第八十五話 約束
オリバー騎士団長、国王ディスパー、第一王女カレン、第二王女クロエ、副団長のジャックとリアム。皆が僕の名前を呼んでいる。
リアムが僕に治療魔法をかけ始めたけど、この世界の治療魔法程度では助からないのはわかっている。
僕よりも他の皆に治療魔法をかけてあげて欲しい。
そして遅れて、ラグドールとソマリが僕の名前を呼ぶ。ソマリはなんだか怒っているみたいだ。
あ……ラルク、コング、シルビアの声もする。よかった……禁忌魔兵から解放されていたんだ……。
顔をあまり動かさないで、目だけで周りをみるとラルク、コング、シルビアは少し離れた所から心配そうにこちらを見ている。
そうか、僕を抱いてくれているのは、僕の刀術師範のアルステムの三剣の一人ヨハン刀術道場の師範だ。
そして横にアルステム三剣の一人であり、王都騎士団長のオリバー。
そして国王ディスパーと王女二人が側にいる。
そして娘の泣き顔を悲しそうに見つめるアルステム三剣の一人であり、獣人の村ドベイルのギルドマスターのラグドール。
ビッグすぎる顔ぶれである。関係者以外近くに寄るのもおそれ多いだろう。
しかし、まだ死ぬわけにはいかない……。遠く離れた所の禁忌魔兵はそのままのはずだ。どうせ僕は助からない、それならば一人でも多くの人を助けたい……。
ヨハンに抱かれたまま、重い手をソマリの声のする方に上げようとすると、察してくれたソマリが慌てて手をとってくれた。
僕はソマリの手に触れ、意識が身体の痛みからソマリの手に移ることにより、僅かでも痛みが和らいでいるような気になった。
僕の声は聞き取りにくいほどの小さくか細い声だった。
「大きな樽を……用意してください」
「大きな樽?」
僕は小さく頷く。すぐに誰かが大きな樽を持ってきてくれた。
僕は大樽の上に手を持っていく。大きさは多分僕が丸まってすっぽり入るくらいの大樽だろう。
今から使うのは僕が一番使っていた水の魔法だ。
火の魔法も使えたが火種として使う程度だ。
森林が多いこの世界では火の魔法を使うのは怖かったからだ。
どんなときでも水というのは必要なので重点的に練習をしていた。その延長線で『水弾』と名付けた遠距離攻撃魔法を開発していた。
この世界の魔法は詠唱ではなく、大気中にある魔素を取り込み体内で自分の魔力を同量に合わせることにより発動を可能となる。
ただし目で見えるものではなく、感覚的なモノなので同量にするのが困難なのだ。
しかし、僕の場合は例外のようでその感覚的な部分がものすごくハッキリとわかるのだ。才能とは思えない。ほぼ間違いなく神様から分けてもらった力のおかげだ。
なので、大樽程度の水なんて練る間もなく一瞬で出せてしまう。
魔力を練ろうとしたところソマリが震える声で怒りだした。
「もうやめてください! これ以上は……し、しん……えぐっ」
なぜ魔法を使うとわかったのだろう……。しかし、これは禁忌魔兵を解放するための水だ。魔法を使わないでほしい、というソマリに対し申し訳なくも思いながら魔法を使った。
一瞬身体が水色に光った後、大量の水を出し樽から水が溢れこぼれた音がした。
僕が練って作り出した水は解毒効果、つまり禁忌魔兵を元に戻す効果がある。
一人一人飲ますわけにもいかず、霧状にして大気中に放ったのだ。僅かにでも僕の作った水分が体内に入ってくれれば効果はあるだろうと思っていた。
そして思った通りの結果となり、この辺り一帯の禁忌魔兵を解放することに成功した。城内やこの付近の城下町は大丈夫だ。
ただデモンやドレイクが王都のどこまで手を広げていたかわからないため、あとどれくらい禁忌魔兵がいるのかわからない。
本当ならば王都を包み込むくらいの霧を出し、まとめて解放させたいが今の身体ではそれもできそうにない。きっとこの近辺までしか飛ばすことができないだろう。
そこで考えたのが樽に僕の作った水を溜め、その水を各兵士や騎士団の方に携帯してもらい禁忌魔兵の口に少量でもいいので飲ませれば解放されるだろう。
もちろん向こうは殺す気で襲いかかってくるのだから大変だろうが、少しでも助かる人がいたらいいなと思い、咄嗟に考えた苦肉の案であった。
「これを、禁忌魔兵にのませて……」
「こ、これを飲ませれば禁忌魔兵から元に戻るのか?」
「はい……」
「まさか……そんな魔法があったなんて……わかった。ハル君の作ってくれた貴重な水。無駄にすることなく多くの禁忌魔兵を救ってみせるさ」
オリバー騎士団長のハキハキとした力強い意志が僕を笑顔にしてくれた。しかし力の入らない顔の筋肉だ。きっとだらしなくヘラっと笑ったことだろう。
するとオリバー騎士団長の言葉を拾った民間人が様々なことを言い始めた。
「なんとっ……!? あの水は禁忌の魔法を打ち消すことのできる水なのか!?」
「俺達を助けてくれたこの子は神の使いなんじゃないか?」
「そうだ。きっと、水の女神様なのだろう」
「ああ……女神様に感謝を……」
えええ……なんだか周りから崇拝されだしたぞ……。と、いうか僕は男なので女神ではない。
僕の手を握ったまま、泣きじゃくるソマリの側で、オリバー騎士団長が指示を出し始めた。
「早急に各隊員水筒を用意せよ! ジャックの部隊は城内の騎士団施設へ取りに行け。あと王宮魔法施設へも要請を出せ。
リアムの部隊は、この近辺の民家や店、ギルドから調達しろ。
事は急ぐ! 行け!」
「「「「はっ!」」」」
ドカドカと沢山の足音が遠ざかっていった。
そうだ、ガウルの件を伝えないと。
「ガウルを……よんで」
「わかった」
しばらくすると毛の多い手が僕を触る。
『オマエ、死ぬのか?』
『はは……たぶん……。あなたを逃がすように……言っておきます』
『オマエ死にそう。オレの心配いらない』
『約束、したから……』
『…………オマエの名は?』
『……ハル』
『アリガトウ、ハル。名は忘れない』
その後、オリバー騎士団長に「ガウルを逃がしてあげてください」とお願いすると、二つ返事で了承してくれた。以前、ガウルの事はオリバー騎士団長に相談してあったので話が早かった。
ボロボロの体のガウルが、デモンを倒すために手を貸してくれたのは事実で、ガウルがいなければデモンに逃げられただろう。
その事を考えれば手厚い待遇が望ましいことはオリバー騎士団長もわかっていた。
ガウルがいつ旅立つのかわからないが、それまでの間、食事と治療は任せてくれと、オリバー騎士団長が約束してくれた。
これでガウルとの約束も果たせた……。
読んでくださってありがとうございます!
もう少し続くのでまた読みに来てください♪
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