第八十六話 みんなからのメッセージ
いつの間にか日が落ちる間近になり、薄暗くなってきた空が紺と赤の混色になっていた。
次第に城下町に立ち並ぶ、街灯の油に火が灯されていく。
魔力を限界まで使うと体にどこかに異常がでるらしい。最初は頭痛か吐き気程度だが、そのまま使い続ければ目や耳よ肺など様々な所がやられていく。
そのため魔法使いは頭痛や吐き気などがあらわれたらそこが限界ということになる。
しかし今の僕は、体力の消耗と、穴の空いた腹部と足から流れる血液。加えて魔力の使いすぎにより目に異常があらわれ……視界がハッキリ見えなくなってきていた。
「小僧……ヨハンに刀を造ってもらって、鍛えてもらったらオレと戦う約束だよな?」
この声はラグドールか。目がボヤけて誰だかわからないぞ……。
しかし、今そんなこと言われても……。
「だから、まだ死ぬんじゃねえぞ。元気になってオレと勝負しろ。これ以上ソマリを泣かせるんじゃねえ」
………………ラグドール……こんな時に何をいうんだと思ったが励ましてくれてるのかな?
「そうだぜぇ、俺もまだやりたりねぇぞ」
ヨハンとは稽古試合を沢山したでしょう……。本当にヨハンは戦闘狂で困る。でもヨハンのおかけで剣術を学べた。
ヨハン相手だからこそ、ほぼ本気を出した稽古試合もでき、とても充実していた。
そして聞きなれない声の人物が、僕に話しかけてきた。
「勇敢な少年ハル。この王都を、いや、アルステム領土を守ってくれてありがとう」
誰だ? この声は……そうだ、国王様だ。……たぶん。アルステムをと、国の事を言っているので国王で間違いないだろう。
「君がいなければアルステムは失くなっていただろう。そればかりか禁忌魔兵にされてしまった者達まで治してくれるとは……まさに神の成せる業」
またここでも神認定だ。本当の神様はもっとすごいんですよ。とても美人なんですよ。少しオチャメな所あったけど……。
「だが、まだ油断はできない状態だ。マクラム兵がこの王都に向かってきているみたいだからな」
少し離れたところにいる民間人の耳に入ったようで、驚きの声が上がりだした。
「なんだって!? マクラムが!?」
「禁忌のあとはマクラム……! なんてこった!」
「そんな……アルステムはどうなるんですか!?」
「国王のお考えをお聞かせください!」
「皆の者、落ち着いて聞いてくれ。今回の禁忌魔兵の件は私に落ち度がある。責任はこのアルステム・ディスパー・グレームが命をもって償おうつもりだ。
しかし、今すぐというわけにはいかないのだ……禁忌魔兵になったアルステムの民を元に戻し、マクラム国からの脅威を消し去るのが先であろう。
そして、この禁忌魔兵で被害を受けた者、また、そ家族には見合った賠償する。それまではどうか待っててはくれぬだろうか!?」
国王は命をかけて責任とる。自らそう告げた国王だが、まずは国を守ってからだということだ。そうだ、まだマクラム国の脅威が残っている。王都の禁忌魔兵を沈静化して、迫り来るマクラム国との戦争があるのだ。
だが、マクラム国もデモンが失敗したのは誤算なことだろう。
どうやら民衆からの強い反発はないようだ。もちろん死んでしまった者は戻らないのだから、いくら賠償されても許せないと思う者もいるだろう。しかし、賠償に加え一国の王が自らの命をかけて責任をとるということであれば、これ以上求めるものはないだろう。
僕の手を強く握りしめるソマリ。突然大きな声を出した。
「うるさいうるさいうるさーい!」
「ソ、ソマリ?」
ラグドールがソマリの怒鳴り声に驚いている。
「みんなうるさいです! ハル様がっ! ハル様がこんな状態なのに……!」
ソマリ……。
そう言ってくれるのは嬉しいけど、今は国の危機の最中だから――――――
「責任とか国とかどうでもいいんです! みんながハル様を神様と言うなら……言うなら……その神であるハル様の……さ、さい、グズッ……最後の言葉を聞いてあげてください!」
ソマリは僕がもう助からないって分かっているんだろう。そうでなければ決して『最後の言葉』なんていわないだろう。
ソマリが話す機会を与えてくれたのだ。コング、ラルク、シルビアを僕の元に呼んでもらった。
「ハル……」
この声はコングだ。
握られた手は剣の稽古でできた豆があり努力をしているのがよくわかる。しかし、ラルクさんのようなゴツさはなく、まだまだ子供なんだなと思わせた。
「右も左もわからない僕に……色々教えてくれて、ありがとう……」
「最初はハルに嫉妬ばかりしてたけど、ハルを見てたら張り合うのがバカバカしくなっちまうよ。でも、おいらもハルみたいに強くなってやるから」
「うん……楽しみにしてる」
「ハル」
ラルクさんだ。
「シルビアが毒に侵された時、お腹の子供を助けてくれてありがとな。そして今度は禁忌魔兵になっちまった俺達を助けてくれてありがと。お前には助けられてばっかだぜ」
「何言ってるんです……最初に困っている僕を助けてくれたのは、ラルク……さん……ですよ。僕の前に立ちはだかってくれた時からラルクさんは、僕の憧れでした」
「バカ野郎……俺より強いのに俺なんかに憧れるんじゃねえ」
「ほんとよね。こんな男に憧れを抱いちゃダメよ? 憧れるならオリバー様とかにしないと」
シルビアさんは相変わらずラルクさんにキツく当たるな。
まあ、この二人はじゃれているようなものなんだろう。
「ハルちゃん、私からもお礼を言わせてちょうだい。お腹の子を何度も助けてくれてありがと。ハルちゃんのことを話して育てるから、きっとハルちゃんみたいに……優しくて……グズッ、強い子に……」
「バカ野郎、お前が泣くと俺まで……グスッ」
「おいらだって我慢してたのに……!」
皆泣き出してしまった……。お別れと思うと僕も悲しくなる。
「私もハル様とお話したいです」




