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第九十三話 おひさしぶりです

 

「ハルカは何をしているんでしょう?」


 村長が疑問に思うのももっともである。

 鉄の棒を構えたまま、ピクリともしないで立ち続けていた。


「ふぅん……あいつの相手は俺だろうなぁ」

「えっ?」


 村長はヨハンの言っていることがわからず、頭の上にハテナマークが飛び交っていた。

 今のハルカはイメージトレーニングをしている最中だった。


 よくみると時折魔力で身体が白くなっていた。


「あのやろう……俺と戦っている最中に魔力を練る余裕なんて有るわけねぇだろお」


「わかんねーぞ? 案外余裕があるのかもな? そもそもなんでオメエが相手なんだよ」


「あぁ? ラグドールよぉ俺に喧嘩売ってんのか? あいつとは俺が一番やってんだよお」


「ばか野郎! ヨハンもラグドールも静かにしろ! 気づかれるだろ!」

「「おめえが一番うるせえよ!!」」


 三人の揉めている声がハルカを振り向かせた。


「「「あっ……」」」

 三人揃って、しまった……という顔をしているがもう遅かった。


 リアムはこの三人をまとめることなどできるはずがないとため息を吐いた。一体何度目のため息だろうか……と一人苦労が絶えなかった。


 ハルカはこちらを向いたまま立っていた。

 仕方なくハルカの元に行くことにした一行はゆっくりと歩み始めた。


 すぐにハルカは誰が来たのか悟ったようだ。

 すこし、困った顔をした後に笑顔で挨拶をしてきた。


「えっと……はじめまして、僕はハルカと言います。おじさん達は誰ですか?」


 オリバー達は目を細めて、「なに言ってるんだこいつは……」というような目で見下ろした。


 国王のそんな顔を見てしまった村長は冷や汗がドッと出た。

 きっとハルカの失礼な物言いのせいだろうと勘違いしてしまい。ハルカの頭を押さえつけて必死に誤りだした。


「も、申し訳ありません! いつもはこんな失礼なことは言わない子なんですが!」


 いくらハルカが子供でも、高貴な人と想像がつくような相手に「おじさん」と言うとは思ってもみなかった。


 ハルカは幼少期から丁寧な言葉使いで一体誰に習ったのやらというほどしっかりしていた。いままでも何度も果樹の取引の際、他の街から来た商人と挨拶を交わしていたが、皆に誉められるほどの完璧な接客だった。


 それなのにこんな大事な時に限って、こともあろうか国王に「おじさん」などと……。村長は生きた心地がしなかった。


 実のところ、ハルカはかなり動揺していたのだ。まさか勢揃いで自分の前に現れるとは、まだ心の準備もできていなかったため、なんて言って誤魔化そうかと思いながら、村人相手に使うおじさんという言葉がポロリと出てしまったのだった。


「村長、どいておきなぁ……俺がこいつの目ぇ覚まさせてやらぁ」

 そう言ってカチャリと音をたて、刀を抜くヨハン。


「あああああ! 許してやってください! 申し訳ありませんでした!」


 さすがに事態がややこしくなってきたので、大きな溜め息を吐いたリアムが割って入った。


「ヨハンさん、村長が困っていますし少し落ち着いてください。――――ってなんでオリバー様まで剣を抜いているんですか!?」


「おっ? そりゃ、とぼけてるハル君をこらしめてやろうかと……」


「なるほど、じゃオレからやらせてくれ。この小僧のせいでオレの大事な娘が死んじまったからな」


(――――僕のせいでソマリが死んだ?)

 バッと顔をあげてラグドールに顔を向けた。


「なんでソマリさんが!?」


「おっと、言葉足らずだった。死んだように元気がなくなった、だった」


「えっ……」


 ……………………。


「かまをかけられたっ!」

 ハルカは頭を抱えてしゃがみこんだ。


「ラグドールよくやった」


 そう言ってラグドールと拳を重ねるオリバーは、面白いものをみるように顔をニヤニヤさせた。





 観念したハルカは腹を割って話すことにした。


「お、おひさしぶりです……」


「よう、ハル君は元気そうだな……いや、今はハルカなのか……? ややこしいな……」

「どっちでもいいですよ……」


「おめぇ、そんな鉄の棒じゃ勘が鈍るぞ? 刀使え刀をよぉ」

「村に刀なんて売ってませんし、おこずかいもありませんよ」


「小僧久しぶりだな。なんでソマリに会いに来てやらねえ? まぁ、年が離れすぎたか……?」

「年の差は関係ありません!」


「だったらオマエがいるってことを教えてやりな。ソマリは毎晩オマエの刀を抱きしめて寝てるんだぞ」


「えっ……ソマリさんは結婚しなかったんですか?」


「オマエを基準にしたら、他のヤツと結婚なんてできねーんだろうよ」


「えぇぇ……ソマリさんは小さくて可愛い男の子が相手なら誰でもいいと思いますよ……」


「ガタガタうるせえ! とにかくソマリに会いに行け! そのあとソマリとどうしようが勝手だが、とりあえず会え!」


「うむ、私も会った方がいいとおもうぞ」


「オリバー騎士団長……みんなでここに来たということは……僕との秘密をみんなに話しましたね?」


 ハルカから顔を背け、咳払いをするオリバーは話題を変えることにした。

「ゴホゴホ……えっとな、今の騎士団長はリアムがやってる」


 そういって親指をリアムに向ける。


「えっ、じゃあオリバー騎士……オリバーさんは隠居ですか?」


「ハル君……君、少し図太くなったね?」


「そうでしょか?」


 キョトンとするハルカの横で、父親のガジェットが震え声でハルカを叱るようにオリバーの名前を口にした。


「ば、ばかもの! この御方はアルステム・オリバー・グレーム様、アルステムの国王だ!」


「えっ?」


 驚くハルカに、オリバーは「フフン」と、ドヤ顔をハルカに向けるのだが……。ハルカの反応は予想を反した。


「国王様になっちゃったんですか? 大変そうですね」


「か、軽いな……」


 もっと驚いてくれるのを期待したオリバーだが、同情されてしまったのだった……。


 ようやく村長ガジェットは理解した。ハルカは、国王達とすごく仲が良く、砕いて話せるような間柄なのだ。


 しかし、いつ仲良くなったのだろうか?

 今日、訪問してきたときは、まだ国王達はハルカの事をよく知らなかったはずだ、それなのに顔を会わすとまるで古友とあったかのような感じだった。


「ハルカ、どういうことか話を聞かせてくれるか?」


「うん……でも、母さんにも聞いてもらいたいから家に帰ってからで……」


 父ガジェットにどこまで、そしてどのように説明するか頭を悩ませるハルカだった。



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