第九十一話 突然の訪問者
門番の言うとおり、周りより一回り大きな家だったのですぐにわかった。
家の裏手には果樹園が広がっていた。
村長は果樹園を営むようだ。
つまり例の子供は村長の息子ということになる。
御者をつとめるリアムは馬を止め、真っ先に馬車から降りて村長の家の扉をノックした。
いきなり国王に話しかけられては、たまったものではないだろう。
先にリアムが話しかけることにより、少しだけ心の準備をさせてあげようというリアムの配慮だった。
出てきたのは、五十から六十歳くらいのふくよかな女性が、美味しそう野菜スープと思われる美味しそうな匂い共に出てきた。
どうやらお昼ご飯を食べていたようだ。
女性はリアムの姿をみて一目で普通じゃない人が来たと悟った。
なぜならリアムは、騎士団長のみが着ることができる白い鎧を着ていたからだ。ただの冒険者ではありえない。
勿論この女性には、リアムが騎士団かどうかなどわかるはずもないが、軍の偉い人だろうという程度の認識である。
そしてリアムの後には、この村では滅多に見ることのない獣人がいた。
その隣には、あまり見たことのない黒の着物を着た男性。真っ赤な髪に黒袴には赤い花模様がほどこされていた。腰には剣ではなく刀を刺していて、素人でもわかるくらい刀術の達人だと感じさせていた。
そしてその後には、まず一般人が着けることのない真っ青なマントを羽織っている男性がいた。女性からはマントに施されたアルステムのエンブレムが見えなかったが、この中で一番偉い人だとわかるくらい、明らかに高貴なオーラを出していた。
「失礼ですが、どちら様でございましょうか?」
リアム達に向けられた言葉は丁寧な言葉だった。
女性は困った。自分の方が身分が下だろうとはわかるが、向こうから訪ねてきたのに、こちらから名乗るわけにもいかず、仕方なくリアム達に名前を聞くことにした。
「いきなりの訪問で申し訳ない。私はアルステム国、王都騎士団の騎士団長のリアムだ」
「き、騎士団長様!?」
リアムの方を向いたまま数歩距離をとった女性は頭を低くした。
リアムの声が聞こえていたのか、奥からバタバタと走ってくる二人分の足音。
現れたのはふくよかな女性の顔立ちによく似ている、三十五歳くらいと思われる男性は、日頃の農作業で力を使うのであろう、褐色の肌の肉体が男らしかった。
そしてもう一人は、その男性の妻であろうと思われる、女性は三十歳くらいか。茶髪で細めの体格の女性は男性の少し後ろの位置に立った。
「騎士団長様、わたくしは村長のガジェットです。こちらのわたくしの母のガジェス。そしてわたくしの妻のハーニャです」
最初に出てきたふくよかな女性が、村長の母ガジェス。
村長の後ろに大人しく立っている茶髪の女性が、村長の妻ハーニャ。
そして村長のガジェット。
そして、リアムが他の三人を紹介するのだが……。
「えっ!? こっ! こぉっ!? アルステムの国王様!?」
勢いよく後退りした村長は木の椅子にぶつかって盛大転んでしまった。
リアムは「やはりこうなりますよね……」とため息を吐いた。
そして姿勢を正し、膝をつき地面に手をつけて、大きな声で挨拶を始めた村長のガジェット。
「ここここっ! 国王様このたたたたた度は、こんな何もない小さな村に来て来ていただきかかかか感謝を申し上げます!」
ガチガチに緊張をして、冷や汗をだらだら流す村長。村長にならって膝をつき手を地面につける、母ガジェスと妻ハーニャ。
「そんなに固くならなくてもよい。事前の通達をしないばかりか、家にまで上がり込んでしまって申し訳ない」
「い! いえ! 国王様をこんな狭い家に入れたとあっては私の責任が問われます! すぐに集会所で歓迎の支度をさせますので、ここよりは広いところなので……どうか、いましばらくお待ち下さい」
「いや、そういうのはよい。あまりゆっくりしていられないのでな」
「で、では、どのようなご用件で?」
「そなたの息子に会いに来たのだ」
「えっ!? ハルカが何かとんでもないことをしでかしたのですか!?」
「ほう、ハルカというのか……」
名前を聞いた一行は顔を合わせて「やはり」と納得した顔をしていた。
「それで息子はどのようなことを……」
村長のガジェットは恐る恐るといった感じで聞くのだが、ハルカが何かしたというわけではないのだが、そんなことは村長は知るところではなかった。
「ガジェットよ。なぜ息子にハルカと名付けた?」
すくみあがる村長は、生きた心地がしなかった。
なぜハルカと名付けたか、と聞かれ、真っ先に浮かんだのが、ハルカという名前は実は付けてはいけない禁じられた名前だったのか!? と、そんなことを考える村長は脂汗が止まらず、どんどん顔色が悪くなっていった。
「す、すみませんでした!」
「……なぜあやまるのだ……?」
「ハルカと名付けたのは産まれる前日の夜、わたくしと妻が同じ夢を見まして……」
「ほう……」
一行は興味深そうに話を聞く姿勢をとった。
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