第九十八話 ハルカの実力
ヨハンはすでにやる気はなかった。別に野盗が逃げようがどうも思わないらしい。
まぁ……ヨハンがいなくても、僕、オリバー、ラグドール、リアムの四人で、野盗に逃げる暇を与えずに、一気に距離を詰めて一人辺り、三人~四人相手にすれば野盗を殲滅させられる。
――――はずだったのに……ラグドールのわけのわからない作戦でこっちが動き出す前に逃げ出してしまった。
そして今、ラグドールは野盗を追いかけていて、僕とオリバーはラグドールを追いかけている形だ。
乗馬をしたことがない僕は、オリバーの馬に乗せてもらっているのだが……オリバーの後ろではなく、前に座らされているのだ……まるで幼い息子と乗馬をする父親の図、みたいではないか……。
「ハル君。君は前世で『ありえないような力を出せるのは神様から分けてもらった力のおかげだ』と言っていたが、それは今のハル君にもあるのかね?」
「はい」
「そうか、それなら安心だな」
「なにか不安だったんですか?」
僕の言葉に苦笑しながらその理由を述べた。
「そりゃ、少し強いってだけのこんな子供を、野盗の群れに連れていくのは忍びないだろ?」
「こ、子供……見た目は子供ですけど、人生経験は二十五年は過ぎてますよ?」
「そうだな。はっはっは」
笑いながら僕の頭をグリグリと撫で回し、髪の毛をボサボサにされてしまった。むう……子供扱いされている気がする!
「ふむ、野盗達は緊急時のための避難通路を決めているのかもしれんな」
「え? どういうことですか?」
「この暗闇の中だ。バラバラに逃げたほうが都合いいだろ? 地の利は向こうにあるのだから」
「そう……ですね」
そう言われればその通りだ。野盗達の松明は同じ方向へ向かっているようだ。ラグドールも僕達も、それを追っている。
わざわざ親切に松明を持ったままということは、よほど逃げきれる自信があるのだろう。
「もし、逃げ道を確保しているのなら危険かもしれんな」
「罠か、それとも確実に逃げられるような手を用意しているということですね?」
「だろうな……」
「オリバーさん林を抜けます!」
遠くの方に木々が開け、広い地面を月明かりが照らしていた。
そこには野盗達の馬が乗り捨てられている。その中にはラグドールの姿があった。
「オウ、来たか。見ての通りだ」
「なるほど……」
崖と崖に吊り橋がかけられており、向こうの崖まではおよそ四十メートル程だろうか、野盗達は馬を乗り走って渡っていったようだ。
足元の木はそれなりにしっかりした作りになっていてなんとか走って渡れそうだ。しかし橋の向こうでは吊り橋をかけているロープに剣を当てているのが見える。
「チッ! オレ達が渡ろうとすれば落とす気だろうな」
「……まんまと逃げられたか……」
吊り橋の向こうでは野盗達が勝ち誇ったように騒いでいた。
「ばーかばーか! 三剣なんてこわくねーべ! くやしかったらこっちに来るべな!」
「あいつらにそんな度胸あるわけないっぺよ!」
「仲間の分まで他の馬車を襲ってやるからな! ざまーみろ!」
渡れないことをいいことに散々な言いようだ。
「クッソ!」
ラグドールは悔しそうに歯ぎしりをして馬の手綱を握りしめていた。
まだ野盗達は十人くらいいる。目の前にいて捕まえるチャンスなのだから捕まえておきたい。このままでは他の被害者が出るだろう。
――――仕方ない。
「オリバーさん、ラグドールさん。今から見ることを見なかったことにしてもらえませんか?」
「アン?」
「ほう? 君のことだ。またとんでもないことをしてくれるのか?」
「なんか引っかかる言い方ですね……。僕以外にも使っていた人がいましたけど、ようするに橋を渡らなければいいんですよ」
「なに? ハル君どういうことだ?」
そう言って僕はオリバーの馬から飛び降りて走り出した。
「オ、オイ! 小僧! 落とされるぞ!」
しかし僕は吊り橋を渡ることはなかった。
「んなっ!?」
「なんだべ!?」
野盗達は眼が飛び出るほど僕を凝視し、驚きの声をあげた。
白い魔力をおびたまま床のない宙を駆けていたからだ。
「あれはデモンの浮遊の魔法か!」
「あの小僧……っ!」
向こう側たどり着くと同時に、呆気とられていた野盗の一人を、生死がわからなくなるほどの威力で蹴り飛ばした。
――――ドカッ!!
「ぷぎゃあああっ!」
蹴られた野盗は奥の木に激突して項垂れるように倒れこんだ。
我に返った野盗達は、ハルカがどのようにして渡ったかは捨てておき、仲間を蹴り殺したと思われるハルカに向かって襲いかかった。
「やりやがったな!」
「こっ! 殺すべ!」
木刀を片手にヨハン刀術の中段の構えをする。
相手が刀なのでこちらが木刀なので、斬りかかってきた刀を流そうとすると木に食い込むおそれがあるため、受けに回らないでスピード重視で先手を打つ。
野盗が剣を振り下ろす動作を見極め、その持ち手に突きをする。凄まじい威力の突きで剣が吹き飛び、野盗の指は使い物にならなくなっていた。
白い魔力が身体を光らせる。四方から襲いかかってくる野盗に向けた魔法は、ハルカを中心とした、ただの突風を起こすだけの魔法だった。
しかし、体勢を崩すのが目的の魔法だ。
突然の突風に襲われれば誰だって一瞬怯んでしまうことだろう。ハルカにとってそれで十分だった。
ハルカは人の動きと思えないほどのスピードで野盗達を気絶させていく。
しかし、気絶といってもトンっと叩いて気絶させるようなやさしいものではない。
腹部や頭部にハルカの重い一撃を打ち込まれるのだ。中には死んでしまう者もいるだろう。
ハルカは圧倒的なスピードと技量で野盗を蹂躙していった。
□
ハルカとなったあとの実力を明らかにしたかった(^^;
そのため異世界のテンプレである野盗をダシにしました。
ヨハンにも出番をあげたかったんです!
完結までもうすぐ!
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