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第九十六話 そんな人いました

 

 王都から出てくる馬車と言うのはどこの街や村から売り物を運んできて、王都に卸したり売ったりして、現金を持っていることが多い。


 逆に王都へ向かうものは、現金ではなく生活用品やお酒、果物などの食料品が多い。


 どちらが狙われやすいということはなく、半々なのだ。

 問題なのは他の馬車が向かってきているかどうかだ。


 こちらはたった一台の馬車。そのため護衛が居たとしても二人~三人程度だろうと予測できる。


 しかし、この野盗はとんだ馬車を襲ったものだ。僕は野盗のかわいそうな未来しか想像出来なかった。



 馬車の上からたれさがっている天幕から、ちらりと外を覗くと、馬に乗って松明を持つ野盗と剣や槍を持つ野盗が僕らの馬車を取り囲んだ。


「おやおやおやあ! この御者、鎧着てっぞ!?」

「派手な鎧だっぺ! 高く売れるっぺ!」


 どこの田舎っぺだよっ! いかん、非常事態にツッコンでしまった。いや、非常事態なのは野盗か……。


「おい、お前どこかの騎士か? おら、そんな鎧はじめてみただ」


「…………野盗を逃がすつもりはありませんが、一応警告しておいてあげましょうか。逃げるなら今ですよ? 後には猛獣が四匹乗っていますから」


 ぷふー! オリバー、ヨハン、ラグドールは猛獣扱いされてるよ! たしかにラグドールは獣人だから猛獣っていわ――――あれ?


 四って言った?


「リアムさん! 僕まで猛獣扱いするなんてひどいです!」


 僕は天幕をガバッとあけ苦情をぶつけた。


「おい、猛獣どころか可愛らしい子供が乗ってっぞ?」

「きっと騎士様の家族が乗ってるんだべ。親分どうするべ?」


 親分と呼ばれたその男は、抜き身の刀を自分の肩にトントンと当てながら僕達に近づいてきた。

 刀だ。僕、木刀しかないので奪っちゃおうかな……。でも、この人を気絶させるなり殺すなりして刀を奪ったら野盗と変わらないんじゃ……。

 むむむ……やっぱりヨハンにおねだりしよう。

 でも代償は絶対真剣勝負とか言いそうだしなぁ。


「そうだな、金目のモノを全部出せば許してやるか。おっと勿論その鎧も置いていきな。大人しく出せば命は保証……その鎧……アルステム騎士団長の鎧じゃないか?」


 お? 知っている人がいたか。白の鎧なんて珍しいから、知っている人がいてもおかしくないよね。


「そうだが? なんだ、大人しく捕まる気になったか?」


「バカ言うんじゃねえ! このオークス様率いる野盗をなめるんじゃねえ! いくら騎士団長だからって子供を連れて二十人近くを相手に出来るわけ……あれ?」


「親分? どうしたっぺ?」


「このガキ……なんか見たことあるんだが……女みたいな男のガキんちょ……あああああああ! 俺にゲロ吐いたガキだ!」


 ぶふっ! ちょっとまって! そんな覚えない!


 オークスと名乗る中年の親分は、僕を指差しあらぬ疑いをかけてきた。


「ハル君……ゲロかけるのはかわいそうだとおもうよ?」


「いやいや、僕そんな事した覚えありませんって!」


「親分の友達だべか?」

「オークス親分ゲロ付いているんすか? うわあぁ……」

「友達なわけあるか! こいつを探してくれってドレイクのおっさんに依頼されていたんだよ! てめぇ、サイゼンのギルドで俺の足にかけたろ! っていうか、今はゲロ付いてねーよ!? 何少し離れてるんだよ!」


「ドレイク? 懐かしい名前が出てきたな」


 オリバーが昔を思い出すようにのんびりした口調で一人物思いにふけっている。


 ドレイク? サイゼンのギルドといえば僕が転生した時の街……ゲロ?


「ああああああああああ!」


「ほらみろ! 思い出したろ!」


 僕は思い出した。コングと初めてギルドに連れていってもらった時だ。


 あの時はほとんど言いがかりのようなものだったはずだが。しかし、まったくかかってないかと言われると完全には否定できない。

 だが、この男、そんな昔のことまだ根にもっているとは小さい男だ。


「まってください。その時の男の子と僕が似ているという事ですけど、年齢的におかしくないですか? その男の子は今何歳なんでしょう?」


「む? たしかにそうだが……」


「ハル君だな」

「ハルだな」

「小僧だな」


 後ろうるさい!


「じゃ、人違いということで、またどこかでお会いしましょう。さ、リアムさんいきましょう」


「お、おう。――――――って、まてまてまてえー! 何素通りしようとしてんだよ!」


 盛大に突っ込まれてしまった。横でリアムさんがクスクス笑っているけど漫才していませんよ!?


「あのですね。あなた達のために言っておきますけど、この馬車には本当に凶悪な三人が乗っているんです。リアム騎士団長の言うとおり、大人しく捕まった方がいいですよ? 中途半端に刺激するとみなさん死にますよ?」


「バカ野郎! そんなこと言ってびびらせようとしても無駄だ! 聞いて驚くなよ? 俺を含める五人が、あの王都で有名な殺人集団と言われるヨハン刀術の元門下生だ!」



――――ヨハン刀術道場。


王都の城下町に道場を構えていて、刀を用いた対人戦を想定とした稽古をしている。


高額授業料が必要となるが、ヨハン刀術道場に二年間通った者なら、銀ランク冒険者よりも護衛に向いていると言われている。



 そして、目の前にいる親分の両脇には刀を持つ野盗が並んでいた。

 親分を含めて五人の野盗が元門下生か……。しかし、ヨハン刀術ってそんな風に思われていたんだ。門下生が多いので、ガラの悪い人もいるのは仕方がない。


「ほぅ? 門下生ねぇ……」


 低く威圧感のある声でのそっと天幕から出てきたのは、ヨハン刀術道場の師範だ。

 馬車からひょいと降り立ち、元門下生という野盗に近づくヨハン。


「な、なんだぁてめえは!?」

 無警戒に近づいてきたヨハンに、大きな声で怒鳴る親分オークス。


「んー…………。お前らなんて知らねえなぁ……ただ名前を語ってるだけかぁ、もしくは入って根性足りなくてすぐ辞めた奴かぁ……ま、そんなとこだろぉ」


「な、何言ってんだてめえ!? 適当なことぬかしてんじゃねえ!」

 野盗の親分が、滅茶苦茶動揺しているように見えるのは僕だけだろうか?


「お、おい、趣味の悪い花柄の黒着物。それに赤の髪で刀を持ってるって……」


「あぁ? そんなアホ、ヨハンしか……ん?」


 段々と顔色が悪くなっていく自称元門下生達、ヨハンの事を下から上まで見た後に五人全員が声を揃えて悲鳴に近い声をあげた。


「「「「ヨハンンンン!?」」」」


「アホだぁ? 誰が趣味が悪いってぇ? てめえら楽に死ねると思うなよぉぉ」


 鞘から抜いたヨハンの刀は波紋が赤く、まるで血を吸ったかのような雰囲気を出していた。

 ごくりと生唾を飲む野盗達はすでにヨハンの雰囲気に呑まれていた。


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