第九十五話 僕も?
オリバーは父と母に、ハルの時の話を沢山した。どれもこれもぶっ飛んだ話ばかりするもんだから、僕をみる目が変わらないか心配だ。
父や母はオリバーに僕の小さい頃の話をした。
大人しく、勉学や魔法に剣術を小さい頃から学びみんなにやさしく、家の手伝いもしてくれるできすぎた子だったと、今思えば記憶を引き継いでいるのだから、子供っぽさがなかったのは仕方がないと少し悲しげだった。
神の使徒だとか英雄だとか喜んではいたが、やはり親としてはさみしい部分もあるのかもしれない。
僕の記憶は三歳くらいから徐々に思い出してきて、全部記憶が戻ったのは四歳くらいだった。
なので、赤ちゃんの時に泣いたり笑ったりしたのは精神年齢がそのままの僕だ。
四歳になる頃には記憶が定着して精神年齢が一気に上がったので、急に大人びた子供になったことだろう。
かわいくない子供でごめんなさい……。
いつの間にか夜になり、外はすっかり暗くなっていた。
「さて、そろそろ行くか」
オリバーが立ち上がると、皆が次々と立ち上がる。
「国王様、本日はわざわざこんな遠くの小さな村まで足を運んでいただきありがとうございました」
「ハル君をこのように立派に育ててくれた事、感謝する。本来ならば長男であるハルカは跡取りとして他にもやることはあっただろう。それなのに剣術等をすることを許してくれたことを礼を言う」
「そ、そんな国王様に礼を言われることではっ!」
「リアム、例の物を」
「はっ」
床に置いたあった布袋から取り出したのは、スイカサイズの布袋だった。
「これはハルカを大切に育ててくれたお礼だ。まるでお告げとやらに見透かされていたかのようだが……」
「き、金貨がこんなに!?」
それは袋一杯に入った金貨だった。
「ハル君はアルステムの恩人であり、神の使徒でもある。感謝する」
「それと、この村への支援金を増やしておこう。皆ハルカと仲良くしてくれたのであろう。
それとガジェットよ、硬貨が沢山手に入ったからといって自堕落な生活をするなよ?
私はこの村の果実から作られる果実酒が大好きでな。それに神様も見ているかもしれんぞ?」
「もちろんです! 神に愛されている子の親として恥じぬように生きていきます!」
「では……邪魔をしたな」
そう言い残し外に出る一行。いつの間にか周りには村人が集まって来ていた。
どうやら門番がいい広めたみたいだ。
しかし、失礼のないように少し離れた所から見守っている感じだ。そりゃそうか、失礼があって罰を受けるはめになっては、たまったものではない。
僕と家族は見送るために外に出て横並びに並んだ。
馬車に乗り込む直前のオリバーはじっと僕の方を見ている。
「ハル君なにしてるんだ? いくぞ」
「は? え?」
「は? じゃないだろう。もちろん君も王都へ行くんだろ?」
えええええ!? そんな話聞いてないし、急すぎる! たしかに十五歳の成人になったら、一人で王都へいったり、ソマリの様子を遠くから見てみようと思っていたけど……。
「なんだ小僧、まだソマリを放っておく気か?」
「あ、いえ、まだ心の準備が、というかですね……」
「ハルの刀術が鈍ってないか見てやらないとなぁ、くく……腕がなるぜ」
そう言って鞘から僅かに抜き身を光らせるヨハン。絶対殺られる……!
リアムさんに助け船を求めるがニコニコとしているだけで何も口を挟む気はないようだ。
この人達が言い出したことを止められる人がいるわけがない。
着替えなんかもどうせ向こうについたら用意してくれるだろうし、滞在費も持ってくれるだろう。
いや、僕を強制的に拐っていくんだから、全部オリバー持ちにしてやろう。ヨハンには刀と袴と……。
「ハルカ、行っておいで。国王様がああ言っているんだ」
「はい。えっと……あの……僕はまたここに戻ってきてもいいでしょうか?」
「勿論だ。お前は私たちの子だ」
そう言う父と母はギュッと僕を抱きしめてくれた。
「……ありがとう。どれくらい向こうに滞在するかわかりませんが、必ず戻ってきます」
「わかった。落ち着いたら手紙でも送ってくれ。国王様にご迷惑をかけるんじゃないぞ」
僕が迷惑をかけるんじゃなく、僕が迷惑をかけられそうな予感しかしないんですけど……。
こうして、僕はオリバー一行と共に王都へ行くことになった。
村で食料を調達しておき、馬車の中で晩食を食べながら移動をしていた。
で……馬車の中では質問攻めにあっていた。
「なぁハルよぉ? お前の頭の中での稽古相手は誰だったんだ?」
ヨハンの腕が僕の肩にのしかかる。
「ヨ、ヨハンさんです」
「だよなぁ? 俺とは沢山やりあってるしなぁ……ところで俺相手に魔法を使う余裕あるってのか?」
ひいいいいいっ! なんでバレたんだろう!?
「け、牽制程度に……」
「それがぁ命取りになるってことを思い知らせてやるぜぇ」
やだ、こわい! なんかヨハンさんたまってるんじゃないの!? 稽古相手いなかったの!?
今度は反対側から僕の肩に腕をかけるラグドール。
「小僧、オレと殺るのが先だよな? 約束をまだ守ってもらってねえよな」
十五年近く昔の約束を今持ち出してきたよ! それにやる、が殺るに聞こえたのは気のせいだろうか?
「そ、そうですね……でも刀持ってないですし……」
「アっ? ソマリから返してもらえばいいだろ?」
「ソマリさんの中で、前の僕と今の僕が同じに思えないかもしれませんよ? 実際別人なのだし、ただ記憶が残っているというだけで……なので、刀は前の僕の形見として思っているのなら、きっと反感受けますよ?」
「ああもう、ぐだぐだうるせえ。見た目はほとんど昔のままじゃねーか? 小僧は小僧だろうが。余計なこと考えずにソマリをさらっちまえばいいんだよ」
「さらうって……ラグドールさん、娘が大事じゃないんですか?」
「大事にきまってんだろーが!」
ひゃぁ、言い方間違えた!
「こ、こんな成人前の小僧でいいのかなってことです!」
「あのなあ……小僧以外ありえねぇって思ってるから、ソマリはずっと一人なんだろうが。あいつ、村に戻ってから小僧が側にいないもんだから、どれだけ求婚されてると思ってるんだ?」
「そんなに? ソマリさんあの村のアイドルでしたもんね」
「まぁ、今は別の若い受付嬢がチヤホヤされてるがな、それでもソマリのファンは今でもいるみたいだな」
そろそろ営馬を止めて夜営をしよう考えていたリアムが馬車の外から声をかけてきた。
「あー、お話し中申し訳ないんですが……どうやら友好的ではないお客様がおいでです」
どうやら野盗が現れたらしい。僕ってトラブルを引き起こす体質なのか? 神の加護はないのか?
「ほぅ、こないのかと思っていたが来てくれたか」
「おっしゃぁ、早い者勝ちだなぁ?」
僕は勘違いしていた。野盗を待ちに待ってる人達がいたなんて……。




