリバーを抜かし揺れる吊り橋を器用に走っていった。
「まったく……」
オリバーも最初は久しぶりに戦いたいと思っていたのだが、ヨハンやハルカの戦いを見ていたら満足してしまっていた。
そんなオリバーはふと「歳をとったせいか?」と小さな危機感を感じた。
「いやいや、相手が弱すぎてやる気が失くなったのだ。そうだ、まちがいない……」
オリバーはまだ若いまだ若いと言い聞かせるのだった……。
――――ッド!
「うぐぅっ!」
――――ゴッ!
「ぐぎゃっ!」
次々にハルカに倒されていく野盗達。
「ななっ! なんなんだこのガキはっ!? に、逃げろ!」
しかし逃げる決断に至った時には、立っている野盗はすでに三人になっていた。
逃げ出した野盗のうちの一人はハルカのスピードに敵うはずもなく、アッサリと追い付かれて背骨が折れるほどの一撃を食らうことになった。
「あと二人っ!」
二人が逃げた方へ走ろうとしたがハルカは足を止めた。
なぜならラグドールがその二人の前に立ちふさがっていたからだ。
「よおっ。どこへ行くんだ?」
「ど、どけ! 獣がっ!」
二人の野盗は叫びながらラグドールに斬りかかったが、相手が悪い。
両手に持っている二つの短剣は、短剣と呼ぶには長いが、剣と呼ぶには短い、これはラグドール特注の短剣だ。
その短剣を握る手に力が入る。
ギャン! ガキン!
二人の剣を弾き、のけ反った身体に無数の斬擊を入れた。
ズババババババッ!
ほんの一瞬のうちに、それぞれの身体に深い傷を刻み込んだ。
二人の傷口からブシャッ! と血が吹き出て地面に倒れた。
ラグドールは短剣に付いた血のりを飛ばし、こちらに視線を向けた。
「やっぱオメーはすごい。カッコいいぜ」
なんだか正面きってカッコいいなんて言われると照れてしまう。かわいいとかはよく言われるけど、カッコいいって言われたことないかも……。
「たまんねぇな…………オレと今からやろうぜ!」
なんかラグドールが興奮している様に見える。
……なんかマジで構えてない?
ラグドールは短剣を前に突き出し僕に向けた。
「サァ! 本気でかかってこい!」
「何がかかってこいだバカ者」
ラグドールの頭に剣の鞘が直撃した。
ラグドールは涙目になりながら頭を押さえうずくまった。
「いってえっ! オリバー! テメエ何しやがる!」
「何しやがるじゃない。ハル君を困らすな。ほれ、死んでない野盗を縛り上げるぞ」
「チッ……まぁ、ドベイルへ戻ってからのお楽しみにしておくか……」
僕は楽しみでもなんでもないんですけど……。
唸っていたり気絶している野盗達を縛り上げておいて、王都へ戻って兵を派遣して回収させるという。
それまで生きていれば手当てをしてもらえるのだが……しかし、怪我が治っても、鉱山での永久労働が待っているのだった。
馬車へ戻ったラグドールはヨハンに僕の戦いを説明していた。
ヨハンは刀を触りながら嬉しそうに僕に微笑みかけた。そして出た言葉が「稽古が楽しみだなぁ」と……。
ううぅ……僕の意思に関係なく、試合の予定がどんどん入っていく。僕に拒否権はないのか……。
馬車では僕の浮遊魔法が話題に上がっていた。
「あのですね……あまり浮遊魔法を広めない方がいいと思うんです」
「ハル君が自分で使って見せておいてそれを言うのか」
「うっ……」
それはごもっともなんだけど、あのときは野盗を目の前にして逃がしたくなかったし……。
「ハル君の懸念ももっともだが、その心配はない」
「なんでですか?」
「あの禁忌でデモンが浮いたのを見たものは大勢いた。当然自分もやってみようと思う者もいたことだろう。しかし、簡単にできるものではない。
アルステムでも十四年前の禁忌以降、王宮魔法の連中が必死にやっているさ。だが、結果は残念なものだ。
中には一歩、浮くことはできる者はいたのだ。だが歩くとなると話は別だ。立っている場所の足場を維持しつつ、踏み込む先の足場を発動しなければならない」
「オリバーさん詳しいですね……」
「そりゃ……な、あんな魔法をほいほい使える者がいるようなら、国の防衛方法は大きく変わることになる。もちろん万が一ということもあるため兵士達には対象するための訓練などは欠かさないがな」
そうなのだ、各国の国王暗殺など容易いだろう。結界みたいなモノが城に作れればいいのだが、そんな都合のいい魔法も装置もない。
「二つの魔法を同時に練ることは容易いものではない。デモンのような世紀の天才か、それとも神の力を持つ者でない限り無理だろう」
意味ありげな笑みを見せるオリバー。はいはい……僕の事ですね……。
確かに僕も色々な魔法を試した。稽古の合間にやっていたとはいえ実際走ることが出来るようになるまで五年はかかった。
二つの魔法を同時に練れること、そして瞬時に魔法を練り上げられるだけの技量がなければ歩くことは無理なのだ。
「ドベイルへ行ったあと、落ち着いたらまた王都へ来てくれ。話したいことも沢山あるからな、極上の対応をさせてもらうよ」
極上!? VIP待遇というやつですね!
「いいですねえ! 僕もアルステムの事とかクロエ姫の事とか聞きたいことが沢山あります!」
その後の王都への帰路は平和なものだった。
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